いい女
今日も今日とて焚き火を囲んでみんなで雑談をしている。
船長の人が話しかけてきた。
「嬢ちゃんの日本にいる彼氏ってほんと千差万別っぽいよな」
「ん、まあそうね」
「嬢ちゃんほどの女だったらそれこそよりどりみどりだろ?いいとこの企業のお偉いさんとか、有望ベンチャー企業の経営者とか、なんとか有名大学の学生とかそういうの」
「んー……」
「でも話聞いてるとそうでもないよな」
「あなたね、それなりに長く私と一緒にいるのに、まだ私がどういう人間なのかいまいち理解できていないようね。この前話した慶次くんもそうだけど、結局は縁なのよこういうのは。中にはあなたが言ったような、世間一般でいうところの優秀な男性も何人もいるわ。でもそれはただの偶然なのよ」
「そんなもんか」
「あなたたちがいい例でしょ。こんな孤島に男30人と女は私ひとり、こういうのって私に言わせるととんでもなく大きな縁なのよね。だからこうなってる」
「あーなるほどな」
地図を作る人も質問してくる。
「お嬢であれば、付き合った彼氏を引き上げることも容易でござろう?コネでも伝手でも金銭的なことでも。例えばその慶次殿とか、経済的な理由で進学を諦めて工場勤務をしているという話であったでござろう」
「慶次くん?ん、まあそうね」
「だとすればお嬢であれば知り合いの、それこそ先ほどの話に出た鈴木殿とか自分の彼氏の誰かに頼んで……」
「私は、そういうことはしないの」
「……そうなのでござるか?」
「やろうと思えば確かに簡単でしょうね。でも、あなた考えてみてちょうだい。自分の人生をそうやって付き合っている彼女に全部用意してもらって、レールを敷いてもらって、さあそこを走りなさいと言われて満足できる?自尊心は傷つかない?」
「あー……言われてみれば確かにでござるな」
「だからね、私はそういうことはしない。できることは寄り添うこと」
「例えば?」
「慶次くんの例でいえばね、付き合ってから彼と話していて気づいたの。彼はとても優しい話し方をする。なにかトラブルがあっても慌てず騒がず動ける。そして、私が知らないことを話す時には、まず前提として必要な情報をそれとなく雑談の中に入れてから自然に話し始める。そういったことが当たり前にできる人だった」
「なるほど。言うは易く行うは難し、なかなかできることではござらんな、そういったことは」
「あの下出みどりという女にも高校の時に勉強を教えていたという話は聞いていたしね。……腹立たしいわね。どんな状況だったのかしら。放課後の図書館で二人きりで?帰りの途中のマックで?それとも家のコタツに入りながら、たまに足でつついたりしながら?ああ、また腹が立ってきたわね」
「お嬢、脱線しそうでござる。慶次殿の話をお願いするでござるよ」
「ああ、そうね。それで、慶次くんはもしかしたら人に何かを教える仕事が向いているんじゃないかと思ったわけ。学校の先生とかそういうのね」
「なるほど、確かに向いていそうでござるな」
「それで、それとなく話してみたの。そういった職業に興味はないの?って。そうしたら彼も否定はしなかったわ」
「ふむふむ、お嬢はそれで?」
「でもね、私は提案してみるとか、そういう道もあるんじゃない?って言う、それだけ。誘導もしないしもちろん強制もしない。だから待ったわ。慶次くんの答えを。そうしたら、慶次くんは少し悲しそうな顔をしながら言ったの。『憧れはあるかもしれないけど、無理だと思う』って」
「それは……経済的な事情とか、そういうことが原因でござるかな」
「そうね。大学進学というのはお金がかかるもの。国立大学であったとしてもね」
「それで、お嬢はその状況を改善したのでござるか?金銭的な面とかで」
「言ったでしょう、私はそういうことはしない。それだとただただ慶次くんは私に頭が上がらなくなってしまう。そういうのは彼の幸せにならない。だから、私ができることはそういうことじゃない。まずは調べたわ。教員免許というのは大学に進学しなければ取れないものなのか。そうしたら確かに進学は必要だった。ごく一部の例外もあるようだったけどそれは慶次くんには関係ない。だからどうすればいいか調べた」
「何か道はありそうだったでござるか?」
「ええ、通信制の大学でも教員免許が取得できるところがあったわ。それなら働きながらでも勉強できる。でも、それだけ分かっても実のところは分からない。ネットで調べられることには限りがあるし、それにそんなのは私でなくてもできる。だから私はそれらの大学まで行ってみたわ」
「行動力あるでござるなあ」
「ええ、本当は校内に無断で入るのはダメらしいのだけどね。歩いている学生や教員らしい人にニッコリと笑いかけてから『私実は……お金がなくて通信制があるこの大学に興味があるんですが……右も左も分からなくて……』って少しうつむきながら話したら色々と教えてくれたわ」
「…………」
「話しかけた人は昼間の大学に通う人だったけど、すぐに通信制の知り合いに連絡を取ってくれて引き合わせてくれたわ。その人から実際にどういったことが問題になるのか、通信だけではなく年に何回かある、実際に大学に来なければいけない授業はどういった形で行われているのか、その時の宿泊場所などはどうやって確保しているのかとか、あらゆることを聞いたわ。というか向こうが聞いてないことまで全部話してくれた」
「んー……まあお嬢が困っているといえば男性はなりふり構わず助けようとするでござろうからな」
「その情報を持ち帰って、慶次くんと相談した。今の貯金はいくらあるのか、月の稼ぎはいくらあるのか、そして大学の授業料はいくらなのか、とかね。幸いなことに授業料に関しては昼間の大学に比べたら非常に良心的な価格だったわ」
「なるほど、授業料をお嬢がポンとだすのは違うのでござるな」
「そういうこと。それからは、慶次くんが勤める会社に行ってね、慶次くんと相談したうえで、私は婚約者ということにして二人で社長さんと工場長さんに会ったの。慶次くんはこれから通信制の大学に行くつもりだと、そして年に何回か実際に大学に行かなければならない、教育実習というのもあるから何とか休みの都合をつけてもらえないかと、私も一緒に頭を下げた。その社長さんも工場長さんもね、慶次くんのことは非常に評価していたみたいで、もし教員になったらこの会社をやめてしまうのは非常に惜しいが、彼の夢のためならその程度のことは許容すると言ってくれたわ」
「お嬢は、そういうことでは協力はするのでござるな。さっきの情報収集といい」
「当たり前でしょう。私の彼氏よ。私の身ひとつでできることなら何でもするわ」
「慶次殿はそれで働きながら勉強も頑張っているのでござるな」
「ええ。分からないところがあれば私も一緒に考えて、疲れたらお茶を淹れる。夜の時には疲れさせないように私が上になってね。とても大変な生活だからフォローできるところはしたわ。他の彼氏もいるから彼につきっきりというわけにはいかないけどね」
「途中で少し生々しい話が入ったようでござるが、それは置いとくとして……」
「なに?」
他の男たちも一斉に言う。
「「「お嬢ってもしかしていい女なの?(なのでござるか?)」」」
「…………」
「え、なんでござるかその理想的な女性像は?もしかして日本のお嬢は分裂した片割れだったりするでござるか?神様とピッコロ的な」
「あなたね……」
彼氏たちが続けて言う。
「この前、木の一番上になってた美味そうな実をやっとこさ取って食おうとしたらお嬢に奪われたぞ」
「ラジオ体操の代わりって言って相撲やらされて10分間放り投げられ続けた」
「『これはきっとお茶になる葉っぱよ』って言ってお嬢が採ってきた謎の葉を煎じた液体を一緒に飲まされた」
「あれな、人が飲むものの味じゃなかったな」
「お嬢リサイタルでの歌を1日で作詞作曲しろと命令されましたね」
「あれはなかなか曲の出来が良かったな。曲は」
……好き放題言ってるわね?
「で、結局私のこと好きなの?嫌いなの?」
「「「大好きだけど?(でござるが?)」」」
ならいいじゃない。
なんなのこの子たちは……




