強者権ってのはなんなの
「なあ、前から思ってたけど嬢ちゃんの強者権ってのは一体なんなんだろうな」
船長の人が聞いてきた。
「なんなんだろうなって言われても……なんなんでしょうね?」
「嬢ちゃん自身もよく分かってないのか?」
「分からないわね。なんなのこれ?物理とかに詳しい人いる?」
「多分物理の学者先生とかでも分からないと思うぞそれは……明らかにおかしいから」
「そういうものかしら」
「そもそもなんでその能力に気づいたんだ?一番最初に」
「そんなの簡単よ。初めて交際することになった彼氏とね、悪ふざけで取っ組み合いみたいな感じで遊んでいたの。そうしたら、『ちょ、ちょっと待って苦しい。ほんと苦しいからやめて』って言ってきて。私そんなに力なんて入れてないのに」
「不憫な」
「冗談で言ってると思ったのよ最初は。私のこと力持ちみたいに扱って笑わせようとしてきてるのかなって。でも本当に苦しそうだし痛そうだったからとりあえず抱きかかえるのをやめてあげて『なにしてるのあなた?』って聞いたら、『いやなにしてるの?は僕のセリフだって。なんなのその力は』って言ってきて……」
「明らかにおかしいもんな。ちょっと力持ちとかそういうレベルじゃないから」
「だからね、彼氏と一緒に試してみたのよ。まずは腕相撲してみた。相手の彼氏は別にヒョロヒョロとか、そういう感じではないのよ。標準的な男性の筋力はあるはずなのだけどね、話にならなかった。最後は私は小指一本でやっても一ミリも動かなかった。だからこれはなにか変だぞって話になったのよ」
「そうなるわな」
「それで、力があることは分かったから、次は彼氏に攻撃してもらったの。『初めてだから優しくしてね』って言って」
「セリフ自体は色っぽいんだが実際は全然違うんだよなあ」
「それで最初は空のペットボトルで引っ叩いたりとかしてみたんだけど、全然効かないの。それで最後のほうは部屋にあった鉄アレイで殴ってみてもらったの。彼氏は嫌がってたけど私が無理やりやらせてね」
「んで?まあ結果は分かってるが」
「うん、全然効かなかった。蚊に刺されたほどの痛みもなかったわ。それで、いよいよ『あーこれなんかおかしいわ、人間やめちゃってるわ』って話になって。彼氏の身体を持ち上げて100回くらいスクワットしてみたけど全然疲れなかったし。強いとか弱いとかいう話じゃなくて、なんか交際している人が絡むと色々とおかしなことになるらしいのよね」
「確かに、男を担いでスクワット100回は別に強さとは関係ないもんな。嬢ちゃんの筋肉が急激に発達した……?いやそんなわけないな。つまりはよく分からんってことか」
「そ。それでその夜にお父さんに頼んで腕相撲をしてもらったの。そうしたら普通に負けた」
「そこで気づいたわけか、交際している男限定の能力だって」
「そういうこと。その後に交際した人とも試してみたんだけどまったく同じだったから確定したってわけ」
「ひでー能力だからな。怖がられなかったか?」
「怖がられるというかドン引きはされたけど……まあしょうがないかって感じの子がほとんどだわね。『君に殺されるほどのことをするんならそれはこっちが相当なことをした時だろうから』っていう人もいたし。一応能力の詳細は知っておきたかったから色々と実験は続けたわ」
「たとえば?」
「聞きたい?」
「……聞きたいような聞きたくないような……」
「多分あなたたちが想像するよりずっとおぞましいことが可能よ。この島じゃ私から逃げることもできないからあまり聞かせたくないのよね。可哀想でしょう」
「えー………」
「まあ日本に帰ったとしても逃がすことはないのだけど、一応は少しの間は私から逃げ延びることは可能なわけだから、精神的に楽でしょう?」
「…………楽、なのかな?ん?そうなのか?」
「そりゃ楽よ。この島じゃどうしたって私たちは一緒に暮らすしかないのだから、私と毎日顔を合わせることになるでしょう。そういう環境であまりに私がおぞましい力を持っていると分かったら精神的にやられてしまうかもしれないでしょう?日本でなら少なくとも物理的に少しの間は離れられるわけだから楽よ」
そこで地図を作る人が質問してきた。
「おぞましいって……そんなに怖いことが可能なのでござるか?拙者らがドン引きするような。一応は少しは把握しておきたい気持ちがあるでござるよ」
「そうなの?」
「それはそうでござるよ。まったく知らない状態ってのが一番怖いでござる。今拙者らが知っているのはお嬢相手には絶対に敵わないとか、銃で撃ってもピンピンしているとかそういうことでござろう?それだけでも相当なのでござるが、それ以上のことが可能なのでござるか?」
「…………あなたのこと…………食べちゃっていい?」
「…………は?」
「ふふ、冗談よ」
「あ、あ、あのそれは……遺体にした後のカニバリズム的なことでござるか?それは流石にドン引きを超えてござるぞ………?」
「そんな誰もが考えつくシンプルなことだと思う?私が『おぞましい』と言ったのよ?」
「…………」
「だから冗談だってば。怖がらなくて大丈夫よ。今までとなにも変わらない。私はあなたたちを生涯愛する。本気で害することはないわ」
「……本当でござるか?」
「ええ、本当。猟奇的な美少女を気取るつもりなんてさらさらないの。そういう中途半端なのはなんちゃってファッション狂人に任せておけばいいわ」
私はそう言ってから地図の人を抱き寄せた。
一瞬だけビクっとしたけど、すぐに力を抜いて身体を任せてきてくれた。
フフ、いい子ね。
「だってそうなる状況が0%なんだもの。私はあなたたちが世界一の悪人になっても見放さない。世界中すべてが敵になっても、よ。そうなっても『おぞましいこと』は実行しない。つまり起きることはあり得ないのよ」
「……信じていいのでござるか?」
「ええ、私のことだけは信じてもいいの。他になにも信じられなくなっても、ね。……他の子もおいで」
私はそう言って地図の人以外の彼氏たちも順に抱きしめていく。
「強者権なんてオマケもオマケよ。そんなこと気にしなくていいの」
「う、浮気とかをしてもでござるか……?お嬢は特にそういうのに厳しそうでござるが……」
「剛くんみたいな例外はあるけど……そもそも、あなたたち、今は島に女が私しかいないからピンとこないだろうけど、日本に帰って他の女を見て魅力を感じるのかしらね?」
「あ、あー……うん、確かにそうでござるな」
「でしょう?順番待ちがあるとはいえあなたたちは世界一の女を好きに抱けるのよ?浮気ねえ……」
「あんまりそこら辺は心配する必要なさそうでござるな」
「ええそうね。でも…………『覚悟』は必要よ?もしするのなら」
私はそう言って「ガオー」って言いながらライオンみたいに威嚇してみる。
彼氏たちは全員ビクっとなって震えてしまった。
フフ、冗談よ冗談。




