第七話 原爆症
ハメられた……と葵は思った。車でわざわざこんな遠くまで来たのも僕が逃げないようにする為だと。初めから協力目的ではなく、全てはこの為だったんだと葵は酷く落ち込む。
「僕はあなたの恋人にはならないし、逃げ切ってみせます」
「さあ鬼ごっこの時間だ」
「助けて!変態つきまといに襲われています!変態つきまといに襲われてまーす!」
葵は叫びながら急いで走った。しかし、街にいた女性達に葵を助ける者は残念ながらいなかった。なぜなら、アメリカ兵というものは女性達にとってお客さんであり、そして自分より力の強い者。なので、逆らう事ができないのだ。
「そんな……味方してくれる人がいない」
葵は逃げるのを一旦辞めて、ソルの方へ向き、思いっきり殴った。しかしそれもあっさりキャッチされた。訓練されたアメリカ兵はあまりにも強かったのだ。ましてや、体格差もまるで違う。
「葵君!逃げようとする姿も抵抗する姿も最高だ!」
そのまま、葵はソルに押し倒されてしまった。絶体絶命と思われたその瞬間。ゴン!と突如として音が鳴りソルは倒れた。目の前にはフライパンを持った女性が立っていた。
「情けないわよね……皆、アメリカ兵にビビって奴を好き放題させて。君怪我はない?」
「あっ、ありがとうございます」
「とりあえず匿ってあげるからうちにおいで」
葵は謎の女性についていき小さな小屋へと入った。すると、意外な人物がそこにいた。
「え!蒼太さん!ここにいたんですか」
「ゲホッゲホッ……なんだ、俺をタコ殴りにした糞野郎じゃねえか」
案の定、蒼太は葵を睨んだ。初対面の時と違い、今度はハッキリと。
「えっ?蒼太君、怪我をしていたのってこの子が原因?」
「あっ、えっとそれは、僕じゃなくて蒼太さんが悪いというか」
しまったと葵は思う。いくら本当に蒼太が悪いとはいえ、直球に発言してしまった。蒼太はキレた。
「チッ……やっぱ癪に障るガキだな……」
「……蒼太さん……西王さんが心配していましたよ。西王会に帰りましょう。時和さんもあなたの事を許すつもりでいましたし、僕も恨んでいません。友達になりましょうよ。同じ組の仲間なんですから」
めげずに葵は蒼太に訴えかける。しかし結局思いは届かず。
「なんで俺がお前の友達にならなきゃいけないんだ。俺はアメリカ人なんかと友達になれてたまるか」
「ごめんなさいね、蒼太君は色々あってアメリカ人の事が好きになれないの」
やはり簡単に友達にはなれないなと葵は思った。今後も根気強く友達になろうと言い続けるか。でもそれだと、余計に怒らせるだけかと悩む。何か大きな切っ掛けでもない限りは何もできないままか。
「そうですか……すいません……じゃあ今日は一旦帰ります」
「待って、今日はここで泊まっていきなよ。そのぐらいはいいでしょ蒼太君」
「勝手にしろ……」
葵は布団で寝たものの、どうすれば友達になれるんだと思い続けた結果、上手く眠れず起き上がってしまった。蒼太はぐっすり眠っていたが、女性は起きていたようだ。
「あの……お名前聞いてもいいですか?僕は葵です」
「うちは晴っていうの」
「えっと、蒼太さんが原爆症っていうのは知っているんですか?」
「うん知ってる。でも安心して。長く看病しているけどこの病気が人にうつる事はないわ」
蒼太が原爆症である事を知っていても、それでも受け入れてくれる人がいたのか、良かったなあと葵は喜んだ。でもその受け入れるまでの過程が今度は気になった。
「そうなんですか……でも最初はうつるかもとは思わなかったですか?」
「……仮にこの病気がうつる病だったとしてもそれでもうちは蒼太君のそばにいたい。彼には看病する人間が必要だから……。それに、ずっと孤独に苦しんでいた彼を一人ぼっちにさせるわけにはいかないでしょ……あの子は西王会の会長に会う前はずっと一人ぼっちだったの」
なんて人なんだと葵は思う。原爆症がどんな病気かまだ確実な事は分からない。それでも看病をし続けているだなんて、覚悟がある人だと思わずにはいられなかった。
「そうですか……じゃあ西王さんは蒼太さんが原爆症である事は知っているのかな」
「それがまだ隠しているみたい……彼は原爆症の事を明かして仲間がいなくなるのを恐れている」
あの牙驢馬を受け入れてくれた。そして僕も受け入れてくれた。そんな西王ならきっと蒼太を受け入れてくれるだろうと葵は思った。
「西王さんならきっと受け入れてくれると思います」
「君は蒼太君の事をどう思っている?」
「最初に喧嘩になったときは動揺しましたけど……でも彼は原爆のせいで人生を歪められてしまった被害者の一人だと思うんです。原爆さえなければ……戦争さえなければ僕と彼が初対面のときに喧嘩をする事はなかったと思います。……でももう喧嘩は過去の事です。僕はもう水に流します。今は同じ西王会の人間なんだから、やっぱり仲良くしておきたいなって」
「……ありがとう葵君。蒼太君が君を受け入れるかは分からないけど、君がそう思ってくれるその気持ちが嬉しい」
そうして、二人はやがて眠りにつく、翌朝目が覚めると、小屋の中には蒼太と葵の二人しかいなかった。晴はどこだ。
「あれ?蒼太さん……晴さんがどこにいるか知らないですか?」
「俺にも分かんねえ。ん?」
床に手紙が置かれていた。その内容には、葵君へ、今日の昼にこの場所で待ってる、君を助けたあの女性を拉致しているから取り戻したければここまでおいで、ソルより、と書かれていた。
「なんだよこれ……」
「蒼太さん!晴さんが危ないです!一刻も早く助けに行きましょう!」
指定された場所に着くと、晴が柱に縛られているのが見えた。そしてその近くにソルがいた。晴は眠らされているようだ。無事だろうか。
「こんにちは、葵君。」
「ソル!晴を返せ!」
蒼太はソルに殴りかかった。しかし、軽く受け流されてしまい、そのまま反撃を喰らって倒されてしまった。やはりかなりの強者だ。
「まだ、彼女を返すわけにはいかないね。僕は葵君が彼女を食べる所を撮影したいんだ。」
「変態だ……」
「変態?それは違うね。僕は男しか愛せない体で生まれてきてしまったんだ。だからこうしてしまうのは仕方がないだろう?僕は君が興奮している所を撮りたいんだ」
「男しか愛せないというのは問題じゃないんです。ダメなのはそれを無理矢理他者に強要する事なんです」




