ただの布によくここまで拘れるものね
お昼すぎに海岸沿いを散歩していると、少し離れた所から喧騒のような声が聞こえてきた。
あの子たちなにをやっているのかしら?
「お、おいやめろよお前ら!お嬢に見つかったらとんでもない目にあうぞ!」
「巻き添えで俺らまでフルボッコは嫌だっての!」
「なんでか知らんけどお嬢は俺ら喧嘩するとめっちゃ怒るって知ってるだろ!」
「なんでそんなつまんねー理由で喧嘩できるんだよお前らは!」
「価値観の相違は文化でござる!争いはなにも生まないでござるよ!」
などという声が私の耳に届く。
二人の男が掴み合っていて、その周りで何人かの男たちがそれを止めようとしているようだ。
……ふむ、喧嘩ね。
ならお仕置きしないと。
「あなたたち、何をしているの?」
私が近寄ってから声をかけると、全員がビクっとしてから、喧嘩を止めようとしていたであろう船長の人が答える。
「あ、あー……大丈夫だこれは喧嘩なんかじゃない。ちょっと見解の相違があって議論を交わしていただけだ、な、お前ら」
周りの男たちがうんうんと頷く。
「そうは見えなかったけど?」
私は、喧嘩していた張本人の穴を掘る人と罠を作る人に向き合う。
「ねえ、私がなにに一番怒るか、いい加減学習しなさいよ。あなたたちが争うのを私は許可しないって何度言えば分かるわけ?」
「だ、だってこいつがよ!」
「俺は悪くねえ!こいつの価値観がおかしいんだ!」
などと言い訳をしてきたので、とりあえず黙らせることにする。
まず穴を掘る人に近づき、頭を掴み私の股ぐらくらいまでぐっと押し込む。
そして彼の両手に私の手を絡み合わせ、一気に身体を持ち上げ、そのまま背中から落とした。
(((タイガードライバー!)))
「さて、次は罠を作る人よ。まったく、あなたこの島で一番私にフルボッコにされているのになんでこうなるのかしらね」
「い、いやちょっと待てお嬢……」
私は罠の人に近づくと、彼の足の間に手をねじ込みそのまま抱え上げて身体を首の後ろに回し込んだ。
そしてそのまま私も倒れ込み彼の頭のほうから地面に落とす。
(((バーニングハンマー!!)))
「まったく。二人とも同じ程度のダメージにするのはなかなかキツいのよ。喧嘩両成敗も調整が難しいのよ?」
船長の人が呟く。
「明らかに罠のやつのほうが大技だった気がするが……」
「それで、一体なにが原因でこの二人は喧嘩していたの?」
「あ、あー……なんつーか、本当に下らない理由なんだよ。嬢ちゃんに聞かせるような話じゃねえ」
「そう。じゃあ直接二人に聞いてみるとしましょうか」
私は倒れ込んでピクピクとしている二人に近づき、胸ぐらを掴んで起き上がらせ、往復ビンタをして意識を戻す。
まだボーっとしているようなので、しょうがないから座らせて回復をしばらく待った。
「で?なにが原因なの?」
穴を掘る人と罠を作る人が順番に理由を説明してきた。
「こ、こいつが……ピンクの方がいいって……」
「いや、こいつが黒のほうがいいなんてふざけたことを言いやがるから……」
「一体なんの話?ピンク?黒?なにかの食べ物の種類?」
何を言っているんだろうこの子たちは。
頭の中に『???』が浮かんでいると、船長の人が説明してくれた。
「あー、下着の色……だな。うん。」
「はあ?」
「どうにもこの二人には譲れない一線だったみたいでな……ピンクがいい、いや黒だって、最初はただの口喧嘩だったんだがいつの間にか取っ組み合いになっちまって……あまりにくだらなさに俺らも本気じゃ止めなくてよ……」
「バカなの?」
「うん、バカなんだこいつら」
私は二人に向き直して言う。
「あんたたち男子中学生なの?いい大人の男がなにをバカなことで喧嘩してるのよ」
「だ、だってよ……黒いほうが色っぽいに決まってるし……女の色気を際立たせるのは黒に決まってるし……」
「清純さと色気の両立はピンクに決まってるだろうが!お前はまったく分かってねえ!このド素人が!」
「あー、だから私があの時にピンクでも黒でもない下着だとちょっと残念そうにしてたのねあんたたち」
「……」
「……」
「ふー、あまりのくだらなさに力が抜けたわ。……船長の人、まとめて」
「無茶振りすぎるだろ……えーっと……まとめる?この状況を?うーーーーん……じゃあ多数決で決めるとしようか」
「……ん?」
なにか船長の人が妙なことを言い出した。
「んじゃ民主主義国家の国民らしく、多いほうが勝ち、これでいくぞ、お前らいいか?」
「「「それでいいよ(いいぜ)」」」
「じゃまず『ピンクのほうが好きなやつ』、挙手しろ」
シュバっと元気よく罠を作る人が手を挙げた。
勢いが良すぎでしょ。
「ピンク派は一人な。んじゃ次。『黒のほうが好きなやつ、挙手』」
穴を掘る人が両手を挙げる。
いえ別にそれで二人分になるわけじゃないから。
「んだよこれじゃ決まらねえじゃねえか。ピンク派も黒派も一人ずつ。これは痛み分けか?民主主義的に、これは結果出ずってことだな」
船長が結論を出そうとする。
一体なのを決めようとしていたのだろうか。
そこへ地図を作る人が異議を申し立ててきた。
「待つでござる。船長の人、それは投票先があまりに偏りすぎでござらんか?ピンクと黒のみが選択肢というのはあまりに公平性を欠くというもの。忘れているのではござらんか?最も多数派がいるであろう色のことを」
「はあ?多数派の色?地図、お前なにを言って……」
「では僭越ながら拙者が取り仕切らせていただくでござる。『白こそが至高と思う者は挙手するでござる』」
シュバババババ!と罠を作る人と穴を掘る人、船長の人以外の全員が挙手した。
……一体なにを見せられているの?
「これで分かったでござろう。先程の戦いが不毛だった理由はただ一点、白派の意向が無視されていたことでござる。圧倒的多数派を差し置いてピンクだの黒だのと低レベルな争い、拙者ため息が出るでござるよ。そして白派が頂点と認めた上で、あとは文化の違いとして仲良くやればいいのでござる」
「白って……高校卒業して校則とかから解放されるとあんまり着ける人いなくなるわよ?」
「そういう問題ではござらん。これはロマンの話なのでござる」
「白で、リボンのワンポイントが付いていたりするの、ってこと?」
「正にそれでござる」
「男は布の面積が少ないセクシーっぽいのが好きなんじゃないの?」
「それは変化球でござる。基本はストレート、変化球はそれを活かすためにあるのでござる」
「意味が分からないわ」
まさか私がツッコミ役になる日がくるとは思わなかったわね。
なかなかやるわね私の彼氏たちは……いえ呆れているのだけど。
「じゃあ、今私がつけている下着はなんだと思う?」
「「「え???」」」
「ピンク派、黒派、白派、最大派閥は白のようだけど……あなたたちの期待に沿えるかしら。私心配になってきちゃったわ」
オヨヨ、と泣き崩れるフリをする。
「じょ、嬢ちゃん、このバカどもの言うことを真に受けるなって!下着が何色だとかどうでもいいじゃねえか!」
「でも、この島で唯一の女の私が、みんなががっかりするような下着を着けていて幻滅させてしまったら……とても悲しいわ」
私はそう言ってスカートをたくし上げた。
もう今さらこの子らに下着を見られるくらいなんでもない。
「「「ベージュのデカパン……」」」
「お腹まで隠れる超・高機能吸水速乾よ。あんたたちの相手をする時は喜ばせてあげたいから別の着けてるけど、普段はこれが一番なのよ」
「あ、あ、あ、なんてことでござるか……」
地図の人が崩れ落ちる。
なんなの一体……
ただの布によくここまで拘れるものね。




