今日のあなたが発した言葉、一語一句忘れずにいるから
真くんとのお話はとても楽しかったわ。
まぁ、モテないわけがないわよね。
今の女性関係については詳しく聞かなかったけれど、女がこんな男の人を放っておくわけがないわ。
お話の内容もとっても有意義なものだったわね。
特に、『私が誰か一人を選んだ瞬間に、周りの男は耐えられない』というあれね。
私1人だったらいくら考えてもなかなかそんなことには気付けなかった。
だって当たり前でしょう。
現代日本で……いえ海外も含めてかしら、
『誰か1人のものになるとトラブルになるから、複数人を愛しましょう』
なんてのは倫理的にも法律的にもアウトだもの。
……あ、法律的には別に罰するものはなかった……かしら?
一応真くんに聞いておこうかしら。
こんなこと他に聞ける人もいないし。
「ねえ真くん、ちょっと難しいお話になるのだけどいいかしら?」
「……?もちろん。僕が答えられることなら」
「今の日本って、複数人の異性とお付き合いするのって、『ケシカラン』とかそういうのはとりあえず置いておくとして、法律とかそういうので禁止されていたりするの?」
「…………また凄い質問だね。初めて聞かれたよそんなこと。当たり前だけど。ええと……倫理……うんと、世の中の正義に反するとかそういうのはとりあえず無視して、ってことだよね?」
「そうそう、あくまで法律とか、なんとか罪とかそういうのでダメって決まってるのか聞いておきたいのよ。バカなことを聞いているのは分かっているわ。ごめんなさい真くん、親にも同級生にも学校の先生にも聞けないし、真くんに教えてもらいたいのよ。インターネットだと嘘かどうか私では判断できないし」
「うん、法律の話だと……昔は姦通罪っていう法律があった。でも今は廃止されている。どういう法律だったかというと、結婚している女性が、夫以外の男性と関係を持つことを禁じていたんだ」
「女性だけなの?」
「そう、男性が妻以外の女性と浮気してもお咎めなし。まあ今の常識から考えるととても不公平な法律だよね。だけど、これは法律自体が廃止されている。今は女性が浮気をしても姦通罪になるということはないよ。法律自体がないからね」
「なるほど。つまり法律上は複数人と結婚もでき……ないわよね?常識的に考えても」
「できない。日本は一夫一婦制だ。つまり、一組の男女が夫婦になるという形態以外は認められていない。もし2人と結婚してしまったら、それは犯罪になる。姦通罪とは全く別の法律だ。これは今も生きている法律だね。『重婚罪』ってやつさ」
「うーんと……よく分からないのだけど、最初に話してくれた姦通罪?ってやつがないのなら、それなら結婚している人が浮気したらダメなのはなぜなの?姦通罪はもうないのよね?」
「うんとね、これはちょっと複雑な話なんだけど……つまり、『刑務所に入れられたりすることはない』ってことなんだ。姦通罪ってのは刑務所に入ったり罰金を取られたりする法律なんだ。だから、浮気したら刑務所行き!とかそういうことにはならない」
「ならどうなるの?」
「例えば、夫と妻がいる。妻が浮気をした。そうなると、夫は妻と妻の浮気相手に「おまえらなにしてくれんじゃ!ワシの心は傷ついた!金をよこせコラ!」と言える。言えるというのは法律によって請求できるということだ。さいばんじょ、っていうところで決めることになる」
「お金」
「うん、お金」
「ならお金を払えば浮気してもいいの?」
「いやよくはないよ……なにを言っているの……よくはないけど、刑務所に入るようなことにはならず、『ケシカランことをしたんだから妻と浮気相手は夫にいしゃりょうをはらいなさい』っていうことになるのさ」
「うーんと……」
「ごめん、僕は経営学……つまり会社とかをうまく動かす勉強は得意なんだけど、法律は大学でちょっとだけかじった程度なんだ。だからこれ以上上手く説明できそうにない」
「まず、何人もの男の人と結婚したら、じゅうこんざい、で刑務所に入る。これは完全アウト」
「そう、完全アウト。というかしないでね?お願いだから」
「で、結婚していて浮気をしたら、これはお金を取られちゃう。だからこれも、けいむしょほどではないけどアウト」
「ほどではないというか……どっちも同じくらいアウトだと思うよ僕は……」
「だったら、結婚せずに複数の男の人と結婚したら?」
「………………………うん?」
「そのまんまよ」
「……結婚せずに結婚はできなくない?」
「あー、うん、そうよね……なんていうのかしら……例えば、結婚せずとも一緒に暮らしている人たちはいるわよね?どうせいってやつ。ドラマで見るもの。ああいう状態よ。あれを恋人ごっこじゃなくてちゃんと結婚してるみたいな状態までやるのよ」
「あー、事実婚のことかな」
「じじつこん」
「そう。結婚届を出してするのを法律婚っていうんだけどね、『どう見ても結婚届出してないだけで結婚してるだろお前ら』、ってのを事実婚っていうんだ」
「じじつこん、おぼえた」
「そんなことあんまり覚えて欲しくないかな……というかここ5分の会話はできれば忘れて欲しい……」
「今日真くんの発した言葉、一語一句忘れずにいるから。一生。花壇の女の子のこともバレー部の女の子のことも」
「ごめんちょっと怖い」
「そもそもよ、誰かと結婚したとして、私が他の男の人とも関係を持つとするわよね。それを旦那様は承知の上で、相手の男の人も承知していたとする。これだとどうなるの?」
「仮定が突飛すぎてちょっと頭が追いつかないけど、刑事罰の対象でない以上は夫が君や浮気相手にお金を請求しない限りはなんともならないよ」
「じゃあ、誰とも結婚しないで、みんなとじじつこんしたら?」
「それも少なくとも法律的な問題は起きないのかな。誰も不満を持っていなくて、みんなが納得しているならなおさら……だと思う。多分だよ? 僕は法律については素人に近いからね」
「なるほど、それね」
「なにが『それ』なの!?」
「今後の方針よ」
「方針!?」
本当に今日はいい日だ。
真くんはずっと私の子にしてしまいたい。
正直、結婚とかじじつこんとか、そういう話はずっと先の話になると思う。
だけど私が今後『どういった方向性で男と付き合っていくか』というのは、今、今日、この場で、おおかた決まった。




