私は200円しか出していないのだし申し訳ないわ
気の良さそうで質問に答えてくれそうな男を見つける。
頭の良さそうな、も追加かしら。
質問に対して小学生の私でも分かるように簡単に答えてくれないとダメ。
ちょうどいい男が歩いている。
30歳くらいの会社員かしら?
どうやら昼食をどうしようか、ファストフード店に行こうか定食にしようか、そんなことを悩んでいる様子ね。
なら時間も大丈夫でしょう。
忙しい人の迷惑になってはいけないものね。
その人の目の前を通り過ぎる。
当然のように、驚いた様子で私の顔を見てくる。
そうしたら、ニコっと微笑んであげればいい。
私から声をかける必要はない。
「あ、あの、き、君……!」
「なにかしら?」
男のほうに向き直って微笑みかける。
「あ、ごめん、用事とかそういうんではないのだけど……」
「用事がないのならなんで私に声をかけたの?」
「う、うん……用事はないんだけど……ごめん、本当にごめん」
「謝って欲しいわけではないわ。つまり私とお話をしたいから声をかけてくれたのでしょう?」
「あ、ああ、そ、そう……うんそうだ。ごめん、小学生……それも多分低学年だよね?本当にごめん」
「いいのよ。慣れているし。それに、私もあなたと少しお話してみたいわ」
「ほ、本当に……?」
「ええ本当。見たところあなたはお昼をどうするか考えていたのでしょう?なら私と一緒に、というのはどう?あ、申し訳ないのだけど私は今200円くらいしか持っていないの。だからそれで食べられるメニューがあるお店になるけど……」
「いくらでもいいから!何万円するものでもいいから!一緒にお昼を食べよう!僕が出すに決まってる!」
「そう、ありがとう。でも全部いただくのは悪いから200円を最初に渡しておくわ。申し訳ないけど足りない分を払ってくださる?」
「う、うーん……お金なんか君から受け取るわけには……いやそうしたほうが君の気持ちが納得するなら……」
男は考えた末に私から200円を受け取った。
うん、予想通りきちんとした良心を持っている人のようね。
こういう小さいことで丸分かりになるのよね。
「ゆっくりお話できる店にしよう!5分くらい歩いた所に落ち着いた個室のある美味い和食を出す店があるんだ。あ、お魚とかそういうの大丈夫かな?ハンバーグとかがあるお店のほうがいいかな?でもそれだと個室の店が……」
「魚もお野菜も好きよ。魚はあまり食卓に上らないから嬉しいわ」
「良かった。じゃあ行こう」
私の容姿の特殊性を除けば、年齢的にはどう見ても親子だ。
誰も不審には思わないでしょう。
しばらく歩くと、いかにも値段が高そうなお店にたどり着いた。
大丈夫なのかしら?
お金ももちろんだけどこういうとこって予約とか必要なんじゃ……
と思っていると、男は店員と少し話して名刺のようなものを渡した後に、
「お嬢ちゃん、さ、個室が取れたから行こう。メニューは今日のおすすめにしておいたからね」
「そう。正直助かるわ。こんな高級そうなお店のメニューなんて読んでも私分からないもの」
「うん、今日ある素材で最高のものを作ってくれるように頼んでおいた。魚が食べられるようで良かったよ。ここの店の魚の料理は本当に美味いんだ」
「ありがとう、ええと……」
「あ、名前だね。僕は三条真っていうんだ。好きに呼んで。真おじさんでも三条さんでもなんでもいい」
「そう、じゃあ真くんって呼ぶわね」
私がそう言うと真くんは仰け反るようにびくっと身体を震わせ、胸のあたりに手を当てた。
「あ、ごめん。ちょっとびっくりというか……衝撃を受けてしまって。本当に心臓が止まるかと思った。心臓って比喩じゃなくて痛いくらいになることがあるんだね」
「面白いことを言うのね真くんは。学校の先生はね、みんなのことを男でも女でも『さん付け』で呼ぶようにっていうのだけど、男の子はみんなくん付けで呼んだほうが喜ぶのよ。嫌だったかしら?」
「全然嫌じゃないよ。うん嫌じゃない。じゃあ僕は今から『真くん』だ」
「良かったわ。それにしてもここは本当に高そうなお店ね。ファストフードやファミレスでも十分だったのよ?私は200円しか出していないのだし申し訳ないわ」
「とにかくゆっくり君とお話したかったからね。もしかしたら気づいているかもしれないけど、君の容姿ははっきり言ってとんでもなく可愛い、綺麗過ぎる、整いすぎてる。異質とすら言っていいかもしれない。だからこういう部屋がある所じゃないと落ち着いて話もできないんだよ。周りの人間が騒がしくなるからね」
「確かにそうね。では悪いけどご馳走になるわ」
「あ、言っておくけど個室だからと言って何も心配しなくてもいいからね。流石に小学生低学年であろう君にそういった感情は抱かない。ただひたすらに容姿が整いすぎてるとは思うけどね」
「ふふ、ありがとう」
そう言って微笑みかけると、真くんはまた胸のあたりに手を当ててちょっと苦しそうにした。
「それと、こういうお店ってお料理が出てくるまでに少し時間がかかったり、食べるのにもパパっと済ますってわけにいかないのではないの?真くんのお仕事は大丈夫なの?私みたいに夏休みというわけでもないでしょう」
「ああ、それは大丈夫だよ。時間はどうとでもなる。えっと僕は社長……ではないんだけど、きぎょ……会社を経営している人間なんだ。調整はいくらでもつく。申し訳ないんだけど後で3分だけ部下に連絡する時間を貰えるかな?それで全てOKだ。夕方までだって大丈夫だよ」
「良かったわ。美味しそうなお料理が出てきたところで時間切れになって、お店を出なきゃいけないなんてことになってたら私泣いちゃってたところよ」
少しばかりの冗談を言ってまた真くんに微笑みかける。
『そ、そんなことあるわけないよ!』とか小学生みたいにおどけている。
うん、これで真くんは私の子ね。
なんの質問をしても答えてくれるはずだわ。
それこそお金儲けの方法を教えて、って言えば持てる知識全てに加えてあらゆる方面から情報を集めてくれるでしょう。
そんなことをする気はさらさらないけどね。
さて、もう少し当り障りのない会話をしてから聞きたかった質問をしようかしら。




