お嬢は自分のために男に争ってもらいたい
「ねえ、私最近思うのよね」
昼食を終え、彼氏たち30人が集まっている広場で私はそう切り出した。
船長の人が質問してくる。
「なんだ嬢ちゃん。なにかここの生活に思うところでもあるのか?」
「ええ。ちょっと不満なのよね」
「そうか?なんだかんだ上手いことやってるんじゃないか?食料もとりあえず心配ないし、刃傷沙汰も起きていない。嬢ちゃんはいいトップだと思うぜ」
「そこなのよ」
「ん?」
「私ね、この島に流れ着いてあなたたちと暮らすことが決まった時に、もっと凄惨なことになると思っていたのよ」
「凄惨な……?ああ、嬢ちゃんの身体に危害が及ぶとかそういうのか?」
「いいえ、そこは全く心配してなかったわ。私が交際を申し込めば、男は必ず了承するんだから、その時点で私の強者権は発動してなんの心配もいらなくなる。だから問題はそこではないの」
「……?じゃあなんだってんだ?」
「こう、男たちが私を巡って争い、なにかトラブルが起きる。それを私がなんだかんだと解決してあげる。『私を巡って争わないでください!争いはなにも生み出しません!』、そういう展開はなかったのかなって」
「いやだからそれは嬢ちゃんが禁止したんだろ。俺たちが争うのは絶対にNGだって。争った時点で嬢ちゃんがすっ飛んできてフルボッコだろ。つかキャラが全く違うぞ嬢ちゃん」
「うん、そうなのだけどね。そもそも私のお仕置きがどうとか関係なく、あんたたち仲良くやってるわよね?パンツの色がどうたらとか下らないことで争ってはいたけど。拳銃が出てきたこともあったけど、私に向けて撃っただけだったし」
「嬢ちゃんに向けて撃ったのも相当だと思うけどな……ピンピンしてたが」
「だからね、そういう、なんていうのかしら?孤島に流れ着いた男30人、美少女一人を巡って……!的なのはなかったのかなって」
「んー……そもそも俺ら結構気が合うんだよ。別に喧嘩する理由もないっていうか……日本にいた時の立場もなにもかも違う30人だけどなんだかんだ馬が合うからなぁ不思議と」
「そうなのよね」
「それと嬢ちゃんを巡ってって言っても、嬢ちゃん俺たちに何もかも公平にしてくれるじゃねえか。夜の相手もしてくれるし、処理のための……材料もくれるしよ。別に不満から抗争勃発とか起こらないって」
「うーん………」
「嬢ちゃんがどうなって欲しいんだ?」
「私もね、女だから女性向け小説とか読むのよ。ネットとかでね。そうすると、ふわふわぽわぽわした女主人公を巡って、王太子や公爵令息、騎士団長令息、子爵家令息、そんな感じの人たちが争うわけよ」
「王太子……?」
「そ、王太子はよくあるわよね」
「ここのどこに王族がいるってんだ?」
「いないの?」
「いねえよ!!」
「争ってよ、私を巡って」
「だから王族も公爵もいねえっての!!」
「なんとかしてちょうだい」
私が宣言すると、彼氏たちは相談を始めたようだ。
(おい、またお嬢が妙なことを言い始めたぞ)
(今回は特に頭おかしいな)
(王太子ってあれか?日本でいう皇太子様みたいな感じか?次の王様になる的な)
(多分そう)
(どこに公爵の息子がいるってんだよこの島に)
(俺、下町の八百屋の倅だぞ)
(俺はネギ農家の息子だ)
(争うなって言ってたのお嬢じゃんかよ)
(なんか憧れがあるんだろうな、ふわふわぽわぽわ系の女に。正反対すぎて)
「あー、あのさ嬢ちゃん。そういうのは日本でやればよくねえか?別にここでやらなくても。つか日本にいる彼氏たちにだって大切にされてたんだろ?王太子ごっことかやってもらえば良かったじゃねえか」
「ダメよ。日本だと世間体ってもんがあるでしょ。そんな頭のおかしいムーブはできないわよ」
「頭おかしいって自覚してるのかよ!じゃあなんで俺たちにやらせようとしてんだよ!!」
「別に今更あなたたちに何と思われようが関係ないし。世間体もこの島にはないし」
「距離感が近すぎるだろ……」
「やってくれないとあれの最中に握りつぶすわよ」
「なにをだよ怖すぎるだろ……」
(おい、なんかやらないと収まらないぞこれ)
(やるってなにをだよ)
(いやだから王太子役と公爵なんとか役とか決めてよ、やるしかないだろ)
(えー………)
(もう適当にやって満足させちまおうぜ)
(ふわふわっぽい感じになりたいんだろ?じゃあそういう方向性でいくか)
(んじゃ覚悟決めるか)
「わかった、わかったよ嬢ちゃん! そこまで言うならやってやる。ただし、途中でキレて俺たちをフルボッコにするのだけはナシだぞ!」
「ええ分かっているわ」
「おい、行くぞ……。コホン。……お、おのれチズヲカーク公爵令息! 聖なる乙女である嬢ちゃん……いや、オジョアーノ様の手を握るとは不敬であるぞ!」
「ハッ、何を言うでござるかセンチョウ王太子!彼女の瞳に映る資格があるのは、この僕だけでござる!」
ああ、船長の人が王太子で地図の人が公爵令息なのね。
ネギ農家の息子が「騎士団長としてお守りします!」と、拾った流木を構えているわね。
みんな大根役者もいいところだが、ここまでやってくれたのなら乗らねばならないだろう、ビッグウェーブに。
「私のために争わないで……!」
私が両手を頬に当て、精一杯「ふわふわぽわぽわ」した声を出すと、男たちが一瞬ビクッと肩を震わせた。
お仕置きの合図と勘違いしたらしい。
いけない、もっと可憐にいかなくては。
「でも、私、選べないわ……。みんな、私にとって大切な『彼氏』なんですもの……っ!」
涙を拭う仕草をしてみせる。
「……選べない、でござるか? ならば力ずくで奪うまででござる!」
「待てチズヲカーク! 彼女に触れることは、我が王権への反逆とみなす!」
なかなか乗ってきたわね。
いいわよ、こういうのよ私がこの島で見たかったのは!
取っ組み合いのフリをしている二人に駆け寄り、引き離そうとしてみる。
ふわふわぽわぽわっぽく間に入ろうとしてみたのだけど、そこで強者権が発動してしまう。
「あっ」
船長の人と地図の人を、完全に腕力で引き剥がしてしまった。
船長の人と地図の人が尻餅をついてしまう。
……ダメよ、これではまったくふわふわしていないじゃない。
「………………船長の人、まとめて」
「だからなんでそういうの俺にやらせるんだよ!ここからどうやってまとめるんだよ!」
「満足したわ」
「なんなの?ほんとなんなの嬢ちゃん!?」
「ま、お嬢が満足してくれたのなら良いではござらんか。船長どの、まとめてくだされ」
「え、あー………そうだな………嬢ちゃんのことはこの島にいる男みんなが大切に思っている。争う必要もないくらいに、だ。そして嬢ちゃんも俺たちを憎からず思ってくれている。それでいいじゃねえか。俺は今のこの島の形が結構好きだぜ?」
「そういうのいいから。次はもっと満足度を上げてちょうだい」
「もうほんとやだこの美少女……」




