世界一の美少女、孤島に女性は1人
私が愚かだったということだろう。
通常の方法では渡航が困難な島へ行ってみたいなどと思わなければ良かったのだ。
そして、渡航の手段として、登録されているのかどうかも分からない怪しい船をチャーターして乗ってしまったことが愚かさの極みだったわけだ。
結果は見ての通り。
激しい嵐に見舞われ船は航行ができなくなり、行き着いた先は私が行きたかった島ですらないどこかも分からないような孤島。
命からがら船から脱出したはいいものの、その数分後には船が完全に沈没してしまった。
救命ボートなんて上等なものはなかったので、そこから必死に泳いでこの島へ辿り着いたのだ
まぁここまではいい。
よくはないが、自分の行動の結果こうなったのだから因果関係としては理解できる。
問題は周りの状況だ。
先ほど数えてみたが、男ばかりが30人、砂浜でたむろしている。
何度数えてみても30人だし、女は私1人だ。
いやおかしい。
この船は私がそれなりの金額を出してチャーターしたものだ。
私以外の人間が乗っているなどと聞いていないし、人数が多すぎる。
船の操縦をしていた男に声をかける。
「一体どうなっているのかしら。チャーターしたのは私だし、他に乗員がいるなんて聞いていないのだけど。船が沈没したのはいいわ。本当は言いたいこともあるけど嵐のせいだということは理解しているから。なぜ私の他に乗員がいたのかしら?それもこんな大人数が」
どうせロクな答えは返ってこないと半ば確信しつつも聞いてみる。
「お嬢ちゃん、恐らく薄々気づいているんだろうが、多分想像している通りだよ。ここにいる男達は正規の乗員でもなんでもない。まぁ正規も何もこの船自体が非正規みたいなもんだけどな。本当なら嬢ちゃんを依頼の島に降ろした後にこの男達を密航させて、それから帰りにまた嬢ちゃんを迎えに来る予定だったのさ」
「……」
「つまり、まぁここにいる連中は、『いないとされてる人間』ってこった。頭の良さそうな嬢ちゃんだから先に言っておくが、想像している通りだ。GPSなんてもんは切ってあったし、救助信号も出していない。そういう船だったんだよ沈んじまったあれは」
「私はスマホを持っているわ」
「船の中で確認しなかったのか?とっくに圏外になってたはずだ。この島に辿り着くはるか前にな」
「つまり……」
「誰もここに俺達が遭難したなんてことは知らない。知る方法がない。捜索も何も、最初から探そうともしないのさ」
「……」
「私のことなら捜索しようと……」
「嬢ちゃん、誰かに依頼の島に行くことを伝えてあったのか?正規の方法じゃ渡航できないあの島へ渡航するからSNSに写真を投稿するとでも約束してあったのか?そもそも旅行の日程は誰かに詳しく伝えてあったのか?」
「私に友達はいないわ。親しいフリをしてくれる人すらいないわ」
「……そこまでは聞いていない……つまりいないってこった嬢ちゃんが今ここにいる人間は」
「偶然誰かが見つけてくれるまでここで生活をしなきゃいけないってことね」
「察しが良すぎて怖いくらいだが、そういうことだ。一応食料や機材その他はできるだけ持ち出したが、どのくらい役に立つのかは全く分からんな。そもそも真水が湧いてるのかすら調べてみないと分からん。それなりに広い島に見えるが……」
「一つ、一番気になっていることがあるのだけど、女は私以外にいないわけ?」
「いない。嬢ちゃん以外は全部男だ。30人。さっき人数を数えてみてただろう?男30人女1人、それが今の状況だ」
「困ったことになったわね」
「色々とな。まぁ嬢ちゃんが心配してるようなことはすぐには起こらないだろうよ。まずは命の安全が最優先、そのくらいは全員分かってる。具体的には真水と食料の確保、それから寝床の準備だな」
「あら意外ね。すぐにでも30人がかりで、ということになるのかと思ったわ」
「嬢ちゃん、あんたがどういう経験をしてきたかは分からんが男はみんなバカってわけじゃないぜ。安全が確保されないんならそういうことしてる余裕なんてないってみんな分かってるはずだ」
少しだけ私から目を逸らしながら男が言った。
直視できない理由は分かっている。
私があまりに魅力的すぎて、あまり見ていると生活の安全を確保するという大きな目的があるのに違う行動をして体力を使ってしまうのでそれを避けたいのだろう。
私は、控えめに言って絶世の美女だ。
幼少期からそれは変わらない。
街中を歩けば必ず男は振り返る。
二度見、三度見は当たり前、ずっと見てくる男もいる。
ナンパなんて日常過ぎて、もはやお茶を飲むのと変わらない頻度だ。
それどころか初対面で求婚されるなんてこともしばしば。
交際を申し込まれるんじゃなく求婚だ。
幼少期から自分が異性の興味を引く容姿をしているのを理解はしていたが、あまりに異常だと気付いたのは中学生に入った頃くらいからだろうか。
これ以上美しくなる必要がない、というかかえってデメリットになるので化粧は一切しないが肌は陶器のような状態をキープしてしまっているし、長いまつ毛は何もしなくてもくるっと上を向き、シャンプーとリンスはスーパーで売っている一番安いPB商品なのに髪の毛はサラサラで歪みのない天使の輪が常に浮かんでいる。
風が吹けばロングの髪の毛は何の抵抗もなく舞い上がり、顔が露出することによりそれを見た男が腰を抜かしてしまったこともあった。
謙遜はしない。
事実なのだ。
私が美少女であり美女であるのは。
昔は、同じクラスの女子に容姿を褒められるとそれを否定したりもしたが、それがかえって嫌味になると気付くまでに時間はかからなかった。
『そうね、たまたまよ』
これが女子相手に容姿の言い訳をする時の一番いいセリフだ。
美しいことに対して否定をしない。
もはや否定をすることが難しいレベルなのだ。
……というわけで、この状況である。
化粧しなくても十分に美しい私と、男30人。
どうなるかは火を見るより明らかだ。
さっきこの男は命のための生活の保全をしてからじゃないと男もそういう行動には出ないと言ったが、逆に言えば少し安全が確保されたと判断すれば必ずそういうことになるだろう。
それはまぁいい。
ん、『それはまぁいい』と思うのは一般的な女の感性からすればおかしい……のか?
だが、本当に別にそれは構わないのだ。
毎日毎日告白やらナンパやら求婚やらを繰り返されて、誰とも交際しないのは難しい
断りきれないわけではないが、『もう誰かと付き合っています』という断り文句が一番角が立たないのだ。
だから交際していた男はいる。
何人も。
ん、そんな綺麗な女なら男が手放さないのだから何人もと交際するのはおかしい、と感じるのは一般的な女の感性か。
普通に何人もと同時に付き合っていた。
何せ、もう交際している男がいるから諦めて下さいごめんなさいと言っても、それでも構わないと言ってくる男が後を絶たないのだ。
それでも断ればいいと普通は考えるのだろうが、もう、途中から諦めてしまったのだ。
『男がそれで構わないと言うのなら別にいいんじゃないかな』、と。
だから複数人と交際した。
倫理的にも道義的にも完全にアウトだろう。
でも、あまりに断る労力が大きすぎるのだ。
同時に複数の男と付き合ってしまったほうが楽なほどに。
そんなの隠しきれるわけがない、と思われるだろう。
だから隠していなかった。
交際している男達にも、周囲にも。
『新しい男に告白されたわ。あまりにも熱心だから、もう1人増やしても構わない?』
それできちんと既存の交際者の男達の同意が得られたら、それでいい。
1人増えるだけだ。
大した負担にはならない。
大切なのは同意だ。
ここが一番の肝なのだ。
全員の心からの同意が一番大切であって、それがあるのなら世間一般の倫理というもんは飛び越えられるのだ。
そして次に大切なのは男達と私自身の身の安全だ。
1人だけと交際して他を全て断っていると、必ず暴走する男が現れる。
交際している男を脅迫する者、暴力を振るう者。
私自身への危害ならまだいい。
だが交際している男達に危害が及ぶのだけは絶対に許されない。
それは私の中での絶対的なルールだ。
私のモノに危害が加えられるのだけは我慢ならない、許せない。
だから複数人と交際するくらいなんでもないのだ。
それで私の男達の安全が買えるのならば。
……ん、ああそうか私への危害ならまだいいという感性もおかしいのか。
だがそれが私の中での普通なのだからどうしようもない。
確かに頭のおかしい女なのだろう。
だが、あまりに男達から求められるとこういう結論が最善になってしまうのだ。
……何人と交際していたのか、と疑問に思う人もいることだろう。
20人。
これが私の男達。
ここにいる30人よりも少ない人数。
そんな人数の男と交際して上手くいくわけがない?
必ず破綻する?
確かに普通ならそうなのだろう。
数少ない知り合いの女達の話を聞いた経験からすると、こんな関係が続くわけがない、それが世間一般の常識だ。
だが破綻していない。
しなかった。
それはなぜか?
私に魅力があり過ぎて男達がそんな状況にも関わらず離れていかない?
確かにそれもあるだろう。
だけど本当の理由はそれじゃない。
私には生まれついて持っていた能力がある。
交際している男性に対する強者権。
うん、強者権だ。
なんだ強者権って思うだろうが、そういう能力があるのだ。
ライトノベル風にいうならスキルというやつだろう。
交際している男達より圧倒的に強者になるのだ。
なんだ強者って、と思うだろう。
言葉の通りだ。
小指一本でボクシングでインターハイに出るような男を制圧できる。
むしろそのまま何の苦もなく殺せる。
抱きしめればそのまま胴体を真っ二つにできる。
豆腐のように。
ただそれだけの能力。
それが交際男性に対する強者権。
つまらない能力だろう。
火を使えるわけでもない、凍らせることができるわけでもない、空を飛べるわけでもない、聖なる力を使えるわけでもない。
ただただ交際している男性より強くなるのだ。
だがこんなつまらない能力だが、20人の男達と同時に交際するのは便利な能力だった。
なにせ、危害を絶対に加えられないのだ。
殴られようが蹴られようがタンポポの種が当たるよりも痛くない。
そしてこちらは一方的に巨人がアリを制圧するように相手をできるのだ。
私の身体に関してトラブルなど起きようはずがない。
そうなれば、後は男達同士の管理を徹底すればいいだけだ。
そう、私のこの能力がただただ強くなるだけであって心を操れるような便利な代物ではないのだ。
だから、私への危害がなくても男同士が争いが起きれば怪我もするし最悪の場合は死人が出る。
繰り返すが、私の交際している男達に危害が及ぶのは絶対に許せない。
それが外部の人間からによるものなら尚更だが、交際している男達の中での争いの結果だとしても許せない。
ならその圧倒的な暴力で黙らせればいい?
うん、私も最初はそう思った。
だがそれでは上手くいかなかったのだ。
できるのは私に対する危害をゼロにすることだけ。
男達同士の争いにはあまり役に立たないのだ。
後から私にお仕置きされて半殺しにされるのが予想できていようが、その場での衝動で争いを始めたらどうにもならないのだ。
私が24時間見張っているわけにはいかないのだから。
というわけで、今のこの状況だが…
別にここにいる30人を相手にすることは大したことではない。
20人が30人に増えるだけだ。
何も知らない生娘であろうはずがない。
20人の男達と同時交際するためにどういう形態で「処理」するのかがいいのかは試行錯誤を色々とした。
20人同時に相手にすると効率が悪いとか順番待ちの男が可哀想だとか、まぁ色々だ。
というわけで、悩むポイントは
『私、こんな大人数の男の人たちと生活なんてできないよぅ!もし求められたらどうなっちゃうの!?』
などという可愛らしいものではない。
大切なのは、この30人の男達を誰一人死なせないこと、争わせないこと、その一点だ。
ん?もう30人の男達とそういう関係になるのは確定しているのかって?
当たり前でしょう。
こんな状況でそういう関係にならないほうがおかしい。
ならばこれから30人全員と交際するということになるし、そうなれば…
ここにいる男達は、全員私のモノだ。徹底的に管理して誰一人死なせない。




