君が誰か一人のものになるということに、周りの男は耐えられない
「真くんの小学生の頃のお話を聞かせて欲しいわ」
私が切り出す。
「真くんは、きっと私の知らないような広い世界のことを知っているのでしょうね。お仕事のこととか、それ以外にも色んな所に行ったことがあるのでしょう。でも私が聞きたいのは小学生の頃のお話よ。だってお仕事のこととか多分私聞いても分からないもの」
「ハハ、それはそうだよね。僕も君と仕事の話をしようとは思っていないよ。うーんとでも小学生の頃の話か……結構前のことだからなあ。ちゃんと話せるかどうか……
「そんな年でもないでしょう」
「いやいや確かに大人の世界じゃまだまだ若造だけど、もう小学校なんて大昔の話だからね」
「真くんの恋の話を聞いてみたいわ。つまり、恋バナよ恋バナ」
「君みたいな子の前で僕の恋愛の話をするのはちょっと恥ずかしいな……」
「小学校の頃の話よ。誰を好きだったとか、その子はどういう性格だったとか、可愛かったのかとか、そんな話よ」
「うーん、確かに好きな子はいたよ。君の年よりももう少し上の学年になってから……かな?あ、君は今は小学……」
「三年生よ」
「うん、そのくらいだよね。低学年か中学年かってところだとは思っていた。ちょっと容姿が優れすぎていて認識がおかしくなるけど、そのくらいだよね」
「で、四年生とか五年生くらいになってから好きな子ができた、と」
「うん、そのくらいだ。一緒に花壇係をしていた子でね。放課後は毎日その子と一緒に水やりや草取りなんかをしていたんだ」
「一緒にいる機会が多かったのね」
「うん、そういうこと。小学生の男子なんて単純だからさ、一緒にいる時間が長くてたくさん話して、それでいい子ならそりゃ好きになっちゃうよ」
「とてもいいお話だわ。一緒にいる時間の長さは大切だってことくらい私にも分かるもの」
「僕のつまらない話を聞いてもすぐに笑顔になってくれる子だった。花壇係は夏休みの間も仕事があったからね、時間を決めて集まるんだ。それで水やりや草取りを終わらせた後は、2人でちょっと寄り道して帰るんだ。当時は今はもうない駄菓子屋なんてものがまだギリギリ残っている時代でね。2人でアイスを買って食べたりしたよ」
「いいわね」
「限られたお小遣いの中からだからね、パキッと割ると2つになるアイス……分かるかな?」
「分かるわ。チューチューと吸うやつよね」
「そうそう、あれを買って2人で分けるんだ。そのまま山のほうにある公園に行ったりしてね、アスレチックがあったりするんだ。お昼を食べに帰るのも忘れて親から怒られたこともあったよ」
「好きだったのね」
「そうだね、今考えると初恋ってやつだと思う。残念だけど中学生になってからは学校も別々になって疎遠になってしまったけど、今でもいい思い出だよ」
「とても綺麗な思い出だわ」
「うん、あれから会えてはいないけど……幸せになっていて欲しいと思うよ」
そろそろいいかしら。
「で、その子とはどこまで進んだの?」
真くんが驚いたような表情で私の目を見てくる。
「好きだったのでしょう?話を聞いていると、相手の子だってあなたのことを好きだったと思うわよ?なんとも思っていない子とそんなに一緒に遊んだりするわけがないもの」
「う、うん……確かに、そうかもしれない」
「なら真くんは男の子でしょう。なにもしなかったの?小学生だって、手を繋いだり、もしかしたら唇を合わせたりしたくなるものじゃないの?だって男の子でしょう」
「どうだろう。あの頃は一緒にいるだけで楽しかったから。もしかしたらたまにそういった感情もわいたかもしれないけど、そういった行動をして一緒にいられなくなったら嫌だと思って何もしなかったのかもしれない」
「素晴らしいわ真くん。私が聞きたかったのはそういう話よ」
「そ、そうかい?まぁ小学生なんてみんなそんなものだと思うよ。というか多分僕は恵まれていた。花壇係というものにたまたまなったから、こうやって大人になっても思い出せるような綺麗な出来事があったわけだからね」
「とても素敵な思い出だわ」
「でも、そういう話なら君なんて不自由しないんじゃないのかい?同級生の男子なんかに告白されたりしないの?」
「私のこと?見ての通りよ。同級生どころか全ての男が私に興味を持つわ。そういう容姿なのだからしょうがないことよね」
「じ、自分を客観視できているんだね……まったく否定はしないよ。子供だろうが大人だろうが君に興味を持つのはごく自然なことだ」
「それで、聞きたいのはここからなのよ」
「なんだい?」
「男の人が、私に対して単なる優れた容姿という意味以上の……つまり、性的な意味で興味を持つのはいつからだと思う?」
真くんがまた仰け反る。
心底驚いているようだ。
私から『性的な意味で』なんて言葉が出たこと自体が信じられないのだろう。
私は、このエラー品の身体を持って生まれたから、いずれ自分が女としてどうなるか大体の予想はついている。
だから色々調べた。
だからそういった意味でいずれ男が私を必ず見てくることも分かっている。
それは別にいいのだ。
しょうがないことよね。
だから、そのしょうがないこととどう上手く付き合っていくか、それだけの話。
真くんは仰け反ったままでいる。
……そんなに驚かなくてもいいじゃない。
私がとんでもない質問をしたみたいになっているわよ。
「真くんごめんなさい、ちょっと変な質問をして驚かせてしまったみたいね」
「いや……違うんだ。怒っているわけじゃない。ただ……衝撃が強すぎて、本当に心臓が止まるかと思った……。質問の答えだけどね。……それは、年齢の問題じゃないんだよ」
「年齢の問題ではない?」
「そうさ。今、僕は君の圧倒的な美しさに胸が痛い。でも、これは神聖なものへの畏怖に近い。守ってあげたい、傷つけたくないという気持ちが勝るから、手を出そうなんて絶対に思わないんだ。まともな男なら、みんなそうさ。だけどね」
真くんはゴクリと息を呑み、私の目を真っ直ぐに見つめた。
「男っていう生き物は、その神聖な美少女が『一瞬でも男を誘うような、隙のある目つきや仕草』をしたとき、あるいは……『誰か特定の、一人の男だけのものになりそうな気配』を見せたとき、理性が消えて獣になる。君が誰かを『特別扱い』し始める年齢。一人の男を選ぼうとしたその瞬間。周りの男たちは嫉妬と独占欲で暴走し、君を奪おうとするだろう。君のその美しさは、それだけの狂気を男に植え付ける刃なんだよ」
真くんは、目をそらさずにそう言った。
「あ、ごめん。ちょっと説明っぽくなっちゃったね。つまり――『君が誰か一人のものになるということに、周りの男は耐えられない』。ただ、それだけのことなんだよ」




