良かったわね、この島に来て
罠を作る人は正座しながらプルプルと震えている。
そんなに怯えなくても大丈夫よ、お話をするだけって言ったでしょうに。
怪我のほうも、お医者の治療が必要なレベルまではいかないようにギリギリで調整できた……はずだ。
顔はこれから腫れ上がるだろうししばらく痛みは続くだろうけど、大丈夫……だと思う。
多分。
「あなたね、なにをトチ狂ったの一体。拳銃まで持ち出して」
「だってよ……」
「私の気持ちはさっき言った通りなのだけど、あなたの心を聞かせて欲しいのよ。そりゃ私を独り占めしたいのは分かるけど、普通あそこまでの行動はできないものよ」
「うん……そうだな、確かに普通じゃないと思う」
「そりゃ順番待ちにはなるけど、私のことは定期的に抱けるし、きちんと処理の場まで用意してあげているでしょう。どうしても、私を独り占めしたかったってことよね」
「ああ、そうだよ。どうしたって、俺だけのお嬢にしたかった……我慢ならなかったんだ」
「それは性欲とかそういうものじゃないわよね」
「多分……違うと思う。正直、お嬢みたいな訳の分からないレベルの美少女が、俺みたいなのを15日に1回とはいえ相手してくれるんだ。やりたいとかそういうんじゃ……ないんだと思う」
「自分で自分のことが分からない」
「少しは分かるけど、多分分かってないんだと思う」
私はこう見えて男関連の経験はそれなりにあるのだ。
肉体的な意味じゃないわよ?
たくさんの男たちを見てきて、その男が何を抱えているのか、少しだけ直感的に分かるようになっている。
「あなた、誰かの特別になったことがないでしょう」
「……う」
「社交性はありそうよね、あなた。会話も上手くできるし、周りに合わせて上手く立ち回るのも割と得意なほう、そうじゃない?」
「あ、ああ……そんな感じだと思う」
「小学校の頃のことを聞かせてちょうだい。お友達、多かったんじゃない?」
「……それなりに多かったと思う」
「友達は大勢いた。だけど、親友と呼べる友達はいたかしら?」
「……」
「クラスの目立つ人と一緒にいる、その周りにいる子たちともそれなりに仲良くできる。でも親友は?と聞かれたら……ちょっと困ってしまう、そんな小学校時代だった?ごめんなさいね、想像でこんなことをズケズケと言うのは失礼だと思うのだけど、きちんと話しておきたいのよ」
「多分……そんな感じだったと思う」
「大勢の友達に囲まれて、面白い、気の利いたことも言えて、周りも笑わせられる。けど、本当はクラスの隅でいつも二人か三人で固まっている、本当に仲の良い人たち、そういう存在こそ羨ましかった、そうじゃない?」
「お嬢、エスパーだったりするのか?強いだけじゃなくて、もしかして精神的ななんか変な能力とかあったりするのか?」
「そんなものはないわ。ああ、それとあなたにも説明しておくわね。さっきあなたを叩きのめしたのは、私の『強者権』という能力よ。私は、交際している男に対して絶対無敵。あらゆる攻撃は通じないし、私は一方的にタコ殴りにすることができるの」
「酷すぎるだろDVってレベルじゃねえよ」
「DVとか傷つくわね……別にそんなつもりはないのだけど。それで、その強者権はあくまで物理的なもの。彼氏の精神を操ったり誘導したり、まして頭の中を覗いたりするものではないわ。そこら辺は安心なさい」
「安心……安心なのかそれ?」
「安心安全よ。ヨシ!よ。だって別に私は年がら年中暴力を振るうような女じゃないわよ。さっきはどうしても必要だからそうしたけど、必要なかったらただの可憐な世界一の美少女ってだけよ」
「そういうこと自分で言う……まあ言っても不自然じゃないか。いくらなんでも美少女すぎるもんな」
「話を戻しましょうか。友達に囲まれて、クラス一の人気者の近くにいて周りから見ればリア充ってやつだったのでしょうね。けどあなたの心は辛かった。リア充とは無縁のクラスの隅にいる、いつも一緒にいるような存在こそが眩しかった」
「ああ、もう否定しねえよ」
「中学になってもそれは変わらない。いえ、高校になってもかしら?いつも気にしているのは、誰かがどこかに出かけるという話を聞けば『自分は誘われるのだろうか?自分から誘ってもらえるような行動を起こさなきゃいけないのだろうか?』、そんなところよね」
「…………」
「いつも周りにいたであろうたくさんの友達が、その中で二人、三人で出掛けるという話を聞く。でもその中に自分は入っていない。あなたがいるのはいつも大勢の中の一人としてでしかない。誰か特別な仲の良い人がいない。『あいつはリア充グループだからいいよな』と言われるのが心地良いけど、本音はそんなグループに入れなくてもいいからたった一人だけの親友が欲しかった」
「……やめてくれよ」
「他のクラスのあいつとも俺は友達なんだぜ、いえそれどころか他校のなんとかっていうイケメンとも自分は友達なんだ、そんなことも自慢していた感じかしら?一度しか会話したことのないような人とも友達ぶって、それを周りに自慢したりしたのかしら?」
「……本当にやめてくれ」
「旅行の話があれば、どこからか聞きつけて参加してみる。相手にしてみれば断れないものね。グループの一員だから。でも参加してみたはいいけど、旅行先で誰の横を歩いていいのかすら分からない。あなたはただの大勢の中の一人だから。グループの中でも仲の良い人たちは連れ立って歩いて買い物して会話して、一応その中の一人ではいるけどあなたはいつも一人。どういう位置取りでいたらいいのか、精神的にも物理的にも分からない。もう10センチ前を歩いてあの人に近付いたほうがリア充っぽいか?仲がいいと思われるか?それとも横に10センチズレてみようか?貧乏旅行だから民宿だったりしたのかしら?大風呂なんてないから、お風呂に入れるのは2人とか3人が限度。でも誰と一緒に入ったらいいのか分からない。誘っていいのか分からない。でも一人で入るのは嫌だ。夕食の時の席取りはどうしよう。誰の横に座れば一番リア充っぽいフリができるだろう。でも決して仲の良い二人の間に入るのだけはダメだ。だけど一番の下座でずっと食事中黙っているのは辛い。自分とも話してくれる人は誰だろう、その人は誰の隣に座っているだろう」
「……もう……勘弁してくれよお嬢…………」
私は罠を作る人を抱きしめた。
愛おしく、大切に、壊れないように、心を治すことを願いながら。
「良かったわね、この島に来て」
「…………」
「もう分かっているんでしょ」
「……何がだよ」
「あなた、日本に帰ったら、学生時代の友達に私のこと紹介しなさいよ。『よう久しぶりだな、あ、こいつ今の俺の女。なかなかイカすだろ?』って」
「…………」
「はい、それであなたの微妙な青春時代は、全部『あなたの勝ち』で上書きよ。圧倒的にね」
「……そう……なるかな」
「なるわよ。あなたが友達だったであろう人たちの誰が私クラスの女と付き合ってる?完全勝利よ。エクセレント勝利よ」
「そうかもしれないな」
「あなたの学生時代のトラウマと心の隙間は、これから全部私が埋める。どんなコンプレックスも持つ必要がない。この島にいる間も日本に帰ってからもずっとよ。ああ、あなたのお友達を誘って旅行にでも行きましょうか?そうしたら私がずっとあなたの隣を歩いてあげる。ずっとよ。コンビニで買い物をする時も道を歩く時も神社仏閣にお参りする時も夕食の時も、電車に乗る時も。旅行の間ずっと、全部よ。お風呂は……ちょっと無理かしらね」
「そんな旅行は……楽しいだろうな」
「ええ、ハリウッドセレブだって味わえない旅行になるわよ。だって私は世界中のどんな女優より綺麗だし、そしてあなたを愛しているのだもの」
そこまで言ってやっと罠を作る人は笑った。
体格のいい人と同じ、いい笑顔。
心からの笑顔。
「楽しみね」
私の男たちは、全員この笑顔にする。
それは私の責任であり、義務。
そのためなら、私はなんでもするわ。




