第四話 広島の華
「それでは歌わせていただきます。広島の華」
人生の試練の意味を心得た 僕達は乗り越えてみせるさ
傷だらけの思い出が浮かぶ 哀しむ魂
それでも生き残った理由を知りたい どうして僕が
全てが燃える炎 憎しみ抱いても
消火できるのは私達の涙だけ ただそれだけよ
乗り越えられない試練は与えられない 僕達は乗り越える
魂だけになろうと夢は消えない!
生きた僕達だからこそ夢受け継げる!
今は天にいる友よ!
ありがとう友でいてくれて!
広島よ華さけ!
盛大な拍手が巻き起こった。葵は感激した。楽さんは自分を受け入れてくれただけでなく、こんな素晴らしい歌まで聞かせてくれるだなんて。最初は変人だと思っていたがすっかり印象が変わった。
劇は終わり、葵達は舞台裏へと向かう。
「おっ、カツラがもうできたみたい。はいどうぞ」
「えっ、速っ!ありがとうございます」
「うちらは歌が歌えるだけじゃなく、選りすぐりの職人達でもあるからね。普通の人なら数週間かかる作業も、うちらなら数時間で終わるんだ」
「本当に人間かよお前ら……」
時和は彼女らの凄さに少し引いてしまった。カツラなんて普通数週間はかかるものなんじゃないかと。
そして試しに葵はカツラを装着してみた。
「おおっ!フィットしてます」
「きゃー、葵君可愛いねえ」
「でへへ」
葵は楽に可愛いと言われ鼻の下を伸ばしてしまった。異性の言葉には弱いようだ。
「俺もすっかり坊主になった事だしせっかくだからお坊さんになろうかな」
「賭博中毒者の生臭坊主なんてどこに需要があるんですか……でも髪の毛をくれて本当にありがとうございます時和さん!」
「今後ともうちらをよろしくね〜」
「これからも定期的に見に行きますね」
夜道を歩く葵達。葵は考え事をしていた。そして電柱にゴツンとぶつかる。そして西王が口を開く。
「そうだ忘れる所だった。はい今日の労働の日当ね」
「えっ、お金貰えるんですか?てっきり、ただ働きだと思ってました」
「私はそこまで鬼じゃないわよ。ちゃんと働いた分に見合った対価は与えるわ」
葵の中で西王に対する印象は少しずつ変わりつつあった。きっとこの人は根は悪い人ではないんじゃないかと。
「ひゅーっ、やっぱ西王は優しいなあ」
「うるさい」
「あの、お金ありがとうございます。それで話は変わるんですが、西王さんって喧嘩強いんですよね。楽さんから聞きました。それで相談なんですけど、僕修行がしたいんです。僕を強くしてくれませんか?僕は大切な人を守れる力が欲しいんです」
「俺も一緒にいいか?強い男になってモテたいしな」
葵が真剣に申し出るのに対して、時和は相変わらずふざけて出た。西王は葵にのみ目を合わせ。
「……手加減はしないけどいい?」
そして、修行の日々が始まった。腕立て伏せ百回、腹筋百回、屈伸百回、そして走り込み十キロメートル。それらを毎日。まずは基礎の筋力と体力を鍛えた。案の定時和は。
「もう嫌だー!俺は辞めるぞー!」
「女にモテたいんだろ?だったらサボるな!」
西王は容赦なく時和を竹刀で叩いた。どうやら時和のモテモテへの道はまだまだ遠いようだ。
次に、葵達はボクシングの練習をした。天井から吊るされた布袋に対し、ジャブ、ストレート、フック、アッパー、ウィービング、ダッキング、ステップといった基礎の動作を行う。
「こんなにやってたら体が壊れる〜!やっぱり俺辞めるぞ〜!」
文句は届かず、西王は容赦なく竹刀で時和を叩いた。
そして最後にスパーリングをした。実戦形式で西王を相手に時和と葵の二人がかりで修行の成果を見せるときがきた。
「くそっ、俺の攻撃が全然当たらない」
「おらおらどうした、私に攻撃を当てる事すらできないようなら誰と戦っても勝てないぞ」
「はあっ!」
葵がついに一発西王に攻撃を当てる事ができた。西王は跪く。
「だっ大丈夫ですか?」
「おらっ」
葵は不意を突かれて倒れた。
「ぐわっ」
「喧嘩の時に相手の心配なんてするか?油断大敵よ。でもよく私に一発当てた。葵は訓練終了だ」
「あのー俺はー、俺も結構頑張ってるんだけど」
「時和はまだダメだ」
「ですよねー」
そして時が経ち、辛うじて時和も訓練終了に至った。こうして時和のモテる道はスタート地点へと立てたと言えるのだろう。
「はーっ、キツかったなあ。俺もう二度とやりたくねえよ」
「何言ってるのかしら。訓練終了しても鍛錬し続けるのよ。どんなにムキムキな人間だって修行をサボれば一気にデブになるんだから。」
残念ながら、おそらく時和はサボるかもしれない。そしてモテへの道は案の定遠のくのだ。
「今日までご指導ありがとうございます!西王さん」
「礼なら仕事で返す事ね。鍛えたからにはこれからは用心棒のような力仕事も任せるから。さて早速葵に頼みたい事があるんだけど」
葵は闇市へと向かった。米、イモ、麦といった食料品から、衣服に酒、タバコなど、もはや買えないものはないというほどに色んな商品が並んでいた。
とある女性が、宝石と交換で大量の食料品を買っていた。おそらく家族を養う為に大切な物を売ったのだろう。葵はその女性の後をつける。
「警察だ!そこの女!闇市で手に入れた商品は没収だ!」
「そんな……これがないと私達は生きていけないんです」
葵は天狗のお面をつけて警察の前に立ちはだかった。いよいよ鍛えた成果を見せるときだ。
「この女性はこの米が必須なんです。もし没収しようとするなら僕が止めます」
「何を生意気な!」
葵は警察の攻撃をサッと躱す。こんなのは西王さんの攻撃に比べれば軽い方だった。
「警察は僕が止めます。さあ早く行ってください。家族の為に」
「ありがとうございます!」
時には正義と正義がぶつかりあう。それでも、お腹を空かせた人に食べ物を与えるのを、邪魔していい理由などないのだ。




