美人が怖いという男
「んー、美人に対するトラウマか。事情は人それぞれ、ほんと千差万別だからな」
「でまあ当然詳しく聞くわけよ。強者権はもう発動しているからどうとでもなるわけだしね」
「どうとでもなる、って考えちゃう嬢ちゃんの思考が非常に危ういんだが、もう全部一旦置いとこう。そんでその男はどういう事情を抱えてたんだ?」
「言葉で説明すれば大したことじゃないのかもしれないけどね。その子は、小学校からずっと同じ学校、同じクラスだった女と、高校になってから付き合ったらしいのよ。その女からの告白でね」
「いいね、王道の恋愛コースだな」
「勉強を教えてくれとか、服の良し悪しが分からないから買い物に付き合ってほしいとか、そういう誘いを受け続けて、そのままなし崩しって感じで告白されて付き合ったらしいわ。小学校からの付き合いだもの、そういうこともあるわよね」
「青春だねいいね」
「まあそこまではいいわ。その女ってのは、その子と付き合うまでは化粧もしない服のセンスもダサい、流行りの曲も知らない、女同士の会話も要領良く回せない、そんな感じの女だったらしいわ」
「まあそこら辺は別に男はあんま気にしないからな、好き同士になって付き合っちゃえば関係ねーよ」
「男ってそういうものらしいわね。でもその女は、告白してその子と付き合ってから変わった。元々、顔立ちが整っていたらしくて、ちょっと化粧を覚えて眉毛の形を整えて髪型を変えて服を流行りのものにするだけで一気に化けたらしいの」
「あー、磨けば光る宝石ってやつな。そういうのいるよな。でもそれは男としては掘り出し物だったわけで問題ないと思うんだが」
「掘り出し物……だったらよかったのだけどね。その女は性格まで変わってしまったらしいの。元々地味めな見た目と性格、女付き合いでそういうのにコンプレックスを抱えていたのでしょうね。その子と付き合っているのに他の男グループとも遊ぶようになったし、妙な所に出入りするようにもなったらしいわ」
「あー……そっちのパターンになっちまったか」
「それでも高校まではよかった。問題は卒業してからね。その子は家庭の事情もあって高校卒業後は地元の工場に勤め始めた。そしてその女は少し離れた場所の短大に進学したらしいわ」
「遠距離ってわけか。辛いな」
「ええそうね。その子は幼馴染の彼女に惚れていた。しかも、彼女は外見まで魅力的になっていたから、かなり精神的にこたえてしまっていたようね。それで……まあ船長の人なら予想はつくと思うけど、高校で一気に化けた女が短大に行く」
「……そこら辺は人によるとしか言いようがないから断言はできないが、あかんパターンに行っちまったわけだな」
「ええ、夜遊びを覚えて男遊びを覚えて、まあお決まりのパターンよ。もちろんそうならない女のほうが多いのだけど、元々の資質だったのでしょうね。その女はそうなった」
「男としては辛いな」
「ええそうね。美人という理由で付き合ったわけではなかったわけだしね。化けたのは付き合った後だったのだから。余計に辛いでしょうね」
「そんで?」
「まあその子も薄々はその女が変わってしまったことは分かっていたのだけど、短大を卒業したら一緒に生活したいな、いずれは結婚もしたいな、そういう風に考えていたらしいわ。健気よね。そんなの見切りをつけちゃえばいいのに」
「なかなか割り切れないもんだよそこら辺は」
「それで、ある日電話をした時のことよ。女が変わってしまったとはいえ交際は続けていたわけだし、いつも通り生活の報告とかそういうことを話していた。その子は毎日、工場でクタクタになるまで働いていたから、特に目新しい報告も話題もなかったのだけど、女のほうは電話をするたびにキラキラした体験をした、とかその手の話しばっかりしてきたみたいね」
「辛いなそれは……」
「それで、その日はそれだけじゃなかった。会話をしていたら、『んっ……』とかいう女の声が聞こえて、なんだろう?って思っていたらしいのだけど、まぁ、そういうことよ」
「あー…………」
「普通なら女の側から慌てて電話を切るわよね。男を連れ込んで彼氏と電話している最中に、間男が身体を触ってきたなんて状況になったら。でもその女は電話を切らなかった。でもその子は純粋だから、本当に最初はなにが起きているか分からなかったらしいの」
「…………」
「電話を切らない女。なにが起きているか分からないその子。そして、まぁ、その女は、なにを考えているのか、電話を切らないまま本当におっ始めたらしいのよね。」
「それは……ちょっと狂ってるな」
「さすがにそうなればその子だって分かる。分かって……すぐにその子のほうから電話を切ったらしいの」
「そりゃ普通そうするわな。耐えられんわ」
「その次の日、当たり前のように女から電話がかかってきたらしいわ。それで、『住んでいる世界が変わってしまった、ステージが変わってしまった』ってね。なんのステージなのか私にしてみればさっぱり分からないけどね」
「……それで?」
「で、そこからが凄いのよ。だけど別れるとかも面倒だから別に話し合いとかもしなくていいって女は言ったらしいわ。付き合ってると思いたかったら別にそう思っていてもいいって。短大を卒業して地元に戻るようなことがあって、そのときにまだ私にその気が残っていたら、そのまま付き合ったままでいてあげてもいいって」
「……すごすぎない?その女」
「私と似てると思う?その女のこと」
「いや、全然違うだろ」
「そう。私は男が好き。付き合った男のことが好き。愛してる。二股三股は当たり前、彼氏は十人二十人いてもいい。はたから見れば私のほうがよっぽど酷いし狂ってるのでしょうね。だけどね………」
「ああ、嬢ちゃんの言いたいことは分かるよ」
「私にとって、その女は絶対に許してはいけない敵になった。おかしいと思う?その日初めて会った男に過去の身の上話を聞かされただけでそういう考えになるのは」
「いや、嬢ちゃんはそういう女だろ。まあ正直ちょっと頭がおかしいところはあるが、そういうとこ含めて俺たちは嬢ちゃんのことが好きなんだよ」
「ありがとう」
「それでどうしたんだ?」
「ええ、高校デビューで美人になって、男にモテてキラキラしてるその女にね、美しさの頂点ってものを見せにいこうと思ったのよ」




