日本に残してきた彼氏たち
「私、最近毎日考えちゃってることがあるのよね」
夕方、一日の仕事を終えた彼氏たちが集まってきている場所で私は切り出した。
地図の人が返答してくる。
「なにがでござるか?また愛され系ぽわぽわ聖女とかになりたいとかいうのはやめて欲しいでござるよ?」
「あれはしばらくはいいわ」
「しばらく……?」
「いやね、この島でのことはまぁいいのよ。あなたたちはよく働いてくれているし、公平に抱いてあげれば文句も言わないし」
「完全に飼いならされてる感をひしひしと感じるでござるが、否定はできないでござる」
「だからこそね、日本に残してきてある彼氏たちのことが心配なのよ」
「ああ、そっちでござるか。20人ほど日本にも交際している男性がいるのでござったな」
「そうなのよ。別れてしまった子たちの様子も定期的に見に行ったりしなければならないし、それがこの島に来てしまって完全にストップしているのよね」
「そのお嬢の恋愛観についてはもはやツッコミを入れないでござるが、確かに心配でござるな。おそらくお嬢のことが心配で夜も眠れず探し回っているのでは?」
「ほぼ確実にそうなっているでしょうね。それにきちんと処理もしてあげられていないから、欲求不満で争いが起きていないか、それが一番心配よ」
「それはなんとかなってる気がするでござるが……」
「なんでよ。きちんとすっきりさせてあげないと男ってのはすぐに凶暴化して争いを起こしてしまうものなのよ?私がいた頃は完璧に管理してあげていられたけど、それができない今……ああ、とても心配だわ」
「そうでござるかなあ」
「そうに決まってるわ。別れた彼氏も、私がきちんと面倒を見てあげているから生活できている子がいるの。きっと今頃生活が破綻して泣き叫んでいるわ。私に会えなくなって淋しいって一日中泣き明かしているに違いないわ。ああ、心配だわ」
「うーん、そんなもんでござるかなぁ」
───日本での(元)彼氏───
「雛菊ちゃん、今日は連絡きた?」
「今日もなかったわよ。なにやってるのかしらねあの人」
「旅行に行ってくるとは言っていたけど、今までは世界中どこにいても連絡アプリにひっきりなしに通知がきていたのにね。こんなことは初めてだよ」
「はい。SNSに投稿すると30秒以内にいいねとコメントが返ってきてたんですよ今までは」
「それはちょっと怖いかな」
「返信も一行とかじゃなくてそんな短時間なのに私の本文ちゃんと読んでめちゃくちゃ丁寧に返ってくるんです」
「なんというか、彼女らしいね。雛菊ちゃんのことを大切に思っているんだよきっと。彼女にとっては貴重な女性の友達だからね」
「そんなもんですかねえ」
「そうだよ。それに僕と彼女はもう別れちゃっているわけだから、むしろ今は雛菊ちゃんとの関係を大切にしているんじゃないかな?」
「というか、『別れる』の定義が私最近分からなくなってきました。あの人、剛くんにも私にも現役恋人以上の距離感で接してきますよね?」
「うん、まあそうだね。彼女にとっては別れることイコール離れることではないみたいだから。多分これ一生続くよ?」
「続きますよね」
「うん、ほぼ確実に」
「たまに三人で会うっていうの、私、2、3ヶ月に一回くらいかな?って思ってたんですけど、全然そんなことなかったですね」
「雛菊ちゃんとお話するのが楽しいんだよ、きっと。三人で会っていても僕よりも雛菊ちゃんと話している時間のほうが長いくらいだものね、今は」
「『あなたたちに赤ちゃんが産まれたら手縫いのちゃんちゃんこを縫ってあげる』とか言ってましたよあの人」
「すごい先を見据えているね」
「産着も全部用意するって言ってました。ベビーカーやらの必要なものも全部。それに出産費用その他一切なんの心配もいらないからって。なんか赤ちゃんに異常に拘るんですよねあの人」
「あー……うん」
「そんな人がこんなに長い間連絡してこないってなんかありましたよね絶対」
「なにかあったことは確実だろうね。既読にもならないから、電波の届かないところにいるってことだろうし」
「……まさか、本当に事件や事故に巻き込まれて、どこかの無人島にでも流されてるんじゃ」
「あはは、まさか。……いや、彼女ならあり得るか。でもさ、雛菊ちゃん」
「なんですか?」
「もし本当にそんな絶望的な状況に陥ってたとしてさ。あの人、今頃どうしてると思う?」
「……どう、とは?」
「なんとかなってると思わない?」
「……。そうですね……。持ち前の物理コミュ力と謎の生活能力で、現地の人や野生動物、あるいは一緒に遭難した男の人たちを完璧に手懐けてそうですね」
「でしょ? 毎日誰かしらに『お嬢』とか呼ばせて、身の回りの世話を全部やらせて、王様みたいに君臨してそうな気がしない?」
「します。むしろ『男を定期的にすっきりさせてあげないと凶暴化して争うから管理しなきゃ』とか大真面目に言って、現地で新しい逆ハーレム作ってそうです」
「間違いないね。僕たちの心配をする余裕すらありそうだ」
「……。なんか、心配するだけ損な気がしてきました。あの人、人間の規格を超えたチート持ちですし」
「うん。周りの男性がいる時点で彼女の安全性は100%保証されるようなものだからね」
「強者権でしたっけ。酷すぎですよねあれ。騙し討ちみたいなもんなのに効果は絶大な上に永続って、ゲームなら速攻修正入って弱体化されてますよ」
「うん。どこにいても死なないどころか、めちゃくちゃエンジョイしてそうだよね。だから僕たちも、いつも通り普通に過ごして待ってようか」
「そうですね。あの人が帰ってきたら、また怒涛のスケジュール管理が始まりますし。今のうちに二人の時間を満喫しておきましょう」
「そうだね、帰ってくるのはほぼ確実だし、二人きりの生活を楽しもう」
「そ、それで……あの、剛くん……」
「なんだい?」
「か、彼女が帰ってきた時のサプライズに……その、『ベビーカーが必要になったんで買ってください』とか言ってみたくない?」
「……!」
「剛くんも正社員の面接に合格したことだし……」
「雛菊ちゃん……」
「剛くん……」
───お嬢視点───
「元カレの彼女もね、今は私の友達なのよ、まあ向こうが泣いてお願いしてきたから友達になってあげたのだけど」
「そうでござるか」
「元カレもその子も私がいないとなにもできないから……ああ、心配だわ」




