あなたを殺さずに済んで、本当に良かった
『パン!』
あら、『ズドン!』みたいな感じじゃないのね。
想像していたより軽い、なんだか玩具のような音。
お祭りの屋台で売っている拳銃のような音だわ。
安物であろう拳銃のくせに、どうやら私の身体の真ん中目掛けて飛んでくる。
私への物理的な攻撃だから、『強者権』の発動によって私の目で追うことができているようだ。
見えている以上避けてもいいのだけど……
「あら、こうなるのね」
拳銃の弾は、私の身体に当たる直前、まるで目に見えない硬いガラスに当たったようにひしゃげて落ちた。
正直、私の身体に当たって、その上で私にはダメージがない、そういう事になるのだと思っていた。
だけど当たりすらしない。
殴られたりした時には私の身体が硬くなったような感じになり攻撃を無効化していたけど、ある程度以上の威力を持つ攻撃はこうなるようだ。
「……は?」
罠を作る人が呆けたような声を上げる。
「弾はまだ残っているのでしょう。いいわよ、全部撃ちなさい」
「う、う、うわ、うわあああああああああああ」
罠を作る人は拳銃の撃鉄を押し込み、狂ったように私に向けて拳銃を連打した。
そして、引き金を引いてもカチッとしか音がしなくなる。
どうやら6発しか弾が入らない拳銃だったようだ。
「終わりね。さて、あなたとは少しお話をしないとね」
「……………なんだよ、なんだよこれ……………」
「まずは褒めてあげる。ちゃんと私だけを狙ったわね。途中で一発でも私以外のあの子たちに向けて撃っていたのなら、本当に殺さなくちゃならないところだった。だからそこは褒めるし、そして安心したわ」
一歩、一歩と罠を作る人に向けて近づく。
三歩ほど歩いたところで、罠を作る人は腰を抜かしてへたりこんでしまった。
「まずはこの物騒なものを壊してしまいましょう」
拳銃を握る。
予想通り、私への物理的な攻撃に使ったモノである以上、私の強者権は拳銃にも及ぶようだ。
鋼鉄でできているのかステンレスでできているのか分からないが、私が力を込めて拳銃を握ると、私の指の形そのままに潰れた。
「それじゃ、これはバイバイね」
もはや拳銃の形をしていないそれを思い切り海へ向かって放り投げる。
強者権は発動したままなので、何キロか先まで勢いよく飛んでいった。
もう誰にも回収することはできないだろう。
……回収したところで弾もなければ拳銃の形もしていないのだから何の役にも立たないのだけど、もうあんなもの二度と見たくないからこれでいいわ。
「罠を作る人、私の目を見なさい」
拳銃を撃つ前にはどこを見ているか分からないような状態だったけど、もう動揺や驚愕を通り越してしまったのか、口を空けたままじっと私と目を合わせてきた。
「あなたは、拳銃を使って何をしたかったの?」
「あ、あ、こ、ここのボスに……」
「そうね、そう言っていたわね。この島のボスになりたいって」
「あ、あ、そう、そう………」
「ボスになって、どうするって言ってたかしら?」
「ボ、ボスになったら……お嬢と……一緒に……」
そこまで聞いて、私は罠を作る人の頬をかなり力を入れてひっぱたいた。
彼の身体は何度も砂浜の上を転がってから止まる。
私はそれに近づき、お腹を蹴り上げた。
「ぐ、ぐ、ぐぁああぁああああああああ」
罠を作る人はまたも砂浜を転がり、止まる。
私はまた近づき、彼の胸ぐらを掴んで持ち上げた。
彼の足が地面から浮かぶ。
「私と一緒に、なに?」
「あ、あぁぐぁああああ……」
「私と一緒に、なに?」
「お、お嬢と一緒に……」
「私と一緒に、なに?」
「お、俺だけが……お嬢と一緒に……」
彼を片手で持ち上げたまま、頬を左右から叩く。
叩く。
叩く。
叩く。
叩く。
「うぅ、あぁぐぁ、あぁ、あああ…………」
うめき声が砂浜に響く。
彼氏たちは身じろぎもせずにこの様子を眺めている。
「私を、あなただけのものにしたかった?」
「………………」
もう一回、さっきよりも力を込めて頬を叩く。
今度は、うめき声も上げられないようだった。
「私は、最初に言った」
「………………」
「覚えていない?なら復唱するわ。私はこう言ったの。『顔が良い男も悪い男も、強くても弱くても食べ物を用意できてもできなくても完全に平等に愛する』って」
「そ、そぅ……か?」
「ええ、言ったわ。覚えていなかった?」
「お、おぼえ………」
「私も悪かったわ。もっと繰り返し、繰り返し、聞き飽きるほど言うべきだったわね。それは私の落ち度」
「そ、そんな………こと……」
「いえ、私の落ち度よ。一番大切なことを、一度しか言わなかった。身体は与えた、処理のための材料も与えた、でも一番大切なことを、もっと繰り返し伝える努力はするべきだった。どうやら日本にいた時の癖が抜けていなかったみたいね。こんな特殊な状況で、しかもあなたたちとは初対面だもの、もっと『もう分かったから』って言われるくらい繰り返し伝えるべきだった」
「あ、あ、あぁ…………」
「いい?30人という人数は問題ではないの。私はあなたたち全員を愛するし、あなたたちは私のもの。そして、逆に言えば私はあなたたちのものなのよ」
「だ、だって、それじゃぁ……」
「30分の1になる?いいえ、そんなことはないのよ。私はあなたのものなのよ」
「………?」
「人数が30人でも100人でも関係ないの。私はあなたのものなのよ」
そこまで言って、私は彼を離した。
彼の身体がすとんと砂浜に落ちる。
立つ力は残っていないようで、そのまま座り込むでもなく転がり落ちてしまう。
そのまましばらく待つ。
誰も何も話さないまま、一分……二分……それくらいの時間が経つ。
私は、彼の身体を抱きしめ、起こし、座らせる。
「あなたが私だけを撃って本当に良かった。他の男たちに向けて撃たなくて、本当に良かった」
彼を抱きしめ、心からの言葉が口から出た。
「あなたを殺さずに済んで、本当に良かった」
私の目からは涙が溢れていた。
「お、おじょ、お嬢……」
「あなたはボスになんかならなくて大丈夫。私はあなたのものよ。そしてあなたは私のもの。いい?ボスになんかならなくてもいい、特別な立場にならなくてもいい、強くなくてもいい。少しずつ罠を作る練習をすれば、ただそれでいいの。もし罠を上手く作れなくてもそれでもいいの。それでも私はあなたのものよ」
そこまで一気に言った。
伝わるだろうか。
多分一回言っただけでは伝わらないだろう。
この私の価値観は特殊なものであるらしいから、繰り返し繰り返し語っていこう。
他の彼氏たちにも聞かせておかないといけない。
もう二度とこんなことはごめんだわ。
「でも、それはそうとして、ちゃんとお話はしましょうね?」
私はニコッと罠を作る人に向けて微笑んだ。




