私はただ魚を捕まえようとしただけよ
「さて、今日は私も働こうと思うの」
私が朝みんなの前で宣言する。
船長の人が驚いたように言う。
「いや、別に嬢ちゃんが働いてくれなくたって、嬢ちゃんが決めてくれた役割分担で割と上手く回ってるぜ?食料の心配も今んとこないし、安全面だってなんとかなってる」
「そういう問題じゃないのよ。確かにあなたたちは上手くこの島で立ち回ってよく働いてくれている。それは分かるわ。でも、役割分担を決めただけで、私が働かないってのはちょっと違わない?」
「いや十分だと思うぜ。嬢ちゃんはなんせ……俺たちのために身体を張ってくれてるじゃねえか。……あの、夜によ。あれがあるから俺たちは頑張れているんだぜ」
「それは分かっているわよ。もちろん生活のためってのもあるでしょうけど、私からのご褒美が労働意欲に強く影響している、それは分かっている。それでも私だって少しは働きたいのよ。だって役割分担が機能し始めた今となっては、私がすることってあなたたちを抱いてあげることと、処理のための材料を見せてあげるだけになっていっちゃうわよ。私いやよそんなの」
「まぁ……嬢ちゃんがそこまで言うなら止めないけどよ」
「というわけで、魚を捕る人。あなたは今日は海の魚じゃなくて川魚を捕りに行く予定だったわよね」
私は横を向いて魚を捕る人に向かって言う。
「ああ、その予定だ。この島って最初に船長の人が見つけた川だけじゃなくてさ、支流が何本か集まってそれなりに大きくなってる川があるんだよな。だからそこで魚を捕る予定だ」
そこへ地図を作る人も会話に入ってくる。
「拙者も今日は魚を捕る人に同行する予定でござるよ。測量の道具なんてここにはないでござるからな、足で歩いて少しずつ正確に地図を作っていくしかないんでござるよ。最初に思っていたよりこの島はずっと広いでござるからな」
「なら今日はこの三人で行動するとしましょう。私は地図のことは分からないから主に魚を捕るお手伝いをすることになるわね」
「オーケー、じゃあ早速行くとしようか。先頭は俺が歩くから、次にお嬢、そんで地図を作る人が殿をやってくれ」
「分かったわ」
「承知したでござる」
三人で海辺の拠点から森へ分け入っていく。
なかなかに歩きにくいわね。
「これでも何度か通ってるから獣道みたいになって最初の頃よりはだいぶマシになったんだ。始めは少し歩くだけで体中傷だらけになるしすっ転ぶしで散々だった」
「なるほどね、こうやって道が出来ていくのね。ちゃんとした道を作るのには大変な手間がかかるけど、毎日人が歩くだけで少し道っぽくなっていくわけね」
「まぁ荷物を大量に運ぶとかになったらちゃんと道の整備はしなくちゃならないだろうけど、何人かが歩く程度ならこうなってりゃ勝手に道になってくだろうさ」
「地図を作るには道がどこにあるかも重要でござる。いやむしろそこが一番大事でござる。きちんと記録していっているでござるよ」
「確かに道がどこにあるのか分からないんじゃ地図の意味がないものね」
「し、しかしながら殿役は役得でござったな。お、お嬢の……後ろ姿をずっと見ながら……デュフフフ」
「別にお尻くらいいくら見たって構わないけど、私にばっか目を奪われて転んだりしないでちょうだい?怪我をしてもお薬だって少ししかないのだから」
「デュフフ、尻より足に目が奪われるでござるなぁ」
「別にどこを見たって構わないけど……本当に気をつけなさい?」
そうして三人で話しながら歩いていると、川が見えてきた。
「ここは支流だ。この川をもうちょっと下るともっと太い川がある。そこで魚を捕るんだ。川魚より海の魚の方が美味いっていうやつが多いけど、俺は淡白な味で川魚ってやつが結構好きだな」
「そうね、どちらも美味しいわよね。お刺身にするのなら海のお魚のほうが良いのだったかしら?」
「あー、一応川魚も刺身にできないこともないんだが……ここじゃあやめたほうがいいだろうな、無理にリスクを冒す必要はないわな」
「そうなのね。塩をかけて焼くだけでも美味しいのだから十分ね」
「魚がよく捕れるポイントとかも地図に載せているでござるよ」
「地図の完成が楽しみね。昔から為政者は地図の作成には力を入れていたと聞くわ。大切なことだものね」
そうして魚を捕る人が本流と呼んでいる川に到着した。
なるほど、なかなかに立派な川ね。
これなら魚も期待できるというものだわ。
「太いだけあってなかなかに水面が穏やかね。緩やかに流れているわ」
「ああ、急流って感じの川ではないな」
「31人程度の食料ならここの川、そして海の魚だけでもかなり足しになるでござるな」
「さて、んじゃ俺は準備を…………」
これだけ大きな川なのだ。
魚もさぞたくさんいることでしょうね。
これなら私でもなんとかなりそうね。
「それじゃあ魚を捕ってくるわね」
そう言ってから私は川に飛び込んだ。
「「は???」」
つまり川に潜って魚を捕まえればいいのでしょう。
魚なんて握って岸に向かって放り投げればいいだけのはずだから、10匹くらいはすぐに捕まえられるはずよね。
……あら?
なんか川の深いところって妙に水温が低いのね。
「お嬢なにしてんの!?」
「正気でござるか!?」
岸にいる二人がなにか叫んでいる。
大げさね、ちょっと底のほうの水が冷たいだけよ。
えっと魚は……ああ、いるわねたくさん。
それじゃ早速捕まえ……
あら?
なんだか底のほうの冷たい水の流れが……おかしいわね、グルグルと回っているわ。
水面の水とは流れが全然違う……あら、なんだかこれ……底のほうに……引き込まれて……
え?なにこれ身体が持っていかれ……
「地図の人!ロープを俺の身体に巻いてくれ!そんで俺が飛び込んでお嬢を捕まえたらロープを一気に引き上げてくれ!」
「承知したでござる!」
魚を捕る人が飛び込んできた。
川底のほうに持っていかれる寸前で私に抱きつく。
片手では支えきれないと判断したのか両手で思いっきり抱きついてきている。
それを確認した地図を作る人がロープを一気に引き上げようとする。
「小学生地区横綱の底力、ここで発揮でござるよおおおおおお!!」
叫びながら一気に魚を捕る人と私二人を引き上げてくれた。
「お、お、お嬢…………一体なにを…………」
「魚を……捕まえようと……」
「川に飛び込んで人間が魚を捕まえられるわけがないだろ!?銛があったってめっちゃ難しいんだぞ!?」
「……そうなのね」
「正直、ちょっとダメかと思ったでござる」
三人がそれぞれ肩で息をしながら、しばらく時間が経つ。
「ちょっと失敗しちゃったわ。えっと………こういう時は………女の子は『テヘッ!』って言えば良いのよね?」
「本当に勘弁してくれ!!!!」
「本当にやめてくれでござる!!!!」
「……分かったわ。もう二度と勝手に川には飛び込まない」
「そうしてくれ!!」
「頼むでござるよ!!」
「今度からは二人に言ってから飛び込むわ」
「「飛び込むこと自体をやめてくれ(くれでござる)!!」」




