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なんなのあなたたち。乙女なの?

「少し無様なところを見せてしまったわね」


「無様というか普通に死んでてもおかしくなかったからな?いいか、川ってのはある意味海より危ないんだよ。海は浮きやすいし、離岸流に気をつければ一気に流されることも滅多にない。海辺には男たちがいっつも何人かはいるし、お嬢になにかあったらすぐに助けられる。だけど川ってのは本当に危ないんだよ」


「ええ、まさか川の底のほうって流れが違うなんて考えもしなかったわ」


「そう、そこが怖いんだよ川は。見た感じ穏やかそうに見えてもちょっと底のほうは水の流れが全然違ったりするんだ。俺も子供の頃にそれにひっかかって必死こいてなんとか助かったことがある」


 私と魚を捕る人が話していると、地図を作る人も話してきた。


「お嬢は拙者たちには絶対無敵なのは分かっているんでござるが、自然相手にはただの少女でござる。本当に気をつけてもらわないと困るでござるよ」


「ええ、学習したわ。私こう見えて学習能力は高いのよ。もう同じ間違いはしないわ」


「頼むでござるよ本当に」


 話しながら、魚を捕る人が起こしてくれた焚き火で濡れてしまった服を乾かす。

 私の服と魚を捕る人の服、両方。


「それにしたってなんで服のまま飛び込んだんだよ。せめて下着になってから飛び込めば良かったんじゃないのか?」


「なんか川を見たら『魚捕る。じゃあ飛び込む』って感じになってしまって……」


「…………」


「……悪かったわよ」


「ま、いいさ。服が乾いたらとっとと着てくれ。風邪でもひいちゃいけないからな。俺は服が乾くまでの間、魚を捕るための罠でも作っとくさ」


「拙者もここまでの地図を書き足しておくでござるよ」


「二人ともお願いね。夏の焚き火も乙なものね。まるでキャンプみたいだわ」


  ◆


「ねえ……別にチラチラ見なくても堂々と見ていいのよ?」


 私は服が濡れてしまって焚き火で乾かしているので、当然ながら下着姿だ。

 魚を捕る人と地図を作る人はさっきから私のほうを、自分の作業の合間にずっとチラ見してきている。


「いや、堂々と見ろったって……なぁ」


「恥ずかしいでござるよ……」


「なんであなたたちが恥ずかしがるのよ……普通逆でしょ……というかなんで今さら下着姿くらいで意識してるのよ」


「いやするよ」


「お嬢は自分の姿を鏡で見たことないでござるか?」


「ああ、綺麗すぎるってこと? それも別に今更だと思うけど……いくら私がこうでもいい加減慣れてくるものなんじゃないの?」


「慣れないっての」


「慣れないでござるな」


「難儀なものね男の子は。これから一生私を見てドキドキするわけ?下着姿でうろつく度に?大変すぎるでしょそれじゃ。言っとくけどお風呂上がりとかは素っ裸で歩き回るわよ?私」


「ちょっと前から思ってたんだけどよ……お嬢って自分の身体にあんま執着しないというか、それほど価値を感じてないというか、そういうとこないか?」


「ああ、それは拙者も思っていたでござる。なんというか、明らかに普通の女性とは価値観が違うでござるよ」


「それこそ今更ね……じゃあ私がこう言ったらどうするの?『私の身体の価値は私のもの。私に触れていいのはイケメン・高収入・会話がスマート、20代、食事の会計は私がトイレに行ってる間にブラックカードでさっと支払ってくれる、そういう男限定』とか言ったら?」


「そ、そりゃあ困るけどさ……」


「拙者は初手で脱落でござる」


「私の身体でみんな仲良くできるならそれでいいじゃない。別に嫌々やってるわけでもなし。あなたたちのことは全員愛してるわけだし。じゃあなんで身体くらいケチケチするのよ。逆にそのほうが変よ」


「ありがたいけど、そんなもんなのかねえ」


「拙者はありがたく感じているでござるよ。日本にいたらお嬢みたいな女性には触れることはおろか一メートル以内に近寄っただけで通報でござるよ」


「通報はされないと思うけど……まあそんなわけで、別に見たければ堂々とガン見しなさい」


「いやガン見はしないっての……でも見たい」


「拙者、ガン見いいでござるか?」


 ◆


魚を捕る人が立ち上がり言う。


「あー、ちょっと危険な生き物とかいないか見回ってくるわ」


「あ、拙者も行くでござる」


などとそわそわと言っている。

丸分かりよ。


「別に私を見ながらここでスッキリすればいいじゃない」


「……」


「……」


「なんなのあなたたち。乙女なの?さっきから言ってるじゃない今更だって。時間の無駄だし、ここに私一人置いていくつもり?そのほうがよっぽど危険よ。とっととここで出してしまいなさい」


「もうやだこの美少女……」


「情緒や羞恥心ってパラメーターが初期設定0のまま変動していないのでござるか?」


「なんで全員集まってする時は平気なのに三人だけの時は恥ずかしがるのよ。そのほうが私にはよっぽど不思議よ。ほんと男の子って面倒な生き物ね」


「お嬢が特殊すぎるんだよ!」


「さすがの拙者もデュフフフとすら言えないでござる」


「これから魚捕ったり色々と作業しなきゃならないのでしょう?まさか今日は私が川に落ちてそれで終わり、ってわけにいかないでしょう。時間がもったいないからさっさとしなさい」


「……」


「……」


  ◆


「さて、じゃあ魚を捕る人はその作った道具でこれから魚を捕まえるのね?」


「ああ、これは昔っからある単純な魚捕りの道具なんだが、入るのは容易(たやす)く出るのは無理、そういう道具だ。なんだかんだこれが一番いいんだよ」


「へえ、よく考えられてるわね」


「中には、海で拾ってきた貝をすりつぶして入れておく。まぁ二、三時間も待てばそれなりに入ってるはずだぜ。ここらへんの魚は人間がいないからスレてないしな」


「スレてない?」


「ああ、魚ってのは案外頭がよくてよ、釣り人とかそういうのがよく来る場所の魚はなかなか釣れなかったりするんだよ。まぁ罠だからあんま関係ないけどな」


「へえ、勉強になるわね」


「たくさん捕れるといいでござるなあ」


やっぱり着いてきて良かったわね。

労働は素晴らしいものだわ。

労働……してるわよ?


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