つまり、1人に絞らなければいいのよね
「誰か1人のものになることに、周りが耐えられない……」
私が呟く。
真くんが慌てたように、
「ごめん、小学三年生の君に聞かせるような話じゃなかったよね。本当にごめん」
「真くん、ありがとう。とてもいいアドバイスを聞けたわ。それと私のことを子供だと思って『この話は聞かせていいかな、聞かせないほうがいいかな』とか考えないでちょうだい。あなたが心の底から思っていることなら何でも言ってちょうだい。……ああ、大丈夫よ。少しばかりHな感じの話になったとしてもそれがきちんと真くんが考えてしてくれている話ならなんの問題もないの」
「とは言ってもなあ。さっきみたいな僕の小学生の頃の初恋の話みたいな可愛いものならともかく、これから君に起こるであろう男を巡る話ってのは……なんというか、今の君にしても仕方がないというか役に立たないというか……」
「本当にそう思う?」
私は真くんの目を真っ直ぐ見つめながら質問する。
「今ですらこうなの。まず、小学三年生の私と真くんが一緒に高級な和食のお店で食事をしている。これって既に異常なことよね?知り合いですらなんでもない、さっき出会ったばかりよね、私たち」
「う、うん……」
「出会ってすぐに真くんは私に声をかけて、それですぐに食事をする約束をして、そして個室のある高級和食店に来て一緒にお話しているわ。ずばり聞くわよ真くん、こういうの、他の小学生相手や美人であっても大人の女性にあなたはしたことがある?そして、これからもする予定はある?」
「……ないね。うん、ない。小学生相手なんて当たり前だけど君が初めてだし、これからもないだろう。大学生の頃に友達と一緒に何度かナンパのようなことはしたことがあるけど、今回の君に対してしたようなこととは全く違うものだと思う。そして、社会的な地位が少しばかり高くなってからは、そんなリスクのある行動は一切していない」
「でしょう。今こうやっていること自体が『将来、私が男絡みでどういった目に遭っていくか』の証明になっていると思わない?自惚れているとかそういう話じゃなく、間違いなく私は今後男絡みのトラブルから逃げられない。必ず起こる。100%よ」
「うん、間違いなくそうなるだろうね。そして補足するなら、男絡みだけじゃなく女性とのトラブルも起こるだろう。嫉妬ってやつさ」
「そうね、そっちも起きるでしょうね。だけど女性とのトラブルは、やはり男性ありきだと思うのよ。『私の好きな人が妙に綺麗な女に首ったけになっていて悔しい』『私の彼氏が突然別れを切り出してきた。話を聞いてみるとなんだか怪しい女がいるようだ』、この手のやつね」
「そうだね、ただ君が綺麗だから嫉妬するという感情ももちろんあるだろうけど、それとは別にそういったことも起きるはずだ」
「これから3年過ぎれば小学六年生。そしてすぐに中学生よ。女性らしい体つきにもなっていくだろうし、それとこれは確信に近い予感なんだけど、ますます魅力が上がっていくわ」
「ほぼ確定した未来だろうねそれは」
「その時に、何も対処法を知らずにいたというのは命取りになるの。だからさっきの真くんの話はとても有意義なものだったのよ」
そこまで話すと、お店の人がお料理を運んできてくれた。
「コース料理なんだけど、できるだけまとめて運んできてもらうよう頼んでおいたんだ」
「ありがとう真くん。コースでの料理なんて食べたことがないから嬉しいわ」
魚の煮付けに箸を伸ばすと、簡単にほろほろとほぐれる。
口に運ぶと今まで食べたことのないような香りと旨味が広がった。
「真くん、美味しいわねこれ。食べたことないわこんな美味しい魚」
「喜んでもらえて良かったよ。ここは本当に魚料理が上手くてね。焼き魚も美味いんだけど煮付けが本当におすすめなんだ」
「こんな美味しいお料理を食べさせてもらって、質問にも答えてもらって申し訳ないわ。今の私には何のお礼もできないけどいつか必ず返すわね」
「気にしないで。僕が勝手にやっていることだ。それに君からは200円貰っているじゃないか。君の全財産かもしれない200円を。そう考えると今日の食事代くらい僕にとってはなんでもないんだよ。ここの食事代で僕が全財産払わなきゃいけないわけがないんだからね」
「ありがとう」
本当に美味しい。
無心で魚以外の料理にも箸を伸ばす。
あれ、でもこういうのって……
「でもこれって、港区女子とかいうのと同じ?」
「バカなこと言わないでくれ。テレビかネットで見たんだろうけど全然違うから。彼女らはね……………ええっと、君にそんな情報を聞かせることすら憚られるんだ。それに君は、あと数年したら彼女ら全員が束になっても敵わない美しさになるはずだよ。世の男たちはみんな、なんの見返りもなしに君に全てを捧げたくなるだろうね」
「ふふ、大げさよ真くん。私知ってるんだから。綺麗な人ばっかりなのよね港区女子の人たちって」
「本当のことなんだけどなあ」
「さて、じゃあさっき真くんにしてもらったアドバイスを踏まえた私なりの結論なんだけどね……」
「うん」
「つまり、1人に絞らなければいいのよね」
「……うん?」
「だって真くんが言ったんじゃない。誰か1人のものになった瞬間に男達は耐えられなくなるって。だったら1人のものにならなければいい。単純なことでしょう?」
「……えっと……うん?」
「真くん、目の前の私をよく見て。あと数年したら、どのくらい告白されたりすると思う?そして、その中の1人を選んだ瞬間に周りの男は嫉妬で狂う。そうよね?」
「……うん、まぁ、そうだ。僕が言ったことだからね。そうなるよ確実に」
「なら、全員というのは無理だけれど何人も愛してあげればいい、そういうことよね?」
「いや、あのね、普通交際するってのは1人と……うん、自分で言ってて矛盾していることは分かっているけど、それでも、同時に複数人と交際するというのは不健全だよ」
「普通ならそうね。ただ、誰ともお付き合いしないというのは不可能だと思うのよ。『あの女はあんな綺麗な顔してるのにフリーらしいぞ』って話が広がったら際限無く群がられるわ」
「確かにそうだ」
「なら、私が認めた男とお付き合いしていた方がいいと思わない?『あの女はあんな綺麗な顔してるけど何人もの男をたらしこんでるとんでもないやつなんだ』って噂が広がったほうがいいと思わない?」
「うーーーーん、僕が今までの人生で培ってきた常識と違いすぎて今すぐ結論が出せない。ちょっと考えてもいいかい?」
「もちろんゆっくり考えて。真くん、それと部下の人に電話するのを忘れないでね。大切なお仕事の連絡でしょう?夕方まで真くんとは一緒にいたいしね」
「あ、そ、そうだったね、後でちゃんとかけておくよ。それにしても『真くんと一緒にいたい』か……今まで何度もそういうセリフは言われたことがあるけど、ここまで胸がときめいたのは初めてだよ。参ったな……あ、これ大切だから言っておくね、僕は決してロリコンとかそういう類の人間ではないからね」
私がクスクスと笑いながら『分かってるわよ真くんたらおバカさんね』と言うとまた真くんは胸を押さえて黙り込んでしまった。




