お嬢と別れるというのはどういうことなのか
いつも通り海辺で彼氏たちが作業しているのを見学していると、船長の人が声をかけてきた。
「ふう、一服だ一服。暑くてたまらんわ。この島がどこら辺にあるのかイマイチ分からないが、まぁ寒いよりはずっとマシだって思うしかないな」
「そうね。でも今は暑くてもいつ秋になるか分からないわ。できるだけ早めにきちんとした住居と防寒対策はしておいたほうがいいわね」
「まぁそうだな。とりあえずの食料の心配はなさそうだし、そういう長期的なことも考えていかねえとな。……と、おーーーい、お前らもちょっと休憩入れろ休憩。ぶっ倒れるぞ」
船長が声をかけると
「「「おーう」」」
と彼氏たちが集まってくる。
船長の人って、なんとなくリーダーっぽいのよね。
特段カリスマって感じではないのだけど、こういうのも才能の一種よね。
指示されても嫌な感じにならないというか、別にこの人の言うことならしょうがないな、とかそういう雰囲気がある人っているのよね。
「ふー、水がうめえ。嬢ちゃんもちゃんと飲んどけよ。喉乾いてから水飲んでも遅いって聞くからな、熱中症対策にはよ」
「ええ、そうさせてもらうわ」
「しっかし、なんだかんだ上手く回ってるよなこの島での生活も。まぁ嬢ちゃんがいるからってのがあるんだが」
「それは否定しないけど、あなたの働きも大きいわよ?人の上に立つ人って、なんというかそういう雰囲気があるものなのよね。あなたにはそれがあるわ。それも力ずくで無理やり従わせる感じじゃないのが私好みよね」
「んー、まあ仕事柄、人夫をまとめなきゃならない時とかも多かったから、ある意味職業病……?いや別に病気じゃないか。ま、性に合ってるんだろうさ」
「とても貴重な人材よ。もちろんみんなそれぞれ自分の仕事をしてくれているのが前提だけれど、やはりまとめ役というのは必要だもの」
「おうおう、ありがとうよ嬢ちゃん。んじゃご褒美におっぱいでも触らせてくれよ」
「そういうのは順番を待ちなさい」
船長の手をペシっとはたくと、
「おっとと、思わず先走っちまったぜ。まぁしょうがないってもんだこんな美少女が目の前にいちゃあセクハラの一つもしないと失礼ってもんだぜ、なぁお前ら?」
などと冗談を言い、周りの彼氏たちも
「「「違いない!」」」
と言って笑う。
こういうとこなのでしょうね、人に慕われるっていうのは。
「しかしよ、嬢ちゃん。前から聞きたかったんだがよ」
「なにかしら?」
「嬢ちゃんは日本に彼氏が20人いるって言ってたよな」
「ええ、言ったわね」
「最初聞いた時は驚いたもんさ。20股してる女ってどんな女帝だよ頭おかしいのかってな」
「まあ、世間一般の常識からいえばそうなのでしょうね」
「だがよ、この島で男30人に囲まれて平然としてるし、なんつーかあっちの世話もきっちりしてくれるだろ?まぁ強者権だったか?あれがあるせいってのもあるんだろうが……」
「余裕よ余裕」
「だからさ、逆に思ったんだよ。よく日本にいる彼氏が20人ぼっちで済んでるなって。もっと多くてもおかしくないというか」
「ああ、そういうこと」
「嬢ちゃんモテるだろ?それこそ寄ってくる男なんて数え切れないほどだっただろ?」
「まあそうね」
「だからちょっとそこら辺を不思議に思ったってだけなんだがな」
「うーんと、日本にいる彼氏が20人というのは……なんというのかしら、ほら、私って男に理解のある女でしょう?きちんと男のことを隅々まで分かっているというか」
「性的な意味でか?」
「違うわよなんでそうなるのよ。だから、彼氏が別れたいと言えばきちんと別れてあげるのよ。私は理解がある女だから」
「え、なんか意外だなそれは。ちょっと俺の中の嬢ちゃんと違うわ」
「私は確かに重い女よ?愛情も深い。だけど、彼氏の人生をちゃんと考えて、別れてあげるときは別れる。そういう女なのよ」
「例えば?」
「どうしても仕事に集中したい時というのが男にはあるでしょう。あるいは勉強だったり。仕事の内容によっては遠くに行く必要がある時もあるわよね。時には海外だったりもするわ。そういう時は、じゃあ別れましょうって言って別れてあげるのよ。男には女なんかにうつつを抜かすことなく自分を磨く、そういう時間が必要なのは分かっているわ」
「あー、確かにそういう時期は必要かもしれん」
「だから、20人というのは今いる現役の彼氏ということよ。過去にはもっとたくさんいたこともあるわね」
「なるほどなー。ただ縛り付けて重いだけじゃなくて男のことを理解するいい女ってわけだ嬢ちゃんは」
「そうよ私はいい女なのよ」
「なら、別れた男には例の強者権ってやつを解除してやるのか?」
「え?しないわよ?というか解除ってできるの?あれ」
「いや知らねえよ……なんで嬢ちゃんが分かんねえことを俺が分かるんだよ……」
「だっていつ戻ってきてもいいわけだし、別に解除なんかしなくてもいいでしょ」
「え、そういう感じなの?別れたらもうそれっきりとかじゃなくて、いつ戻ってきてもいい感じなのか?」
「そりゃそうよ私は愛してるままだし、なら戻ってきても問題ないでしょう」
「へー……なんか都合のいい女っぽくないか?それ。だってよ、離れたい時に離れて嬢ちゃんが恋しくなったら戻ってくれば受け入れてくれるんだろ?なんか男にとって都合がいいぜそれ」
「離れたい時に離れて?」
「ああ、仕事かなんか分からんが自分の都合で離れて、そんで戻りたくなったら元サヤだろ?」
「別に離れてはいないけど?」
「……ん?」
「電話もするし、メールもするし、心配になったら会いに行くし、他に女を作ったら殺すわよ?」
「………………ん?」
「「「………………ん?」」」
周りにいる彼氏たちも首をかしげている。
なにかおかしいこと言ったかしら?
「いえだって別れたというだけで、元気にしているか心配にはなるし、声も聞きたいし、会いたいし、抱いてもあげたいし、他の女になんか取られるくらいならもう殺してしまったほうがいいでしょう?」
「……嬢ちゃん?」
「なにかしら?」
「それって別れてるの?」
「別れてるわよ?」
「そうかなあ……一応聞くけど、嬢ちゃんの彼氏の中には俺たちも含まれているんだよな?」
「ええそうね、ちょうど今は50人ってことになるわね」
「まあ人数はどうでもいいんだけどよ、さっき話したみたいな状況……例えば、何かしらの事情があって嬢ちゃんと別れる、そうなったとするぞ?あくまで仮定な、仮定」
「ええ」
「そうなったら、嬢ちゃんは電話をしてくる」
「毎日とは限らないわよ。しない日もあるわ」
「会いにくる」
「近ければ毎日行けるけど、遠くだとどうしても時間が空いてしまうけどね」
「抱く」
「会ったなら当然そうなるでしょう?」
「他に女を作ったら殺される」
「途中で泣いて許しを乞うてくるからそこで許してしまうけどね。惚れた弱みね、なかなか最後まではできないものよ」
「実際の事例あるのかよ!?」
「あるわね」
「……今後のために、一応その先例の方の話を聞かせて欲しい……かな」
「あんなつまらない話を聞きたいの?物好きね」




