幕間 其の一 西王姉弟
葵はとある写真を見つけた。父親と思わしき人に赤色でバツが付けられていた。そして西王姉弟と母親が写っている。
「牙驢馬さん、これは……」
「ああ、この写真を見るのも久しぶりだな……。これは俺達の家族写真だ」
「なんか父親に嫌な思い出でもあったんですか?こんな風にバツが付けられるなんて」
「この男は先代の西王会会長だった。……そして、任侠の欠片もない糞野郎だったよ」
牙驢馬は過去を思い出していた。かつていじめられっ子だった頃の事を。
牙驢馬の父はヤクザだった。そして強きに媚び、弱きを挫く最悪なヤクザだったのだ。そのせいで西王家の子ども達は奇異の目で見られる事に。
「やめてよ……。やめてよ!」
牙驢馬は父の評判のせいで周囲の子ども達と仲良くできずいつも殴られていた。人はこいつはいくらでも叩いていいんだと認定すればどこまでも残酷になれる。
「父さん助けてよ!いつもあいつらが殴ってくるんだ!ケジメをつけてくれよ!」
「そのぐらい自分で何とかしろ。いじめられるのはお前の能力不足が原因だ」
そもそも、父が真っ当に生きてさえいればこんな事にはならなかった。だが父は自分の事を棚に上げて、責任を牙驢馬に押し付けた。
「ちょっと、牙驢馬。何があったの」
「何でもない……。転んだだけだよ」
牙驢馬は大好きな姉さんを心配させない為に嘘を吐いた。いじめられるのは能力不足だからという父の言葉を受け入れ懸命に自分を鍛える事にした。そして。
「よお、牙驢馬、今日の俺は凄い不機嫌だからなあ。一発殴らせろ」
「かかってこいよ」
しかし、必死に鍛えたにも関わらずいじめっ子には敵わなかった。いよいよ殴られるかと思ったそのとき。
「牙驢馬!」
雅馬が駆けつけていじめっ子をあっという間に倒した。どうしてここにいるんだと牙驢馬は驚く。
「姉さん!」
「お前は馬鹿だね。私を心配させたくないとかそんな事思ってたんでしょ。私は全てお見通しなんだからね」
「……でも、いじめられるのは俺が能力不足なせいだよ。自分一人で戦えるようにならないと」
「何を言ってんだよ。この世は一人の能力じゃどうにもならない事だらけだよ。全部自己責任論で片付けようとしないで。私達は姉弟なんだから助け合おうよ」
「……ありがとう」
父は俺達に何もしてくれなかった。母もほとんど置き物だった。父の評判のせいでいつも苦しんでいた。でも姉さんはいつだって味方だった。牙驢馬にとって雅馬は英雄だった。だからきっといつか自分も姉と肩を並べて戦える日が来る事を願っているのだ。




