ずっと私の重りになって下さい
そこまで話して、私は彼の顔を両手で挟み込み、こちらを向かせる。
「ねえ、私に惚れてる?」
「……とても。なぜでしょうね。正直、女性はもう懲り懲りだと思っていたのですが。もしかしたら、ここにいる30人の男性みんながお嬢の彼氏だという異常な状態が、かえって良いのかもしれません。私一人で抱え込む必要がないというか……言葉にしてみるととても無責任な人間ですね、私は」
「そんなことはないわよ。責任感が強いからこそそういう考えに至ることもあるでしょう」
「ありがとうございます」
「私ね、結構重い女よ。それでもいい?」
「……ハハ、重い女ですか。それは大変だ」
「愛情は30分の1にならない。私は一人ひとりに対してとても愛を注いでしまう。もしかしたら、あなたが体験したというストーカー女よりも重い愛情を持っているかもしれないわよ。それでもいいのね?」
「はい。お嬢さえよければ、この島でも、そしてもし日本に帰ってからも一緒にいさせて下さい」
「はい言質とりました!……フフ、じゃあ一生この重い女と一緒に暮らしましょう」
「はい、よろしくお願いします」
「ストーカー女とその男は、私がなんとかする。だから安心しなさい」
「お嬢なら本当になんとかできてしまいそうですね。顔が広そうですし」
「まあ日本の彼氏たちの力を借りることにはなるかもしれないけど、いざとなったら出刃包丁と菜切包丁持って私が直接乗り込んで交渉するわ」
「……」
「しかしそいつらのせいであなたの日本のキャリアは終わってしまったのよね。もちろん出直すことは可能でしょうけど、とても大きなデメリットになってしまう。許せないわね。なんか腹が立ってきたわね。私の彼氏をこんなに追い込んで」
「もうキャリアとかはどうでもいいですよ。火守の人の仕事をしていて、正直こういったものの方が私には合っているんじゃないかと思っているんです」
「価値観も変わるわよね、こんな環境じゃ」
「ですから、日本に帰れたら薪ストーブの仕事とか、そういうのをしようと考えているのですよ。山を一つ買って、そこで薪の調達をして一束いくらで売って、薪ストーブのメンテナンスも請け負って……夢物語ですがね」
「いいわねそれ。あなた火守の才能があるもの。とてもいい考えだわ」
「色々想像してしまうのです。街には薪ストーブの店を構えて、それで山には小屋を立てて……とか、そういうのです。身体が一つでは足りないですから、従業員も必要だなとか、そんなことを考えてしまいます」
「私の日本の彼氏の中にはフリーターの人もいるから、もしかしたら頼めるかもしれないわね」
「意外ですね。お嬢の日本の彼氏というのは、なんというかエリートというかそういった方たちばかりだと思っていました。あ、いえフリーターという職業を貶めるつもりは全くありません。……失言でした」
「そんなことないのよ?色々よ。確かにエリートと呼ばれるような人もいるけど、別に好きになるのに職業は関係ないでしょう。私が愛して、あちらが愛して、それだけで十分よ」
「お嬢と話していると今までの自分の価値観が馬鹿らしく思えてきてしまいますよ。笑ってしまいそうです」
「確かにお仕事もお金も大切。だけど全員無職になってもいざとなったら山ででも島ででも原始生活を始めればいいじゃない!今みたいにね」
私がそう言うと、火守の人は心からといった風に笑った。
「ハハハ!確かにそうですね。ここにはお金もなにもない。けど割と楽しくやれていますしね」
「でしょう。その程度でいいのよ。意外となんとかなっちゃうわ」
そう言ってから私は火守の人を抱き寄せた。
「それにね、私というこの世界で一番のものをあなたは既に手に入れている。それで十分だと思わない?あなたが日本でなんのお仕事をしても大丈夫。心を癒すためにしばらくなにもしないでいてもいいわ。それと薪ストーブのお仕事を始める時は最初のお金は私が出しますからね」
「……ありがとうございますお嬢。確かにお嬢の彼氏でいられるのは世界で上位1%の幸せ者ですね」
「あら失礼ね。もっと少ないわよ。それじゃ100人に1人は私を手に入れるのと同じくらいの幸せを持ってることになっちゃうわ。もっと貴重よもっと」
「ハハ、確かにそうですね。失礼しましたお嬢」
「それとね、あなたとこうして話していて、ますますそのストーカー女に腹が立ってきたわ。本当にどうしてくれようかしら」
「向こうがなにもしてこないならそれで大丈夫ですよお嬢」
「……でもなんかムカつくわ……私の彼氏に……」
「当時はまだお嬢の彼氏ではなかったですからね?」
「怒りが光速を超えると時間を逆行するようになるのよ」
「急に哲学的になりましたね……それと……お嬢、この体勢のままだと……私も男ですので……」
あ、そういえば火守の人を抱き寄せたままだったわね。
「ああごめんなさい、その気になってしまった?でもたしかあなたの順番は……」
「ああいえ、それは大丈夫ですコントロールできますから。しかし自分でも驚いているのですよ。私が女性に対してこういった風に欲望を抱いてしまうようになるとは」
「そりゃ男ですもの、それが本来の姿なのではないの?色々溜め込みすぎていたのよあなたは」
「そうかもしれませんね。やはりバランスというものが重要なのでしょうね」
「それに私といてそういった感情にならなかったらその方が心配よ。情緒がぶっ壊れているということですもの。私の身体は一つだから、愛情がいくらあってもどうしても相手をしてあげるのは順番になってしまうけど、きちんと心は繋がっているから、それを忘れないでね」
「ええ、肉体的なことは最重要ではありません。あなたと縁を結べたこと、それ自体が奇跡のようなものです。私にとっては、それだけで心の支えになりますからね」
「本当にごめんなさいね?若い男性のそういったのはよく分かっているのだけど……どうしても人数が、ね」
「それとお嬢、あなたは自分のことを重いとさっき言いましたが……」
「ええ」
「ずっと私の重りになって下さい」
「……フフ、言ったわね。潰されないように気をつけなさい?」
そこまで話して、私と火守の人は焚き火を静かに見つめた。




