私の10分の1くらい綺麗な女?それは相当なものね
今日はずっと火守の人の仕事を見守っている。
この仕事は、薪を見つけ、火を点け、それを守るという大切なものだ。
島での生活にとって火は生命線。
一回焚き火をして消して……というものではなく、二十四時間ずっと火を絶やしてはいけない。
薪を集め、火にくべて、消えないように見守る。
地味なようでいて相当な重労働。
「火守の人、今日はいい薪が手に入ったわね」
「ええそうですね。森に入ってすぐの所で立ち枯れしている木が見つかったのでしばらくは安心です」
「いい薪になりそうだものね。でもああいう状態の良い木がこれからもずっと見つかるとは限らないわよね」
「そうですね、こればっかりは運任せになりますから」
「やっぱり普通に生えている木を切って薪にしなくちゃダメなのかしら」
「ええ、今後この島での生活がどのくらい続くかは分かりませんが、立ち枯れしている木を見つけるだけではダメだと思います。幸いなことに船から持ち出せた斧やノコギリなどの道具はありますから、木を切ってそれを乾燥させて薪にしていきましょう」
「海辺には流れ着いてきた木もたくさんあるようだけど?」
「一度使ってみたのですよ。ですがあれらは非常用と割り切ったほうがいいかと思います。バチバチと火花がやたらと散って危ないですし、なにより匂いが酷い。少なくとも調理用などには使えないと思いますよ。真水に漬け込んでから乾燥させる必要があると思います」
「ままならないものね」
「そうですね」
「ねえ、火守の人」
「なんでしょうか?」
「あなた、いい男だし博識そうよね。物腰も柔らかいし」
「ありがとうございます」
「私ね、そういうの大抵分かるのだけど……あなた日本じゃそれなりのお仕事をしていただろうし、いい学校も出ているだろうし、女にもモテていたでしょう」
「……」
「なんであんな船に乗り込んで、それでこの島に来ることになったのかしら。いえ私も人のことは言えないのだけどね。少し気になってしまって」
「……」
「日本で順風満帆……いえ、世界を相手に仕事をしていてもおかしくないタイプの人だもの」
「……つまらない理由です、聞いてもしょうがないですよ」
「でも、あなた今は私のものよ?」
「……」
「別に無理やり聞き出したいとかそういうんじゃないのよ。でも、私の大切な人だもの。……過去の詮索する重い女だと思った?でも気になるものはしょうがないじゃない」
「……お嬢は、モテますよね。今更の話ではありますが」
「そうね、この容姿だからそれはしょうがないことだわ」
「私も、お嬢ほどではないですが異性からは好意を持たれるタイプなのですよ」
「ええそうでしょうね。女は放っておかないでしょうあなたのような男は」
「何人もの女性から言い寄られました。好感の持てる人もいましたがそうでない人もいました。ですが私は日本にいた頃は仕事がとても忙しくて集中したくて……全ての女性からのお付き合いの申し出を断っていました」
「男にはそういう時期が必要よね」
「その中の女性に一人……とても強い好意を抱いてくる人がいまして。他の女性とは一線を画するほどに」
「つまりストーカーよね」
「平たく言えばそういうカテゴリになるのでしょう。電話を着信拒否にしても連絡アプリをブロックしても、家に押しかけて来ました。連日です」
「それは怖かったでしょう。嫌よね重たい女ってのは」
「…………それで、その女性というのは外見がとても優れている方でして。つまり美人だったということですね」
「私くらい?」
「お嬢の十分の一くらいはありましたよ」
「それは相当なものね」
「それで、その容姿ゆえに、女性に好意を抱いている男性からも……その、嫌がらせのような行為がたびたびありまして」
「女からはストーカーされ、その女に惚れてる男からは嫉妬で嫌がらせされた、と。とんでもない話ね。完全に被害者じゃない」
「私の最初の断り方にも問題があったのでしょう。一切の希望が持てなくなるような完全な断り方をすれば良かったのですが、曖昧などうとでも受け取れるような断り方をしたのがいけなかった」
「あなたは優しそうだものね。相手を傷つけたくなかったのでしょう?」
「いえ、そんないいものではありませんよ。断りつつも相手から嫌われることも恐れていたのでしょう。自分の心のことはなかなか分かりませんがね、恐らくはその程度の理由です」
「警察に相談は?」
「しました。しましたが……警察は一般人を警護してくれるようなことはありませんからね。パトロールの頻度を増やすとか、何かあったらすぐに連絡してくれとか、そういった対応はして頂けましたが……」
「政治家というわけではないものね、警察もなかなか市民一人ひとりに完全な対応をするわけにもいかないのでしょうね」
「それで、女性からのストーカー行為もそうなのですが、男性からの暴力などの行為も日に日に激しくなりまして。正直、もう限界でした。ですが、正規の方法で海外などに行っても追いかけてくるんじゃないかという強迫観念がありまして……冷静に考えればそのような可能性は低いのですが……当時の私は判断力を失っていたのでしょうね。結局こういう形になりました」
「そうだったのね。とても大変な思いをしたのね」
「ですから、こうして毎日火守としての仕事をしているのはとても私にとって心地の良いものなのです。ここではこれはとても大切な仕事ですし、あの女性も男性もいません。島にいる男性たちとも不思議と馬が合いましてね」
「それはとても良いことだわ。彼氏同士が仲良くしていてくれるのは私にとって何よりも幸せなことなの」
「お嬢のお陰ですよ。別にお嬢の強者権によりお仕置きがあるから怖くて、とかそういう話ではありません。お嬢を中心にして私たちは、なんとなくですが団結できているのだと思います」




