孤島での個別面談
「体格がいい人、ちょっとこっちに来なさい」
力仕事の作業をしている体格がいい人に声をかける。
一日目に私が順番を回してあげた子だ。
「さて、少しお話をしましょうか」
「は、話……?な、なんだよ俺は別になんもしてねえぞ……」
初日に手首が砕けんばかりに握られて放り投げられたことが少々トラウマになっているのでしょうね。
私を見る目は怯えを帯びている。
「安心なさいお仕置きとかそういう話ではないの。ただ、これから何ヶ月か何年か分からないけど、相当に長い間あなた達と過ごすわけでしょう。だから一人ひとりとお話してどういう人なのか知っておきたいのよ」
「そ、そうかよ……本当になんもしないんだな?」
「しないわ。安心なさい」
「ならいいけどよ……あんた……お嬢と何を話したらいいのか俺ぁ分かんねえよ」
「別にただの世間話とかお互いの身の上話とか、なんでもあるでしょう」
「……正直言うけどよ、ちょっとお嬢が怖いんだよ。もちろん手首掴まれて放り投げられたあれもそうだけどよ、なんか、お嬢の見た目って……正直さ……」
「怒らないから言いなさい」
「あ、ああ。正直、人間離れしてるだろ?俺ぁ今まで生きてきてお嬢みたいな女見たことねえんだよ。現実にはもちろん、テレビでもネットでも雑誌でも、だ。なんなんだよ。いくらなんでも綺麗すぎる。今だって目の前にいるお嬢が本当に人間かどうか疑っちまうくらいなんだよ」
「なにを言っているの。昨夜私を隅々まで見たでしょう。作り物だったりホログラムだったりしたの?」
クスクスと笑いながら体格のいい人に微笑む。
「そ、そりゃそうだけどよ。いやそれも含めてだよ。なんというか、昨日のアレは……人間としている感じじゃなかった。なんつーかよ、俺の全部が包みこまれて、ぽわーっとして、お嬢が隙を見て俺に変な薬でも飲ませたんじゃないかって思ったくらいだ。正直、あんな……なんていうんだっけ、ああいうの……幸せな感じ……」
「多幸感?」
「あ、ああ。多分それだ。もう訳がわからないぜ。多分あれを知ったら、もう金とか力とかどうでもよくなっちまう男が多いんじゃねえかな。今は正直ちっとお嬢が怖いけど、このまま慣れたら多分、お嬢と一緒にいりゃもうそれで他はいらねー、ってなっちまうんじゃないかと思う。……ホントに変な薬飲ませてないよな」
「飲ませてないから安心なさい」
「そうかよ。ならいいんだけどよ……」
「30人の彼氏のうちの一人、それでも構わないって思う?」
「ああ、それは全然気にならねえな。こんな状況なら多分お嬢が一人のものになっちまうほうが危険だと思うぜ。俺はバカだけどそういう勘は利くんだ」
「それが分かるのならあなたは全然バカじゃないわよ。ボスが出現して私を独占した瞬間から悲劇が始まるわ」
「だろうよ」
「賢いあなたにご褒美。最初の日に私があなたにした『お仕置き』、あれの正体を教えておくわね。あれはね、私の彼氏になった人、つまり交際している人ね……その人らに対する『強者権』よ」
「は?」
「言葉の通り、私は、私の交際している人に対して絶対無敵。ボクシング世界チャンピオンだろうがなんだろうが関係ないの。私のほうが圧倒的な強者になれる」
「なんだよそれ。漫画かなんかかよ?…………って言っても、実際なんか妙な力でもなけりゃ俺相手にあんなことできるわけがない……のか?」
「私ね、自分のこの容姿を神様が作ったエラー品だと思ってるの。今までの人生でたくさんの女性を見てきてそれは確信に近い思いよ。だから、エラーついでにこの変な能力もついてきたんじゃないかしら」
「エラー……か。確かにそうかもしんねえ。俺ぁよ、この腕っぷしだからさ、ガキの頃から割と女に不自由したことはねえんだ。学校一の美人とかそういうのとも付き合ってた。だがお嬢と比べたら……いや、比べる相手にすらなってねえ。訳が分からん。特にその目、実は宝石を埋め込んであるとかじゃねえのか?」
「ふふ、何よ気の利いたことも言えるんじゃない。『君の瞳は宝石のようだ』って?口説き文句としてはありふれているけどあなたが言うと心から言っているのだと思えるわ」
「ああ、俺ぁ学がねえから、思ったことをそのままにしか言えねえからな」
「学がない、ね……身体のほうは随分と鍛え込んでるようだけど、あなたがその体格を得たのは中学生くらいからかしら?それとももっと前?」
「うんとよ、中学に入ってから色々と鍛えたんだよ。筋トレだのなんだの。空手とかの格闘技もちょっと齧ったけど、鍛えた身体で思いっきりぶん殴るのが一番強いって思ってよ、ただ鍛えてた」
「ストイックね」
「そんないいもんじゃねえよ。ただな、鍛えて強くなって、人から一目置かれるってのは気持ちが良かった。俺はバカだけどよ、ひとつ分かってることがあるんだ。人間ってのはよ、人から軽く見られることが一番我慢ならねえんだ。怒りとかは多分、全部そっからくるもんだぜ」
「興味深いわね。どうしてそう思ったの?」
「いやただ経験からだよ。なにかあって怒るだろ?人間生きてりゃ必ず怒るわな。んでよ、一度考えてみたんだよ。なんで俺ぁこんなに怒ってるんだ?目の前の相手が正義に反しているからか?道徳ってやつを守ってないからか?ってな」
「うんうん」
「でな、俺ぁバカなりに結論を出した。人間が怒るときってのは『自分が軽く扱われた時』だってな。どんな怒りもそれが根っこにあるんじゃないかってな」
「あなた、自分を卑下してるけど大したものよ。普通の人は怒りの根源はなんなのか?なんて考えてもしないものよ」
「そんないいもんじゃねえんだって。俺ぁ年がら年中怒っててよ……それが何なのかちょっと考えてみたってだけなんだよ。怒るってのは意外と疲れる作業でよ……だったらなんで怒ってるのかくらいは知っといたほうがいいんじゃねえか、そのくらいの気持ちで考えただけだ」
「それで?」
「ああ、だから鍛えた。バカだろ?」
「そうは思わないわよ?それがあなたが考えて出した結論なのでしょう。自己啓発とかの本を読んでそれに影響されて出した結論ではないのでしょう。やっぱり大したものよ」
「じこけいはつ?ってのが何なのかは分かんねえけど、本を読んだって書いてあることはよく分からねえから、しょうがねえだろ自分で考えるしかねえんだよ」
「とても素敵な姿勢だと思うわ」
「鍛えて喧嘩で人をぶん殴ってりゃ、それを繰り返してりゃ、俺を軽く見るやつは減っていった。そのうち怒ることも減っていった。なるほどと思ったぜ。これこそが俺の生き方なんだってな」
「続きを聞かせて」
「ああ、そんな生き方が……続くわけはねえ。心の底でどっかで思ってたけど、止まらねえ。暴力の世界ってのはな、一度走り出すと疲れても嫌になっても止まれねえようにできてんだ。お嬢には縁のない世界だろうけどな」




