なら、あなたを殺すしかなくなるわよ?
「お、俺が、この島の支配者だ!」
男の声が、テントの集まる広場に響き渡る。
男の手には拳銃。
武器には詳しくないが、リボルバーという、親指で撃鉄をがちゃっとやって撃つタイプのものだと思う。
あんなものをどこから持ち込んで……って、考えるまでもないか。
ここにいる男たちはみんな何かしらの事情持ちだ。
拳銃の一丁くらい持っている者がいてもおかしくはない。
「はあ、私言わなかったかしら?暴力はこの島では禁止よ」
静かに告げる。
こんな孤島で争いが起きたらすぐに大惨事だ。
暴力が暴力を呼び、私の彼氏達は傷つくことになる。
「罠を作る人。今なら許してあげるわ。すぐにその拳銃を、できるだけ海の深いところに捨ててきなさい」
「なに言ってやがる!お、お嬢がいくら強くても、これには敵わねえだろ!プロレスのチャンピオンだってナイフ一本でやられちまったって聞いたことがある。こ、こいつはナイフじゃねえ。拳銃だぞ!!」
罠を作る人は、震える手で拳銃を思い切り握りしめながら叫ぶ。
確かに、人はいくら強くても武器には敵わない。
素人が力任せに振り回すナイフにすら格闘技の達人が敗れるのだ。
拳銃ならば尚更だろう。
「も、もちろん!お嬢はこの島で一人しかいない女だから!撃たねえ!だけど……」
「だけど?」
「ひ、一人くらい見せしめに撃つ!そうすりゃこの島のボスは俺だ!」
カチっと、なんかのスイッチが入る音が私の頭の中で響いた気がした。
罠を作る人。それは、私の中にある絶対に超えてはならない一線よ。
「罠を作る人、その拳銃を向けるのは……私じゃなくて、この子たちの誰かってこと?」
「あ、当たり前だ!お嬢は、今日から俺の女になるんだ!俺一人の!!」
「罠を作る人。もう一回、よく考えてから言いなさい。その拳銃を向けるのは、私ではなくこの子たちへ、そうなのね?」
「な、何度も言わせんじゃねえよお嬢!あんたが死んだらあんたを俺のものにできねえだろうが!!」
「なら、あなたを殺すしかなくなるわよ?」
罠を作る人の目をじっと見ながら言う。
脅しでもなんでもない。
私は、彼氏達の争いを絶対に許さない。
争いを許さない。
だけど、血気盛んな男同士、たまには喧嘩になることもあるだろう。
じゃれ合いみたいなものだ、それはしょうがない。
だけど、拳銃で撃つとなると話は違う。
仮に殺すつもりがなく、足や手を狙ったとしても、医者も医療設備も、抗生剤すらないこの島では当たり前のように致命傷になるだろう。
つまり、この島では拳銃が当たった時点で死んだも同然。
それに、見るからに安物の拳銃だ。
腕や足を狙ったとしても胴体の真ん中に命中することだって十分に考えられる。
「な、なにを言ってやがるんだお嬢!あんたが体格のいいあいつを投げ飛ばしたのは、確かに見た!見たけどよ!それがなんだってんだ!!これは拳銃だぞ!!」
息を荒くして罠を作る人が叫ぶ。
ああ、そうね。
確かにあれを見ただけなら、単に人並み外れた怪力を持つ女くらいに思われてもしょうがない。
『強者権』について説明されていなければ、むしろそう思うのが自然だろう。
……いえ、説明したとしても、ただ力が強くなって取っ組み合いじゃ負けない能力くらいに思われても不思議ではないわね。
「今からあなたに向かって歩くわ。撃ちたくなったら遠慮なく撃ちなさい」
そう言って私は罠を作る人に向けて歩を進める。
「おい!本当にやめろ!あんたを殺すつもりは本当にないんだ!30人もいる男、このうちの誰かを見せしめに、ちょこっと足でも撃つだけなんだよ!」
「いいから撃ちなさい。ああ、もし本当に私に弾が当たって死んでしまったなら、体格がいい人、あなたがリーダーになってきちんとまとめなさい。私がいない状態なら、ボスがいたほうがいいでしょう」
私は体格のいい人に向けて言う。
この子はちょっと頭の回転が悪いけれど、本物のバカではないし、やはり力持ちというのはそれだけでこんな環境では価値がある。
「その必要はねえぜ、お嬢」
体格のいい人が一歩前に出る。
「言っただろ、忘れちまったのかよ?『俺のことはどうとでも使ってくれていい』ってよ。まさかこんなに早くそうなるとは思ってなかったが、ちょうどいい。俺ぁ、拳銃を向けてくる人間相手に戦ったことはないが、見たことはある。あれぁ、心臓や頭に一発で当たらなけりゃあ、少しの間は動ける。あんな豆鉄砲のような拳銃なら、正面から突っ込めば俺は組み伏せられる。勝てる」
「……で、心臓や頭に命中しなかったとして、その後どうするの?空から名医が降ってきてあなたを治療してくれるのかしら?」
「何度も言わせるなよ、お嬢。『どうとでも使ってくれていい』って言ったんだぜ。それぁよ、つまるところ、俺の命をどうとでも使っていいってことだ。まぁあんたの命令じゃないが……勝手だがそうさせてもらうぜ」
そう言ったかと思うと、体格のいい人は罠を作る人に向かって走り出そうとした。
「……おバカ。そういうことを私は許可しない」
体格のいい人の腕を掴んでこちらに引き寄せる。
ああ、この子ばっかり二度目ね。
ちょっと可哀想。
骨が砕けないように細心の注意を払い、そして関節が逆方向に曲がらないようにも注意しながら、体格のいい人を海へ放り投げた。
「あ、少し飛びすぎたかしら」
体格のいい人は『なんだよそれえええええ』と叫びながら、沖合50メートルくらいのところに着水した。
私はすぐに
「誰か三人泳いで行って助けてあげなさい。えっと、あなたとあなたとあなたよ。木の板を持っていくのを忘れないで」
私はすぐに指示を出す。
すぐさま三人の男たちは海へ飛び込んでいった。
あら、なかなか私の躾けが良かったのかしら?
私の指示に対して迷いのない良い動きをするようになったわね。
「というわけよ。相手は私一人。分かりやすくていいでしょう?もし私をその拳銃で屈服させられたのなら、私はあなた一人のものよ」
「な、なんなんだよあんたは!あのままあのガタイのいいやつに任せときゃ、もしかしたら俺ぁ本当に負けてたかもしれねえ!なんなんだよあんたは!!い、言ってるだろ!どんな怪力でも拳銃には関係ねえんだよ!!」
「言ったでしょう。私は、私の子たちの間での争いは許可しない。私が全部止めるの」
「う、うわあああああああ!!!」
罠を作る人は、目がどこを見ているのかも分からないほど動揺している。
あら、本当に撃つ気ね、この子。




