ここにいる30人、全員私と交際して
「水はある!あったぞ!」
船長の人が森の奥から帰ってきて大声で叫んだ。
何はともあれ水。
私も含めここにいる全員の共通認識だった。
「あったか!これで何とかなるかもしれないな。食料自体は船から持ち出せたものがそれなりにあるが、水だけは心もとない状態だったからな」
30人の男のうちの1人が言う。
船長の人いわく、湧き水のようになっている場所があって、そこから細いながらも川になって流れていたそうだ。
衛生上の問題はあるが、煮沸などすればなんとかなる。
真水がないという最悪の状態だけは避けられたことに安堵する。
塩水を煮沸させて真水に、という気の遠くなる作業はとりあえずしなくてもいい。
「それにな、この島結構大きい。水もあったし、恐らく野生生物もいるはずだ。実がなってる木も見つけた。なんとかなるかもしれんぞ」
島が大きいのはいいことだ。
男30人女1人の計31人が生活するのだ。
食料の確保やその他諸々、広いに越したことはない。
「これで3日後にみんな干からびて死にました、っていう事態だけは避けられたわけね」
私が言う。
「そういうことだな。こんな環境だから細菌だのなんだのの検査なんかできるわけがないが、まぁそれは高望みってもんだ。感謝だな。しかし、それにしても…………」
船長の人が私を見ながら何かを言おうとする。
まあ何を言うかは想像できるのだけど。
「嬢ちゃん、綺麗すぎないか?なにか芸能人……いやそういうレベルですらないな。作りもんかと思ったぜ。肌とかどうなってんだそれ。3万円とかする化粧品使ってるのか?」
「化粧品なんて使ってないわ。化粧水も乳液もなにも。自然とこうなっちゃうのよ」
「マジかよおかしいだろ。俺の昔の彼女なんて化粧にとんでもない金と時間使ってたが、あんたと比べたら……いや比べるもんですらなかったぞ」
「人それぞれね。しょうがないわ。それと知り合いに聞いたところによると3万円の化粧品はそれほど高級品てわけでもないみたいね。それ以上のものを使ってるのになんであんたばっかりって怒られたことがあるわ」
「そりゃそうもなるわ」
「あ、高慢な女だと思った?ならごめんなさいね。正直、綺麗だの可愛いだのそういうのは子供の頃から言われ慣れててもうどうとも感じないのよ。時代が時代なら傾国になっていたとも言われたこともあるわ。だから、謙遜も否定もしない。こういう女だと思ってちょうだい」
「モテただろ」
「モテたなんてもんじゃないわ。限度を超えると美貌ってのは呪いみたいなもんなのよ。20人と付き合ってたわ」
「ああ、取っ替え引っ替えってやつか」
「替えてはいないわ。20人みんなと付き合っていたから」
「20股かよ?なんだよそれ聞いたことねえよ。男の甲斐性でも聞いたことねえよ。将軍かよ」
「そうでしょうね。でもそれが一番都合が良かったのよ」
「何が都合がいいのか俺にはサッパリだが……ってことはだ」
「何よ?」
船長の目が、にわかに濁った熱を帯び始める。次に彼が口にする言葉も、私には分かっていた。
「まぁ、見りゃ分かることなんだが俺達は男だけで30人だ。そんで女は嬢ちゃん1人だ」
「そうね」
「んで……水が見つかって、食料はとりあえずしばらくは心配ない、島は広いからもしかしたら自給自足ができるかもしれないって状況だ」
「あなたの言う通りね」
「なら……分かるだろ?」
「ええ分かるわ。つまり私の身体よね?」
「……嬢ちゃん物わかりが良すぎないか?」
「言ったでしょう20人と付き合っていたって。何も知らない生娘だとでも思った?」
「いや……そんだけの美しさだ、そんなわけないとは思っていたが……普通は女ならちょっとは取り乱すもんだぜ?最悪の場合、これから男30人に寄ってたかって貪られるかもしれない状況なんだぞ?」
その通りの状況だろう。
船長の人の言うことは何もおかしくはない。
ただの状況説明だ。
問題は、別のところにある。
別に30人一斉に相手したって構わないのだが、それだとある問題が生じる。
「で、順番はどうするの?30人の相手でしょう。1人5分というわけにもいかないでしょう?順番待ちだけでも相当な時間よ」
「冷静過ぎるだろ嬢ちゃん……いや確かに順番待ちにはなるが……」
「その間、待っている人たちはちゃんと我慢できる? 遠慮しないで言うけど、絶世の美女が目の前で行為をしていて、その間、正座でもしてお行儀良く待っていられるかしら?」
「うーん、そりゃ、確かに……」
「断言してもいいわ。順番を巡って争いが起きるわ。俺が先だ、いや俺だろ、俺のほうが身体が大きいぞ、筋肉があるぞ、俺は格闘技経験があるんだぞ、ってね」
「……なるかもな」
「なるのよ。伊達に20股してなかったの。分かるのよ」
「女が20股とか言うなよ。まあ確かに嬢ちゃんの言うことが正しい」
「私ね、争いが嫌いなの。私の身体を巡って殴り合いや殺し合いが起きるとかは絶対に嫌なのよ」
「殺し合い……まぁそんだけの美しさだ、絶対にないとは言い切れんが……」
「少しでも可能性があるのなら嫌なの」
「うーん、そりゃ気持ちは分かるが……」
「それとね、私だって女だから情緒ってものがあるわ」
「情緒?」
「そうよ。20股って聞いて誰にでも股を開く緩い女だと思っているのでしょうけど、私は交際していない人とそういう関係になるのは嫌なの。意外と身持ちは硬いのよ?」
「身持ちが硬い?」
「ええ、人数は問題ではないでしょう。20股だろうが100股だろうがいいのだけど、私は交際していない人には身体を預けないわ。そこだけは譲れないのよ」
「つまり?」
「ここにいる30人、全員私と交際して。つまり彼氏になって欲しいということよ」
「凄いこと言い出したな」
「それが私の出せる最大の譲歩よ。それすら飲めないのなら自死するわ」
「そこまでなのか」
「ええそうよ。そこだけは譲れないの。で、どうなの?私が言うのもなんだけど、それほど無茶な条件を出しているわけではないと思うわよ。私としたかったら、私の彼氏になって。これってそんなにおかしなことかしら?」
条件を伝える。
結果は分かっているが、それでも少しだけ不安になる。
船長の人が他の男29人のほうを向き意思を確かめているようだ。
その中の1人が叫ぶ。
「別に構わないんじゃねえか!? 俺たちと彼女はこれから彼氏彼女! そうすりゃ無理やりやるとかそういうの無しで、同意の上でやらせてもらえるんだろ? 最高の条件じゃねえか!」
そうよね。それで問題ないはずだわ。
船長もガリガリと頭を掻きながら、男たちの意見に同調した。
「正直、俺もそれで全然構わん。普通の女だったら泣き叫ぶか頭がおかしくなっちまうような状況だ。彼氏になるってだけで問題なく処理してもらえるなら、それが一番丸く収まると思うぞ」
29人が頷く。
「ああ、それでいい」「いいじゃんこんな可愛い子の彼氏になれるなら」「30股だけど、絶対にお目にかかれないほどの美少女だしな」「全く問題ない」「30股は凄いな……けどいいぜ」「彼氏以外に身体は許さないって、いい子じゃんかよ俺は構わんぜ」
最後に私が男30人を見渡して言う。
「問題ないようね。でもこういうのは最初が肝心だから、きちんと意思の確認を取らせて。あなた達30人全員、これから私と交際する、それでいいわね?いいと思ったら『同意する』と言って」
「同意する」「同意する」「同意する」「同意する」「同意する」「同意する」「同意する」「同意する」「同意する」「同意する」「同意する」「同意する」「同意する」「同意する」「同意する」「同意する」「同意する」「同意する」「同意する」「同意する」「同意する」「同意する」「同意する」「同意する」「同意する」「同意する」「同意する」「同意する」「同意する」「同意する」
確認が取れた。
――えーっと、こういう時ライトノベルだとなんて言うのかしら?
スキル発動?条件達成?
まあ何も言う必要はないのだけど。
脳内でカチリと音がして、『交際している男性に対する強者権』が発動する。
これでこの中に格闘技の世界チャンピオンがいたとしても、私にはかすり傷ひとつ負わせられない。
世界最高の名刀を使う剣豪が居たとしても同様だ。
あまりに条件が緩い、それにも関わらず効果が絶大過ぎる。
創作物だったらバランスブレイカー扱いされて何かしらの理由で封印されるような能力だ。
男は私を見たら必ず交際を申し込んでくるのだから、私はただ、それを肯定してあげるだけでいい。
「これから末永くよろしくね、私の可愛い愛しい彼氏達」
私が30人全員に微笑みかける。それだけで、男たちは一瞬で魂を抜かれたように、ぼーっと上気した表情になった。
「じゃ、早速俺からやらせてもらおうか」
男達の中でも一際体格のいい男が立ち上がり私に向かって来ようとする。
私はそれを手で制しながら
「慌てなくてもきちんと処理してあげるから落ち着きなさい。まずはここでのルールを決めるのが先よ」
「は?ルール?んなことより……」
「私が処理してあげるのは完全に順番制よ。そこをまず覚えておいてちょうだい。基本1日2人ね。別に30人一緒にだって構わないのよ?だけど経験上それは効率が悪いの。争いの元になるし、繰り返しのようになるけど、そもそも私が他の男としている横であなた達はじっと座って待っていられる?無理よね。だから一緒にはダメ。1日2人を順番にしていくわ」
「なに言って……」
「それと、5人でのグループを作ってもらうわ。30人だから6グループできることになるわね。私は暴力を絶対に許さない。私を巡ってでもなんでも、争いを起こした男がいるグループは『処理』を一ヶ月しない。連帯責任ってやつよ。それを覚えておいて。もし順番通り私に愛してもらいたかったら、5人の中できちんと話し合うなりして争いを起こさないようにしてちょうだい」
「グループ……? 連帯責任……? 1日2人……?」
「安心しなさい。理不尽な理由で順番を飛ばすような真似は絶対にしないわ。完全に公平にさせてあげる。気分次第ということはないわ。そこら辺、私は他の女と違うから安心していいわよ」
男30人は、私の言葉を理解できず、狐につままれたような顔をしている。
「きちんと暴力を振るわないでいるだけで、世界一の美女と15日に1度できるのよ。これって私そんなに無茶な要求しているかしら?普通の女だったら、あんたは顔がいいからOK、あなたは悪いからダメ、力が強いからOK、弱そうだからダメ、そういうことになるわよ。というか多分そのうちボス男ができてそいつの専属になる。私はそういうことはしない。顔が良い男も悪い男も、強くても弱くても食べ物を用意できてもできなくても完全に平等に愛するわ」
体格のいい男が言う。
「……何言ってるのかよく分かんねーわ。交際とか言い出した時にちょっとおかしいとは思ったが、グループ?連帯責任?1日2人?」
「そうよ」
「じゃあ今この場で俺が無理やりお前を押し倒したらどうするってんだよ!!!」
体格のいい男が私に向かってくる。
まさか島に1人しかいない女を殺すつもりはないだろうが、暴力をもってして私を屈服させるつもりなのだろう。
私の胸ぐらを掴んで、平手ではあるが頬を殴ろうとしてきた。
バチン!!と音がする。
結構な力を入れて叩いたようだ。
「は?」
男が自分の手を見る。
手の平の皮膚が破け血が出ている。
そうなのだ。強者権は、私が能動的に攻撃する時だけ発動するものではない。
交際している男は、何があろうと私を傷つけることができなくなる。私の肉体は、彼らにとって世界で最も硬い物質になるのだ。
「なんだこれ……なんで俺の手が?」
不思議がっている体格のいい男の手首を、私は小指と薬指で挟む。
以前親指と人差し指を使って交際している男に怪我をさせてしまった反省から、私は『躾ける』時はこうしているのだ。
「何をして……」
少しだけ力を入れる。
意外と加減が難しいが、慣れているので大丈夫だ。
「な、なに……い、痛い痛い痛い!やめて!やめてくれ!!」
痛いと言っているということは、もう少しキツくしても大丈夫だ。
最初の躾で、他の男29人が全員見ている。
ここが肝心だし、後から一人ひとりを躾けるのは面倒だ。
少し力を強める。
「あああああ……!!ああや、やめ………!!!ああ…」
この程度が丁度いいか。
力を緩める。
男の腕を掴み、怪我をしないように気をつけながら岩などがない所に放り投げる。
放り投げられた体格のいい男はうずくまって手首を押さえたまま動けないでいる。
よし、いい調整だ。
気を失っていないということは、骨が粉砕される手前で留められた証拠だ。
「見た?」
誰も声を上げられない。
「私は『見た?』って質問したの。答えなさい」
まだ、誰も声を上げられない。恐怖に足をすくわれ、呼吸の仕らすら忘れたように固まっている。
「ああ、まだ躾け終わってないから誰が代表して声を出したらいいのかとかそういう事も分からないのね……船長の人、今日のところはあなたが答えなさい。『見た?』」
「ああ、み、見た……」
「そうね、見たわよね。でもそれじゃダメね。私が『見た?』って聞いた意図をきちんと察しなさい。見ていたなんてのは私は百も承知なのよ。その上で『見た?』って聞いたのよ」
船長が口を開けながらボーっと考えている。
「そう、分かっていないのね。なら、次はあなたを躾ける番ね」
私が船長に向かって歩を進めようとすると、彼は悲鳴を上げて砂浜に平伏した。
「あ、あ、許して……分かった、分かったから……」
「……30点ね。まあいいわ初日だしこんなものでしょう。これからは私が質問をしたらきちんと意図を察して答えなさい」
「はい……はい……」
他の男達は全く動けないでいる。
恐らくは眼の前で何が起きたのか理解できない男が半数だろう。
今はそれでいい。
今夜じっくり考えれば、どれほど頭の悪い男であっても、心と身体で理解できるようになる。
「まず最低限、夜露をしのげる寝床を作りなさい。丁寧にね。それとあなたとあなたとあなた、水を汲んで来なさい。船長の人に案内してもらうのよ」
この孤島に建設される、私の完璧な檻――その最初の指示を、私は愛しい彼氏たちに下した。




