私はキノコに詳しいのよ?
「おお、結構入ってるな!」
魚を捕る人が仕掛けた罠には結構な数の魚が入っていた。
三時間くらい待っただけでこれだけの釣果があれば上出来だろう。
罠は三つ仕掛けてあるし。
「んじゃ罠に入った魚はこっちの魚籠に移していくぞ。罠自体はまた使うから、ここらへんの木に吊るして乾かしておく」
「へえ、魚籠っていうのねこの入れ物。それで、罠から魚を出すにはどうしたらいいの?魚が入る所から無理やり手を入れてって感じ?」
「そんなことすれば取り出す時に手が傷だらけになっちまうよ。魚が入る入口の反対側が簡単に開けられるようにしてあるんだ」
「なるほど考えて作られているのね。それじゃあここを開けて……」
私が罠をいじって魚を出そうとすると、ガバっと一気に外れてしまい、中に入っていた魚は全部川に逃げていってしまった。
……こんなに一気に外れるとは思わなかったわね。
「……お嬢?」
「十匹はいたでござるよ」
悠々と泳いでいく魚を見つめてみる。
……あれを今から捕まえるのはもう無理ね。
飛び込んで捕るのは無理ってさっき分かったし。
「切り替えていきましょう。学習のための必要経費よ」
「せめて陸に上がってからやって欲しかったぜ……」
「ま、まあお嬢も悪気があったわけではござらんし、残り二つの罠にだって魚はきっと入っているでござるよ!」
その後、二つの罠を開けてみると一つ目と同じようにそれぞれ十匹くらいずつ入っていた。
凄いわねこれ。
釣りとかする必要ないじゃない。
「後は、川にある石に石をぶつけて魚を気絶させて捕るやり方もあるんだが……あれ、結構場所が限定されるんだよ。魚が隠れていそうな場所をまず探さなきゃいけないしな。それにこの島にどんだけ資源があるか分からないから、できるだけ生態系に被害を出すやり方はしたくない」
「持続可能性ってやつね」
「そうそうそんな感じだ。今俺たちやった罠なら小さい魚がいたら逃がしてやれるからな。石をぶつけるやり方だと稚魚まで被害が出ちまう。そこら辺はちゃんと考えてやらないとな」
「もう魚を捕る人は名人クラスでござるな。お嬢が魚捕りに任命したのは見る目があったでござるな」
「さすがよね私」
「まぁ爺ちゃんに昔連れてかれて釣りやらその手のことは一通りやってたから、ちょっとだけ人より知識と技術もあるんだよこういうのは」
「日本に帰ったら魚屋さんやりなさいよ」
「いやそっちは商売だろ……別に魚捕りは関係ねえよ」
◆
魚を捕ってからの帰り道。
ついでに何か食料になりそうなものがあればそれも取っていこうということになった。
自然の恵みって素晴らしいわ。
「森の食べ物といえば……まずはキノコよね」
「そうでござるな。でもキノコは……」
「安心なさい。私キノコの見分け方には自信があるのよ」
「そうなのでござるか?お嬢実は山育ちだったりするでござるか?」
「そんなことはないのだけどね。知識よ知識。先人たちの知恵と経験を活かすのよ。これぞ人間の生き方よね」
「それは否定しないでござるが……」
私は歩いている道を数メートル入ったところにあるキノコの群生地を見つけた。
運がいいわね。
これからここはキノコ製造所になるわ。
「さて、このキノコは色が地味だから食べられるキノコよ」
「お嬢!?」
「でも、それだけでは判断ができないのがキノコの難しいところなのよ。例外というものがあるのよね」
「そ、そうでござるな。例外という言葉の範疇でいいのかは怪しいでござるが……」
「キノコをこうやって縦に割いてみるの、あ、これは縦に裂けるから食べられるキノコよ」
「お嬢!?」
「分かっているわ。これにも例外があるのも知っているの。地味な色で、縦に裂ける……これでほぼ九分九厘食べられるキノコと確定はしているのだけど……」
「ちょ、ちょっと待てお嬢」
「最後は一欠片食べてみて、ピリッとしなければ食べられるキノコよ。大丈夫もし毒キノコであってもすぐに吐き出せばなんてことはないわ。私はキノコに詳しいのよ」
私はそう言って生えているキノコを素早く一本毟り取って口に含んだ。
んーと、どうかしらね、これは………
「「う、うわ、うわ、うわあああああああああああああああああ」」
魚を捕る人と地図を作る人が大声で叫んで私に掴みかかってきた。
なによ急に。
欲情でもしたの?
「お、お嬢!すぐに吐き出せ!地図の人!水筒!水筒!お嬢、水を口に含んで何度もすすげ!!」
「わ、分かったでござる!水筒!水筒!お嬢すぐにこれを!!煮沸してある水だから安全でござる!!」
……大げさね。
もし毒キノコでもピリっとしたら吐き出せば大丈夫だというのに。
私はキノコに詳しいのよ?
◆
「お嬢、言いたくないが……お嬢の持っているキノコに対する知識は全部嘘っぱちだ」
「拙者、お嬢が川に飛び込んだときと同じくらい驚いたでござるよ……なにゆえキノコを口に含んだでござるか?電光石火すぎて止める暇もなかったでござるよ」
「だから……ピリっとしなければ食べられるキノコだって……」
「それ誰に聞いたんだ?」
「小学生の時に隣に住んでいたお爺ちゃんよ」
「その人、山育ちだったりしたか?」
「生まれも育ちも都会だって威張っていたわ。シティボーイだって」
「なんでそういう人の言うことを信じるんだよ……キノコってのは、俺の爺ちゃんですら確実に安全って思えるものしか取ってこなかった。食べられるキノコが生えてる場所があってよ、取るのはそこのだけ、って決めてあったんだ。似てるのもヤバいんだよ形は食べられるキノコとそっくりなのに毒キノコだったりしてな」
「じゃああのシティボーイお爺ちゃんの言ったことは……」
「どっかで聞きかじったんだろうぜ」
「そんな……信じてたのに」
「ちなみに、猛毒キノコとして有名なドクツルタケやドクササコは、さっきお嬢が言った色が地味で縦に裂けるっていう特徴がある。だけどヤバいくらいの毒がある。とんでもない毒だ。人が死んじまうくらいの毒だ。いいか、地味な色で縦に裂けるから安全、なんて判別法は全然当てにならないんだ」
魚を取る人は続けて言う。
「ここにあるキノコは俺も見たことがないが……もしかしたらこの島特有のキノコの可能性もあるし、試すわけにもいかないからこれからはキノコには手を出さないほうがいい」
「キノコ汁、食べたかったわ……」
「キノコ以外の美味いもんもこれから俺たちが一生懸命探すから、頼むからキノコだけはやめてくれ」
「お嬢、地図には美味い木の実が成っているところとかの箇所も書き足していく予定でござる。お嬢には拙者たちが一生懸命美味しいものを運んでくるでござるから、それで満足してはくださらぬか?」
「……分かったわよ。キノコは諦めるわ。それと……今日は色々と迷惑をかけてごめんなさい」
魚を捕る人と地図を作る人は私の言葉を聞いてポカーンとしている。
なによ、私だって謝ることくらいあるわよ




