お嬢の稼ぎ方
「本当につまらない上にちょっとズルい稼ぎ方よ。そんな話でも聞きたいの?」
私がそう言うと船長の人が答える。
「一応聞いときたいかな。純粋な興味としてだが。あ、別に日本に帰ったら嬢ちゃんの稼ぎに期待するとかそういう話じゃないから安心してくれ」
「そ、じゃ話すけど……予想通りの話よ。私はこの容姿を利用しちゃってる。つまりズルね。具体的にいうと、化粧品とかシャンプー、トリートメント、ヘアパック……まぁその手のものよ」
「へー。なるほどな。有名デパートとかに卸してって感じか?知らないうちに嬢ちゃんの経営するコスメの会社の名前を見たことがあったりしてな」
「ああ、市販はしてないのよ。一応会社にはしてるけど、多分有名どころじゃないし、聞いたこともないと思うわ。私が売るのは個人だけなの」
「個人?市販せずに?それじゃあ大した稼ぎにはならないんじゃないか?」
「そんなことないわ。ま、相手を選ぶけどね。最初は私が直接売るのよ?女性相手に。相手の女性はどう思うかしらね」
「あー、そっか。そういうやり方か。完全に金持ち一点狙いか」
「そういうこと。売る商品をランク分けしてね。それで新商品として『奥様だけに新しいこちらの商品をお持ちしました』ってやったりしてね。まあこういうのは本当は男性のイケメンのほうがいいのだけど、私くらいになると完全に逆転しちゃうわね」
「そりゃ嬢ちゃんを見たらなあ。女性は夢見ちゃうだろ」
「安全性にだけは気をつけているけどね、正直中身は大したことのないものよ。値段だけは凄いけど」
「でも嬢ちゃん確か前に西友のPBのシャンプー使ってるって言ってなかったか?それに今だってこの島に来てからは完全にすっぴんだろ?それでいてその肌って……つまり化粧品なんか使わなくても……」
「はいストップ。いい?私のこの容姿は、私の会社のコスメを日々使っているからこそ作られています。オーケー?」
「オーケーだ。凄いなコスメ……ってなるか!絶対嬢ちゃん化粧品なんかいらないだろ!髪の毛だって牛乳石鹸で洗ってるの知ってるぞ!リンスも使わないで!」
「はいストップ。私の髪の毛は私の会社のヘアケアセットを使っているからこの美しさが保たれています。オーケー?」
「お、おう……大人の事情だな……女性のそこら辺の機微は凄まじいものがあるからな……」
「まあ後はジュエラーのマネごととかね。私が付けた指輪やらの宝飾品のカタログ作って会員だけに送るわ。そうすれば、ね。一点ものにすれば、割と凄い値段がついちゃったりするわね。腕の良い職人さんが必要だけどね」
「あくまで会員制か」
「そ。私は芸能人になりたいわけでもインフルエンサーになりたいわけでもない。本当は私のこの顔も身体も彼氏たちだけのもの。だから、信用できる女性の会員だけがお客よ。他には漏らさないように厳重に約束を交わして、ね」
「芸能人にインフルエンサーか。確かにそっち方面ならあっという間に天下取れるだろうな。喋りも意外と面白いし教養もあって人気になるの目に見えるようだ。でもそっちには興味がない、と」
「まったくないわね」
「ちょっともったいないな」
「そうかしら?まあ後は大きな仕事をしている彼氏と一緒にお手伝いすることもあるわ。どうしても契約したい案件がある時とかね。本当はそんな場に女を連れていくのは失礼になる場合もあるのだけど、まあそこはほら、私だから」
「ああ……なるほどなちょっとズルだなそれ。契約すればもしかしたらまた嬢ちゃんと会える可能性があると思えば相手も……な」
「そ、ズルよ。でもその程度のことで彼氏の助けになるなら私はなんでもないし、その結果として共同の貯金が増えるなら回り回ってみんなのためにもなるしね」
「嬢ちゃんはそういうとこあるよな」
「そういうこと。それと……まあお金の稼ぎ方って意味じゃ、正直もっと派手にいくらでも稼げる方法は何個も考えつくわ。金融系のことだって、私が頼めばほぼ確実に儲かる情報と方法を横流ししてくれる人もいるし、それこそ本格的なズルな方法だってある。他人から見れば未来予知のごとき投資の方法とかね。さっきの話じゃないけど、もう先が長くないお金持ちなんて一日私が一緒にいるだけで遺言でなんでもするって言ってきたりもしたわ。でもね、私はそういうの興味ないの。この程度で十分なのよ私個人の稼ぎなんて」
「そうなのか?」
「そうなのよ。実際、私が稼いでいても買うものはPBのシャンプーよ?まず着飾る必要がない。貴金属を身につける必要がない。マナーとしておかしくない程度で十分。1日に10回食事をするわけでもない。結局は私の稼ぎだって共同の貯金と一緒。ならば私と彼氏たちが幸せになれる分だけのお金があれば十分。そうじゃない?」
「俺にはちょっと分からん。正直、稼ぐ方法があるのならそうしてみたいって思っちまうし、嬢ちゃんほど達観はできないかな」
「そう。ま、私と長く一緒にいればもしかしたら価値観が変わるかもしれないわね。別にあなたの考えを私と一緒に染めろという気はまったくないから、そこら辺は心配しないでね」
「そうだな。もしかしたら変わっていくかもしれないな」
そこまで話して、私は船長の人に後ろから抱きつく。
「でもね?忘れないでちょうだい。男によっては全ての富を差し出しても得たいと思ってる女が、既にあなたのものなのよ?あなた『だけ』のものではないけど。そこは承知しておいてね。もちろん他の子たちもよ」
そう言って順に彼氏たちを抱きしめていく。
「だから、お金だけを人生の目標にしなくてもいいの。もちろんお金は大切、お金を人並み以上に稼ぐ過程において人間として成長していくことがあるのも重々承知している。だけど、一番得難いものはすでに手に入れていることを理解した上で生きていきなさい」
私がそう言うと、地図を作る人が話しかけてきた。
「そう言われると、もし商売して失敗したとしても気楽でござるな。だって全てを失ってもお嬢は横にいてくれるのでござろう?」
「ええそうよ。もし一文無しになったら、なんの仕事でもいいから日雇いで日銭を稼いできてちょうだい。そうしたら私があとはなんとでもしてあげる。そう考えると色んなチャレンジも気楽にできると思わない?」
「ありがたい話でござるな」
「その代わり……夜のほうは頑張ってもらうことになるかもしれないわよ?私が満足するまでね」
私はそう言うと地図の人の弱点をぎゅっと握りしめた。
「お嬢、台無しでござるよ……」
「あら失敬ね。喜ぶところよここは」
「そうかもしれないでござるけど!」
……日本に帰っても……大丈夫そうね。
この島にいるのは色々と訳ありな子たちが多いから、きちんと心の準備を整えてあげてから帰還しなければ。




