がっつかない男たち
「気に入らないわね」
私がそう言うと男たちは一斉に私のほうを見てきた。
船長の人が質問してくる。
「また始まってしまったのか?」
「またってなによ」
「いや、今度はなにかなー、って思ってよ」
「今度はってなによ今度はって。重要なことが起きているのよこの島に」
「なにか起きてるか?特に問題は起きてないように思うんだが」
船長の人はそう答えてくる。
分かってないわねまったく。
「あなたたち、最近ちょっとがっつき度が足りないのじゃないかしら?」
「……ん?」
「最初の頃はあんだけ夜を楽しみにしていたというのに、最近ときたら『お、そういえば今日は俺の番だったな、じゃあ行くか』って感じじゃない。なんなの一体」
「……そうか?」
「そうよ。最初の頃の可愛らしさはどこへいってしまったのよ。前は順番の2,3日前からウッキウキになっていたじゃないの。『お嬢、忘れてないよな?明日は俺の番だぜ?」って目を血走らせながら言っていたじゃない。非常に遺憾だわ」
「そう言われてもなあ」
「魚を捕る人、ちょっとここに座りなさい」
「えー、俺?」
魚の人を呼び問い詰める。
「そう、あなたよあなた。一体なんなのかしら最近のがっつきのなさは」
「そうかぁ?自分じゃそんなつもりないんだけどなあ」
「全然違うわよ。あなた、私が初めての女だったでしょ」
「もはやプライバシーも何もないな。酷すぎない?30人の前で。……まぁそうだけどよ」
「最初は可愛らしかったのに……どうしてそんな子に育ってしまったの」
「え、親?」
「あなたの息子の親みたいなものでしょ」
「え、なに言ってるの突然?」
「だからあなたの息子、つまりあなたの……」
「意味が分からなくて聞き直したわけじゃないから!」
「忘れてないわよね。ここに来て初めての夜は体格のいい人とあなたの相手をしてあげたわ。女を抱いたことのないあなたはそれは可愛いものだったわよ。私の身体に触れるだけで手が震えていたわよね。しばらく私がそっと抱きしめてあげたら、やっと緊張がほぐれてきたわよね。それでもあなたの息子は緊張して……」
「あーあー!やめてくれよお嬢!!なに言い出すんだよ!!いくらなんでも全員の前で話すことじゃないだろ!!」
「事実じゃない」
「そうかもしれないけど!」
「あの可愛かったあなたはどこへいってしまったというの」
「どこへって言われてもよ……」
「魚の人だけじゃないわ!あなたも!あなたも!そしてあなたも!みんな以前は可愛らしかったのに!」
私は一人ひとりを指さして糾弾していく。
そうしたら船長の人が代表して答えた。
「いやでもよ、別にいいんじゃないのか?距離が縮まって嬢ちゃんと仲良くなってきたってことだろ。いくらなんでもこんだけ一緒にいて身体も自由にさせてもらって、最初の頃みたいに緊張してたらおかしいって。夫婦とは言わないけどそれに近い関係性に変化してきたってことでいいじゃねーか」
「嫌よ」
「えー……」
「だって私、私にがっついてくる男が好きなんだもの」
「そう言われても……どうしろと」
「がっつきなさいよ」
「うーん……」
「あなたたち、島に女が私しかいないから、女の基準が私になっちゃってない?ねえ、あなたたちが日本にいた時に私みたいな女がいた?抱けた?愛してもらえた?もう一度よーく考えなさいよ」
「いやそりゃ分かってるよ。嬢ちゃんみたいな特級呪……特級に綺麗な女なんて日本どころか世界中どこを探してもいないって。そんでそんな嬢ちゃんが俺たちのことを好きでいてくれるってのも奇跡みたいなもんだとはよくよく理解してる。だけどよ、やっぱ人間慣れちまうんだよ。こればっかりはしょうがねえ」
「しょうがなくないわよ」
「いやどうしょうもないんだって。夫婦だってそういうもんだろ?長年連れ添った夫婦がいっつも相手を見てドキドキしてたら生活にならないだろ。なんというか、そういうのよりもっと深い愛情で繋がるというか、そういうのあるだろ」
「深い愛情を持った上でドキドキして私にがっつきなさいよ」
「ええ……」
「分かってるのよ。がっつかせたければ少しおあずけすればいいって。でもそれは嫌なのよ。それが原因でピリピリしてあなたたちが喧嘩しても困るし、なにより私だって愛する男たちが目の前にいてそういうことしないってのはちょっと苦しいしね。だから、今の状態のままでいたいの。今のままの生活でいて、その上で私を情熱的に求めて欲しいのよ」
「なかなか難しいなあ」
「簡単よそんなの」
「じゃあ日本にいた彼氏たちはどうだったんだ?」
「は?日本?」
「ああ。だってよ、日本にいりゃ娯楽だってなんだってこの島とは比べ物にならないくらい多いだろ。つまり嬢ちゃんだけが楽しみだっていうこの島より更に他に目移りする事柄が多いわけだ。そうなりゃ、がっつき度合いは俺たちより更に落ち着いてたんじゃないのか?」
「うーん、まあ……でもちゃんと相手してあげてたわよ?」
「それって、やっぱこの島みたいに順番を決めてか?」
「それほど厳密じゃなかったけどね。この島みたいに全員が同じ場所で暮らしていたわけじゃないし」
「やっぱ、がっつき度だって個人差あっただろ?それはしょうがないことなんじゃないのか?」
「まあ……個人差はあるわよ当然。若くて慣れてないうちはどうしたって求められることが多いし、年齢にもよるわよねそういうのは」
「だろ?だからそういうもんなんだって。例えば俺たちが50歳60歳になったら当たり前に落ち着くだろ?もうそうなりゃ身体というより精神的な繋がりに重点を置くようになる。一緒にいるだけで幸せだとかそういうのでいいんだよ。手を握って相手が隣にいてくれる、それだけでいいって風になったら素敵だと思わないか?」
「それはそれこれはこれよ」
「ダメだ話が進まん」
そこまで話すと、今度は地図を作る人が話に入ってきた。
「50歳、60歳、でござるか……さすがにその頃には日本に帰れていると思いたいでござるな」
「まあそうね」
「それで、ふと思ったのでござるが、お嬢も拙者たちも年齢を重ねていくでござろう?当然でござるが、そうなった時にどういう生活になっているでござろうなあ。ああ、今この島で生き抜くことこそが重要であることは承知しているでござるよ?でもそういう未来のことも少し想像してしまう時もあるでござるよ」
「そうね。日本に帰って、日本の彼氏たちにあなたたちを紹介して、それで新しい生活をスタートさせる……色々な問題は起きるでしょうけど、その後には当然お互いに年寄りになっていくでしょうね」
「でござろう」
「安心なさい。ちゃんと最期まで面倒みてあげるわ。何歳になってもそういう衝動は湧くものらしいし、いくらでも相手はしてあげる。そのうえで、きちんと最期を見届けてあげるわ」
「見届ける……でござるか?」
「ええ、最期まで介護してあげる。オムツのお世話も認知症になって訳がわからなくなっても、ちゃんと私が面倒見るわ」
「……それは相当に先を見据えているでござるなあ」
「だって必ず来る未来でしょ。それで私のほうがあなたたちより長生きするでしょうし、そうなったらお世話は私がすることになるでしょう。ま、最期に残されるのは悲しいけど、あなたたちを残して先に死ぬよりそのほうがよっぽど気楽というものよ。だから安心なさい」
「……ありがとうでござる」
「でも、それに関してはちょっと不安なことがあるのよね」
「それはそうでござろう。人生なにがあるか分からないでござるよ。お嬢のほうが先に老いて何かしらの介助が必要になることだってあるでござる。そんなのはもはや運でござるよ」
「ああ、そうじゃなくてね。あのね、私って30代や40代になってもモテると思う?」
「……?どういうことでござるか?まあ、お嬢ほどの美貌ならその程度の年齢なら普通にモテてるんじゃないでござるか?」
「でしょ。だからね、もしそうなって私よりずっと若い子が彼氏になることがあったらどうしようかって思うのよ。だってそうなったら私が最期までその子の面倒をみることができなくなるでしょ。だから、ある程度の年齢になったらあまり若い子とは付き合わないほうがいいのかな、とかそういうことを考えてしまうのよね」
「ああ、そういうことでござるか」
「でもそんなのは縁だからコントロールしきれるものでもない。難しいところよね。それにね、いくら私が綺麗であってもその年齢で若い子の全てを貰ってしまっていいのか、とかそういうことも考えるわ。あなただってどう?あなたが18歳で、綺麗とはいえ40歳50歳の女にファーストキスからなにから全部を奪われて、その上その女は彼氏を何十人も抱えているってなったら。ちょっと嫌じゃない?」
「拙者はもうお嬢のことはお嬢としか見れないでござるから、それでも別に構わないと思ってしまうでござるよ……フラットに判断することができなくなっているでござる。でもそんなのは本人同士の同意の問題で別に倫理とかそんなのは関係ないのではござらぬか?言い出してしまえば年齢関係なく何十人もと付き合っている時点でアウトでござるし」
「とは言ってもね……やっぱり考えてしまうものなのよ、そこら辺は、ね。若いってことはそれだけ欲望も強いでしょ。私は相手が望むならいくらでも付き合ってあげるけど、もっと若い娘ときちんとした恋愛をしたほうがいいんじゃないかとか、そういうことをね……」
「お嬢はいくつになっても世界一の女性でござるよ」
「ふふ、ありがとう。ま、じゃあそういうことで、はいあなたたち、がっつきなさい」
「ん?」
「目を血走らせながらおいで。『お嬢、お願いだよ。もう我慢できないんだ』って言いながらよ。抱きついてきて。情熱的に。もうどうしようもないんだ感を出しながら。私が『本当にしょうがないわね、あなたたちは。今日だけ特別よ?』って言うまで縋りつきなさい」
「……結局こうなるでござるか。……それでは僭越ながらお付き合いするでござるよお嬢」




