孤島での個別面談2
体格のいい人はそう言うと少し俯いた。
「そりゃ当たり前だわな。殴られたやつは俺を恨む。当たり前だ。別に俺は正義のヒーローでもなんでもねえ、自分がムカついたから殴ってるようなもんだ。それで恨まれないわけがねえ」
「そうなるわね」
「関係ないやつだってそうだ。俺が強いと知れば、俺を殴り倒せばそれだけで名前が上がる。だから別に俺に恨みがないやつだって喧嘩を売ってくるわけだ」
「暴力の連鎖、っていうことね」
「それだけじゃねえ。暴力を売りにしてるってことは……あんま言いたくないことだが、そういう組織と関わったり加入したりすることになる。そうなりゃ自分なんか腕っぷししか自慢のないただの下っ端だ。気に入らないと殴られ、上手く仕事ができないと殴られ、そんな毎日が続くことになるんだ」
「殴り返せばいいじゃない」
「そうはならねえんだ。いくら俺がいいガタイをしていてパンチ力があっても、そんなのは『本物の暴力』に比べりゃちっぽけなもんだ。分かりやすくいえば柔道だのなんだので国体に出たことがありますだのその手のはゴロゴロしてたし、何より、喧嘩ってやつはどんなに強いやつでも覚悟決めた3人には勝てねえようにできてんだ。前の人間を相手にしてりゃ後ろから思いっきり蹴っ飛ばされて、そんでよろけたところをタコ殴りよ」
「数の暴力は強そうだものね」
「ああ、漫画で何人も相手にしてるのなんて嘘っぱちだ。あぁ、抵抗する気がない、できないような人間相手ならどうとでもなるぜ?何人相手でも。だけどよ、覚悟決まったやつ相手なら中学生3人相手だってどうにもならねえ。それが現実ってやつだ」
体格のいい人がさらに俯く。
「結局よ、ガキの頃に考えた、強けりゃいい人生を送れる、人から舐められない、人から軽く見られないなんてのは目先のことだけだったってことよ」
「あなた、身体を鍛え始めたのは中学に入ってからだって言っていたわよね。それまでになにがあったの。幼少期が気になるわ」
「……そんなのは、ただのありふれた話だ。珍しいことでもなんでもねえ。勉強もできねえ、足も速くねえ、字は下手くそ、絵も下手くそ、十説明されても一つも理解できねえ、面白い話もできねえ、空気も読めねえ、顔もブサイク、家だって貧乏だ。親だって……まぁ、あれだ。そんなガキが面白い学校生活を送れるわけがねえ。そうなりゃ、まぁグレる。だから鍛えた。いいか悪いか今となっちゃ分からねえが、鍛えた分だけ筋肉になる才能だけはあった。その身体でちょっとデカい声を出しゃ仲間ができた」
「仲間」
「ああ、実のところ仲間でもなんでもねえ、無理やり付き合わせてただけなんだがよ」
「無理やり付き従わせていた?」
「ああ、そんなところだ。あっちから寄ってきてくれるなんてこたぁなかったよ」
「それであの船に乗った、と」
「ああ、長くなるから上手く説明できねえが……結局、逃げ出したかった。もしかしたら逃げ出した先じゃ違う人生が送れるかもしれねえ、ってな。そんなわけねえんだけどよ。新しい土地に行ったら俺が生まれ変わって素晴らしい人生がスタートするなんて魔法はねえ。んなことは分かってたんだが……」
「で、船はあのザマ。今はこうして私と話していると」
「もう何がなんだか分からねえなこうなると」
「良かったじゃない」
「……なにが良かったってんだよお嬢」
「あなた、今世界一の美少女の彼氏よ」
「……まぁ……ああ、そうだな」
「生まれ変われるかは分からないけど、とりあえず過去とは全く違う生活をしていることは確かよね。まさか三日前まではどことも知れない島で材木を運んでいるなんて思いもしなかったでしょう。そして私の彼氏になるなんてことも」
「想像できるわけがねえだろ、んなこと」
「そして、ここが今までと一番違うところよ。心して聞きなさい」
「なんだよ」
「私は、あなたを心から愛する」
「…………」
「30人いるうちの彼氏の一人だけど、私は誰一人として特別扱いはしない。けど愛する。あなたはそのうちの一人よ」
「……そうか……そうかよ」
「あなたは今まで腕っぷしのせいで女に不自由したことがないそうだけど、それはあなたの暴力性と、それに伴う恩恵が目当てだった女だったんじゃないかしら?」
「……」
「私はあなたより圧倒的に強い。あなたが一日中私を殴ってもなんともならない。逆に私は小指一本であなたを制圧できる。いえ、はっきり言ってしまえば殺すことも容易いの」
「ああ、それは身に沁みて分かってる」
「だからあなたの暴力性を評価して愛するのではないわ。安心なさい。私は、あなたがあなたであるというだけで受け入れるわ」
「……そうかよ」
「もしここから脱出できて日本に帰ってもそれはそのまま継続よ。昔の仲間にでもなんにでも『こいつが今の俺の女だ』って紹介できるわよ」
「そりゃあ羨ましがられるだろうな」
「そうでしょうよ。暴力しか取り柄がないと思っていた男がいきなりとんでもない女を連れて帰ってくるんだもの、驚くでしょうね」
「ああ、自慢しちまうだろうな」
「それとあなたが日本で置かれている立場、それも私が解決する。私が日本に残してきてしまった彼氏達はそれなりの立場や地位にある人がいるし、お金に余裕がある人もいるわ。まあお金に関しては全部私が管理しているのだけど……それらを使ってなんとでもしてあげるわ」
「お嬢……」
「ああその代わり日本の彼氏達とは上手くやりなさい。暴力沙汰は私が絶対に許さないし、仲良くしなさいよね」
「お嬢……俺ぁ……」
「あのね、あなたが私に身の上話をした時点で、もうそういう関係なの。普通、ついこの前出会ったばかりの女にさっき言ったみたいなことを話す?もうあなたは私に首ったけなのよ。だから、なにか湧き上がる魂の叫びがあれば私に全部ぶつけなさい、話しなさい。私に対する思いを支えにしてこれからは生きなさい」
「お嬢には敵わねえ……」
「当たり前よ。また放り投げてあげましょうか?」
「そういう意味じゃねえよ。分かった。どう分かったのかうまくは言えねえけど、よくよく分かった。俺にできることなんか何もねえけど、もしお嬢が困ったことがあったら、どうとでも使ってくれていい」
「あら素敵。海に石を放り投げてそれを拾ってきてもらおうかしら」
「それはただの虐めだろ。勘弁してくれよ」
私がクスクスと笑うと、体格のいい人はこの島に来て初めて笑った。
この子は日本で言えば、輩ってやつだろうし、クズだったのだろう。
だけどもう大丈夫。
良かったわね。




