ある世界
───とある世界───
……私の名前はアストレア。
この宇宙で、いわゆる神様というものをやっている。
今日も今日とてとある星の様子を観察しているのだけど……
「レティシア、あの方の様子はどう?」
「あ、アストレア様。今日も変わりありませんよ。相変わらず好き放題やってます」
「そう。良かった、と言っておきましょうか。とりあえずはね」
「そうですねー。いつ何が起きるか分かりませんものね。ずっと見張ってなきゃいけないってのは疲れますけどしょうがないです。男性たちの相手に全力で、他のことにキャパシティ割く余裕がないってのが幸いなんですよねー」
「本当に……あの方は変わらないわね。あんな小さな星に降りてしまっても」
「降りたというか無理やり私たちが堕としたんじゃないですか。ほぼ騙したみたいなものです。あの方を除く女神全員で」
「まあそうなのだけどね」
本当に、なにがどうなったらこんな事態になるのやら。
あの方は正しくこの宇宙を作り上げたお方。
いえ、この宇宙以外もかしら……ね?
私の神格ではその辺りの事情をすべて把握することはできない。
だけどあの方ならその程度のことはやっていてもおかしくない。
なのに……
なのに!!
あの方は創り上げた世界を管理するどころか、私たちの対として創り上げた男神相手に毎日毎日遊び呆けていた。
おかしいでしょう。
自分の創った神をなんだと思っていたのかしら?
で、私たち女神が馬車馬のように働いていた。
本来なら男神と共にやる仕事だ。
とてもではないが女神だけで回せる仕事量ではない。
でもやるしかないのだからやるしかない。
やらなければ破綻してしまうのだ。
世界が。宇宙が。
何度も何度もあの方にはお願い申し上げた。
だけどダメだった。
ご自身で管理しないことはもちろん、男神も回してくれない。
その代わりとして女神たちの神格を上げてくれた。
仕事を回せるようにと。
ご自身の持つ力の数億?数兆?数京?分の一の力を分けて頂けただけで、私たち女神全員の神格が上がり、楽に仕事を回せるようになった。
そこまではいい。
よくはないが、まあいい。
だけど、男神を全部ひとり占めというのはどういうことだろう。
仕事がどうこうという話だけではないのだ。
元々、私たちと結ばれる存在でしょう、その者たちは。
お陰で私たちはずっと男ひでりだ。
結婚どころか、恋人すらできたことがない。
え?神なのに結婚するのかって?恋人が欲しいのかって?
あの方がそういう風に私たちを創ったのだから、そういう存在になっている。
だというのに!
……というわけで、この宇宙にいる女神全員であの方にお願いをしに行った。
「至高なる御名に、希わくば――」
お願いの内容は、こうだ。
しばらくの間、あの方の神格を極限まで落として、とある星に行ってみてはどうかという。
そこでは男もたくさんいるし、神界にいる決まりきった生活よりも新鮮な体験ができるのではないかと。
永遠の時間をこの神界のみで過ごすよりもそのほうが楽しいのでは?そういう内容。
正直ダメ元ではあったのだけど、意外なことにあの方は乗り気だった。
ご自身で創られた世界であるのに、実際にそこにいる者たちのことは何も知らなかったから、それに対する興味もあったのだろう。
まったく管理してこなかったから知らないのは当然なのだけど。
そこからは準備が大変だった。
あの方はご自身で力を極限まで抑え込んでみたけれど、それでもまだ足りない。
あまりに溢れ出る神気が強すぎる。
こんなものを地上の生き物が浴びたら一瞬たりとも生きてはいられない。
女神全員で必死にあの方の力を抑え込んだ。
美貌もそうだ。
本来なら神格を持つ者でなければ直視すらできない。
そうでなければ見た瞬間に正気を失い、下手をすれば廃人になってしまうほどの美貌。
美しさの到達点。
あの星にいる人間たちは、今のあの方の美しさを大いに称えているけれど、私に言わせれば今の状態は搾りかすみたいなものだ。
本来の姿は人間の脳では想像することすらできないだろう。
そうして、美貌に神気、力、それら全部を必死に抑え込んでやっと地上に降りられるようになった。
そこまでやってもどうしても美しさはある程度までしか抑えられなかったし、強者権というよく分からない力も残ってしまったけれど、どうやってもそれ以下にすることは不可能だった。
「あの方、なんだかんだで楽しくやっているみたいだから、戻ってくることはなさそうね」
「そうですねー。記憶も封印しちゃってますから、ご自身が創造神だってことも全部忘れちゃってますからね。人間として楽しくやってますよ」
「先日は、老いた先のことを色々とお話してらしたけど、人間として降りているとはいえあの方が老衰するとかあるのかしら?」
「そこら辺はなんとも分かりませんねー。前例なんてあるわけがないですし。そもそもお亡くなりになるのかすら分かりません。まあもしそうなったら神界にお戻りになるんでしょうけど」
「なんとか不老不死にできないかしら?人間のままで」
「アストレア様、本音が出すぎです」
「……冗談です、冗談」
「というかあの方に次ぐ神格のアストレア様がずっと一つの星なんかに注目してていいんですか?見るだけなら私がやっときますよ」
「最重要でしょう。宇宙の管理なら私がいなくても他の女神でなんとでもなるわ。でももしあの方の動きになにかあったら私じゃないとできないことがあるでしょう」
「それはそうですね。それに男神たちも働いてくれてますからねー、今は」
「今までサボっていた分、徹底的にこき使ってあげるとしましょう彼らは」
「あの方に神格を上げておいてもらって良かったですよねー、女神としては。お陰で男神たちも逆らいませんし。あとはどう夫婦になっていくかですねー」
「そこは男神たちの意見なんか聞かないわ。私たちが勝手に決めてしまいましょう。元々あの方が私たちと番になるように創ってくださっているのですから、相性はいいはずです。」
「ですねー。そう考えるとほんとあの方が男神をほとんどひとり占めしていた意味が分かりません。なにをお考えになっていたのやら」
「……口が過ぎますよレティシア。いと尊きお方の深淵なお考えは、私たちの浅慮が及ぶところではないのです」
「そんなもんですかねー。単に男好きなだけが気がしますけど」
「レティシア!」
「はーい、すみません」
「まったく……」
「それと、あの方があの星の男性と交際する時に言ってましたよね。『死が二人を切り裂くまで』って。あれ、おかしいですね」
「……なにがですか?あの星では婚姻する時にそういった言い回しをするのが多いらしいですよ?ああ、確かに交際するだけで婚姻するわけでもないのにそれはおかしい……のかしら?」
「いえそうじゃなくて、です。あの方にとって『死なんてどうとでもなる』じゃないですか」
「……………」
「この先どうなっていくやら、まー楽しく見させてもらうとしましょう。ね、アストレア様」




