第六話 分かり合い
「俺達を誰だと思っているんだ牙驢馬」
「僕はあなたの姉さんに鍛えられたんです」
時和と葵は再び牙驢馬に殴りかかった。何度倒されようとそれでも諦めない。理不尽に立ち向かう為に。
「へっ、何度も同じ手を喰らうか……ぐはっ!」
「やっぱり……あなたは確かに雅馬さんよりは強い……けど動きの癖は雅馬さんそっくりだ」
「俺達は何度も雅馬の攻撃を喰らっているんだ。お前の動きなんて二度見ればもう丸分かりだぜ」
牙驢馬は倒れた。戦争の無念を伝えたいという気持ちが葵達に勝利をもたらしたのだ。この世は不条理ばかりが勝つわけではない。
「さて……この馬鹿弟を西王会の事務所まで持ち帰るぞ。葵、それと豆さん運ぶの手伝ってくれ」
「分かりました。せーの」
牙驢馬は目が覚めると目の前に姉がいた。本当に久しぶりだった。すぐにでも抱き付きたかった。だが牙驢馬は後ろめたそうに言った。
「姉さん……」
雅馬は目に涙を溜めていた。当たり前だ。亡くなったと思っていた最愛の弟がこうして帰って来たのだから。
「牙驢馬……無事で良かった……ずっと探していたんだよ」
「姉さん……俺は姉さんと同じ所にはいられないよ……誘拐されてアメリカのスパイにされて悪い事もたくさんしてきた……俺は罪を背負いすぎてて今更光がある所になんていけない」
牙驢馬はもう疲れ切っていた。もはや自分は汚れすぎていてどこへも行けない人間だと思い込んでいた。だが。
「……何を言っているんだ……家族というのはね……どんな子であろうと可愛いもんなのさ……罪を犯した?なら一緒に私が背負うよ……だからもう私の前からいなくならないで」
雅馬はどんな形であろうとそれでも弟が戻ってきてくれた事が嬉しかったのだ。たとえ汚れてしまったとしてもそれを綺麗にしてあげたいと願うほどに。
「姉さん……心配かけてごめん……俺も姉さんと一緒にいたいよ」
「キャノン機関がなんだ……もし私の弟をもう一度奪おうとしても何度だって追い払ってやる」
雅馬は時和と葵に向き合い、二人をハグした。雅馬は二人の事を認めるように。
「弟を連れ戻してくれてありがとう」
そして今度は葵と目を合わせた。申し訳なさそうに。
「葵……初めて会ったときに酷い事をしてごめん」
「いえ……元はといえば僕が事務所に落書きをしたからですから」
「それでも謝らせて……もうお前は立派な私の組員だよ……相手が自分より強そうであってもそれでも立ち向かったんだ。二人とも立派だよ。良くやった」
雅馬と葵は無事和解した。そして牙驢馬も、豆の前に立つ。いくら自分の意思ではないとはいえ、それでも自分のやろうとした事を詫びたかった。
「俺はあなたに酷い事をしようとした……。謝らせてくれ。すまなかった……」
「いいんです、牙驢馬さん。あなたは自分の意思とは無関係にスパイ活動を無理矢理やらされていたんでしょう?なら悪いのはアメリカですよ」
こうして、牙驢馬との争いは無事に収まった。そして、葵にある考えが浮かぶ。
「僕は思うんです……僕は皆と仲良くなりたい。ちゃんと向き合って話せば、こんな風に仲良くなれるんだ。だからこそ……今ずっと気がかりな事があって」
「なんだ葵……言ってみ」
「僕は蒼太さんとちゃんと話をしたいです」
「蒼太って……あいつとか?あいつ俺の命を奪おうとした奴だしなあ……」
時和は微妙な反応をする。あの蒼太と話し合いだと?葵はあまりにも人が良すぎやしないかと思いかける。その上、蒼太は自分の事を殺そうとした奴だ。
「時和さんが許せるかどうかは時和さん次第でいいんです。でも蒼太さんは西王会の人間なんです。同じ組の仲間とずっとすれ違ったままだなんて、寂しいじゃないですか。まだ僕は蒼太さんとちゃんと話し合ってないんです」
葵は蒼太の事をもっと知りたいと思った。彼の苦しみを理解して、どんな風に向き合えばいいのかを考えていたのだ。
「そうか葵……ったくしゃあねえなあ……葵がそこまで言うなら俺は蒼太が褌一丁で土下座したら許してやるよ」
「私もずっと行方をくらませている蒼太の事は気になっていたわ。あいつは馬鹿な事をしたとはいえ、それでも私の組員である事に変わりはないわ。私達で全力で捜索しましょう」
葵達は複数に別れて蒼太の捜索を行った。色々、聞き回ってみたが大した情報は得られなかった。そんな中、葵が道を歩いている最中に突然、一人のアメリカ兵が話しかけてきた。
「こんにちは、何か困り事かな?」
「えっと、今は人探し中です。雲開蒼太さんって人を探しているんですけど」
「なら手伝ってあげよう。僕はソルだ、よろしく」
「葵です。協力ありがとうございます」
葵はソルの車に乗った。車は遠くまで行き、小さな家がたくさんある街についた。そこには棒立ちでいる女性が多くいる。こんな昼間に働きもせず、何をしているのだろうかと葵は思った。
「あの、ソルさんここって……」
「ここは恋人になる権利を売っている女性がいっぱいいるんだ。まあ僕は女に興味はないけど」
よく見ると、アメリカ兵がお金で女性を買っている様子が分かった。葵はこの世界の闇を知るには、まだ若すぎるのだ。敗戦国の悲しい光景がここにあった。
「恋人になる権利を売る?お金だけで繋がるような仲なんて、果たして恋人同士と言えるのかなあ」
「葵君。今の世の中にはこういう商売で家族を養っている人がいっぱいいるんだ。彼女等は家族と生きる為に必死なんだよ」
「でも……それでもやっぱり僕は恋人というのはお互いにちゃんと好き同士で付き合うべきだと思います」
「葵君は純粋だねえ。そこが良い所だ」
葵達は早速、女性達に蒼太の行方を聞いた。しかし、残念ながらここでも有力情報は得られなかった。ソルさんに遠出までさせたのに何もできず葵は申し訳なかった。
「すまないね葵君、君の力になれなくて」
「いえ、いいんです」
「ところで、葵君。僕は君に一目惚れしてしまってね。恋人になる権利を僕に売ってくれないか?」
「えっ?なんですかいきなり。申し訳ないですけど僕、男の人とは付き合えませんし、そもそもまだ大して知り合ってすらないですよね」
葵は酷く困惑した。確かに葵はモテたいとは思っていたが、大して付き合いもない会ったばかりの男からいきなり好かれるというのは想定外だった。勿論、葵は嫌がった。
「もう夜が近いので帰らせていただきます。今日はありがとうございました」
「おっと、この迷路みたいな街で僕から逃げられると思うかな?僕は街の構造を熟知している。けど君は初めて来る場所だ。だから逃げようとしても無駄だよ」




