島での娯楽はお嬢のリサイタル
「あなたたち、何をしているの?」
穴を掘る人と罠を作る人がふたりでなにやらやっている。
この前はパンツの色で争っていたのだけど、なんだかんだ仲がいいのよねこの二人。
罠を作る人が答える。
「ああお嬢。将棋だよ将棋。この島、娯楽がないだろ?だから板っぺらで作ったんだ」
「へえ将棋。懐かしいわね私も日本にいた頃はよくやったものよ」
「へえ、お嬢が将棋!なんか意外だな」
「日本での彼氏に将棋が強い人がいたから、よく相手をしてもらっていたのよ。でも私ほとんど負けなかったわよ?」
「へえ、なかなかの実力者ってわけだ。んじゃ穴のやつとの勝負が終わったらお嬢に相手をしてもらうとしようかな?」
「ええいいわよ」
穴を掘る人と罠を作る人の勝負は罠の人の勝ちで終わり、私との勝負に移る。
勝負なのだから手加減しないわよ?
「んじゃ俺が勝ったらお嬢にはパンツでも見せてもらおうかな」
「別に構わないけど、普通に私が勝つわよ?あ、駒は私が並べてあげるわ」
そう言って私は自分の陣地と罠の人の陣地の駒も全て並べてあげる。
気が利くわよね私。
「さ、できたわよ。始めましょう」
「……」
「どうしたの?」
「いや……目の錯覚かな?俺の駒が王と歩しかないんだが」
「……?」
「なんで『なに言ってんだコイツ?』みたいな顔してんだよ!どうしろってんだよこれで!!」
「将棋ってこういうものではないの?」
「全然こういうものじゃねえよ!日本の彼氏はこれでやってたのかよ!そりゃお嬢が勝つに決まってるだろ!」
「そうかしら?最初の頃はこれでも結構負けたのだけど……とにかく飛車と角を相手陣地に入れて成りにしちゃえばいいんだって気づいてからほとんど負けなくなったけど」
「そりゃ歩と王しかないところに竜と馬が入ってきたらどうにもならねえよ当たり前だろ!!」
「わがままねえ、あなたは……」
「どっちがだよ!今回はお嬢の反則負けってことでパンツ見させてもらうぞ!」
そう言って罠の人は私のスカートをめくってきた。
「またベージュのデカパンかよ!」
不満を漏らしてきた。
イラっとしたので彼の背後から羽交い締めにして、そのまま後ろに放り投げておいた。
「なんで俺の時は受け身不可系の投げばっかなんだよ……」
と呟いたあとに気絶する。
ふーむ、どうやら将棋はできなさそうね。
でも確かにこの島に娯楽がないのは確かだ。
男たちの楽しみといえば、食事と私の身体。
それ以外の娯楽は、ほとんどない。
これでは不健全かもしれないわね……
近くにいた地図を作る人に声をかける。
「ねえ、地図の人。ちょっとこっちに来て」
「なんでござるかお嬢?」
「あなたなにか面白いことしなさいよ」
「無茶振りが過ぎるでござるよ!どうしたらいいでござるか!」
「だってこの島娯楽が少ないから……あなたたちもストレスが溜まると思って」
「なにゆえ拙者に丸投げでござるか!それと見たところ将棋をやっている様子。それで十分娯楽になるでござろう」
「なんか罠の人が嫌がるのよね……だからもっと分かりやすく面白いことがないかと思って。地図の人、腹踊りとかできないかしら?」
「そんな特殊な一芸は持っていないでござるよ……というか、この島で娯楽といえばお嬢との触れ合いが一番でござろう。なにかお嬢が考えてみては?」
「私が?うーん……私との触れ合いでの娯楽ねえ……なにか競わせて勝者を抱いてあげるとか?でもそれだと順番がごっちゃになっちゃうし困るわねえ……」
「いやそこまで直接的な情緒のないものはいかがなものかと……」
「情緒……?」
「なにゆえ『なに言ってんだコイツ?』みたいな表情をするでござるか!?普通そんな提案は女性は簡単にしないものでござるよ!?」
「……?別にそのくらいはどうとでもないけど……ただ順番が変わっちゃってあなたたちが喧嘩になるのが嫌なだけで。あ、そうだわ。じゃあ触れ合いながら娯楽になるいいことを考えついたわ」
「お、なにかひらめいたでござるか!聞かせて欲しいでござる」
「あなたたち、私を肩車してどこまで真っ直ぐ行けるかレースしなさいよ。これなら私と触れ合いながらも競争という娯楽にもなるでしょ」
「真っ直ぐ……?森の中にできつつある獣道のような所を通るということでござるか?ゴールはその先にある魚を捕る場所、とか?」
「いいえどこまでも真っ直ぐ進むのよ」
「男塾でござるかな?」
「いいアイディアだと思ったのだけどダメかしら?」
「ちょっと危険が危ないでござる。それはさすがに却下させていただくでござるよ」
「わがままねえ」
「……普通に、みんなで歌うとかそういうのではダメなのでござるか?有名な曲とか童謡とか、全員が歌えるものならそれなりに楽しいでござるよ?」
「ああ、それいいわね。私実は将棋の他にも歌うのも得意なのよ。じゃあまずはリハーサルとして私が一曲歌うからあなたたち聞きなさい」
私がそう言うと、穴を掘る人、罠を作る人、地図を作る人の三人が並んで座り込む。
観客が三人というのは少し淋しいけど、本番は30人全員を集めて歌うことにしましょう。
そして私の歌に感動した後に全員で合唱。
うん、いい案ね。
「それじゃよく聞きなさい私の美声を」
「「「はーい(はいでござる)」」」
私は大きく息を吸い込み、お腹に力を入れる。
日本にいた頃、カラオケでみんなが「君の歌には破壊力がある」「心が震える」と大絶賛してくれた自慢の歌声を、この砂浜と青空へと解き放った。
「ーーーーーーッ!!! ♪~~~~~!!!!!」(超絶大音量)
瞬間、三人の目がカッと見開かれた。
なかなかいい反応ね。
罠の人はそのまま後ろに倒れ込む。
ふむふむ、日本の彼氏たちもみんなそんな感じだったわ。
やはり美しい歌声というのはどこでも同じリアクションを生むのね。
私はそのまま気持ちよく一曲を歌い終え、ふうと息を吐いた。
どうかしら、私の魂のルフランは。
「お、お嬢。一体今のはなんでござるか……?」
地図の人はなぜか鼻血を垂らしながら尋ねてくる
今のは、とは一体どういう意味かしら?
歌だけど?
「決まりね。定期的に実施しましょう。私の歌の後にみんなで合唱。これね。提案者は地図の人だってみんなに伝えておくわ。感謝されるわよきっと」
私がそう言うと地図の人がすかさず、
「お、お嬢!待つでござる!ちょっと……えっと、ちょっと待って欲しいでござる!」
などと言ってきて、続いて罠の人が起き上がり、
「お、お嬢!えっと、えっとあれだ。お嬢の歌は神聖過ぎて俺たちにはちょっと早い!精神的に熟成していないとお嬢の歌は楽しめないと思う!だから、合唱の前の歌は俺の歌にしといてくれ!」
と言ってきた。
あなたの歌?
まあ別にいいけど、私の歌を聞いた後じゃないとみんな盛り上がらないんじゃないかしら。
罠の人の歌、ねえ……
罠の人は小さく咳払いをすると、スッと背筋を伸ばした。
そして、静かに口を開く。
「~~~~~~♪ ~~~~ッ、~~~~~~~!!♪」
ーーその瞬間、島の空気が一変した。
「え……?」
彼の口から漏れたのは、信じられないほど透き通った、美しく甘いバリトンボイスだった。
島の風に乗り、波の音と完璧に調和しながら、切なくも力強いメロディが響き渡る。
まるで世界的に有名なテノール歌手が、大自然のステージでリサイタルを開いているかのような、圧倒的なクオリティだった。
そのあまりの美しさに、穴を掘る人と地図を作る人は自然と涙を流し、うっとりとした表情で罠の人を見つめ始めた。
それどころか、森の奥から彼の歌声に引き寄せられた他の男たちが、一人、また一人と姿を現し、気づけば30人全員が涙を流しながら聴き入っていた。
「……プロ以上じゃねーか……」
船長の人が呟く。
「罠、お前こんな特技が……」「パンツが好きなだけの男じゃなかったのか」「俺、今心の中にそよ風が吹き渡っている」「歌って……いいな」「紅白出たらお前だけで白組優勝だよ」「なんでここにいるのお前?舞台は世界じゃない?」「歌声とここの自然との完全な調和……只者ではありませんね」「デビューしたらCD買うわ」「マネージャーが必要になったら私が完璧にサポートします」
彼氏たちは口々に彼の歌を褒め称える。
……悔しいけど私より半歩先にいっているのは確かね。
これからこの島の娯楽はあなたの歌声が主役よ。
私はあなたの前に歌うことになるでしょうね。
「認めるわ。私はあなたの前座に過ぎない。私の歌声で場を暖めておくから、真打ちのあなたがその後に決めなさい」
私がそう言うと、罠、穴、地図の三人はまた目をカッと見開き私を見てきた。
あら、やはり私の歌も楽しみよね?
大丈夫、あなたたちの心は分かっているわ。
いいわよ二段構えにしましょう。
私が三人に微笑みかけると、なぜか三人とも空を見上げてしまった。




