第二十一話 草野球
葵は家にいた。そして、両親の写真を見る。
「僕、人生色々大変だったけど、今はいろんな人と仲良くできているよ。やっと生きていて良かったと思えるかもしれない。人生を諦めなくて良かった」
葵は家を出る。今日からまた西王会でお仕事だ。何をするのだろうか。そう考えていたが。
「草野球やろう!」
西王はいきなり言い放った。なぜ急に?
「西王の奴、なに急に熱くなってんだ?」
と時和は冷たく反応する。時和は野球よりも雑誌を読んでゴロゴロしたい気分だった。だが容赦なく雑誌は西王に取り上げられる。
「会長命令よ。野球をやるのよ。今広島キーパーが熱いの。あの人達のプレイを見たら、私もやりたくなっちゃったんだ。もうチームは考えているわ。勿論時和お前も一員よ」
「強引だなあ……」
「まあたまにはいいじゃないですか時和さん。僕も野球なんて久しぶりだし楽しみだなあ」
今日はお仕事ではなく、実質休みだ。葵はワクワクが止まらなかった。野球は家族との思い出でもあったからだろう。
早速、西王が予約していた野球会場へと向かった。だが。
「ちょっとどういうこと?私が先に予約したはずよ」
「おっと残念、この会場はすでに広島キーパーが頂きました。どこぞの草野球チームが遊ぶ為だけに使うよりも、俺等みたいな将来有望チームが真剣な練習をする為に使った方がマシだよねえ」
「……私を誰だと思っているの?西王会の会長よ!」
「ん?西王会?んー?女が仕切っているヤクザなんて怖くなくない?じゃあカスでしょ」
「くっ……」
本物のヤクザ相手に広島キーパーの選手は一切ビビらない。それにしてもなんてこった。広島の英雄チームがこんなセコい真似をするだなんて。葵は幻滅せずにはいられなかった。だがこのまま好き放題させるわけにはいかない。葵は広島キーパーの前に立つ。
「じゃあ……僕達のチームがあなた達から一点でも取れたら、この会場貰ってもいいですか」
「え?俺等舐められている?お前等なんか俺達から一点も取れるわけねえだろ。でも面白い、その挑戦受けてやるよ」
こうして、この野球会場の奪い合いの戦いが始まった。葵は改めて自分のチームメンバーを見てみる。
「メンバーはまず僕こと葵、時和さん、西王姉弟ことキャプテンの雅馬さんと牙驢馬さん、蒼太さん、この五人は西王会の人達だ。さて、残りは……おっ晴さんも来ているのか……えっ……パッチン戦士と銅武さんと銀雀さんがいる……西王さんと知り合いなのかな……あの投げる技術は野球にも活かせそうだ……そして最後のメンバーは……豆さん?」
「あっ、お久しぶりです」
「どうしてここに?」
「以前、私の事をキャノン機関から守ってくれたじゃないですか。そのお礼をしたいって西王さんに言ったら、草野球に参加してくれって言われて」
「そんな事が」
こうしてチームメンバーの十人が揃った。が、幸先悪くトラブルが起きる。
「ゲホッゲホッ……悪いやっぱ俺出れそうにないわ」
蒼太が急に体調が悪くなった。当然、無理させるわけにはいかないので、ギリギリの人数である九人で試合を開始する事になった。
「プレイボール!」
まずは広島キーパーがボールを投げる番だ。葵はバットを持つ。しかし、球はあまりにも速すぎてバットを振る余裕すらなかった。そして、あっという間に三振で交代となった。
「ま……まだ試合は始まったばかりだ」
だが相手は無慈悲にも強すぎた。投げるボールを簡単に打ち次々と得点していく。パッチン戦士がかろうじて相手を三振させ、やっと得点地獄が終わる。葵は少し怯えていた。
「マジかよ……いくら強いと言ってもここまでだなんて……」
「あーあだから止めた方がいいのに、俺等広島キーパーは格が違うんだよ。降参するなら今のうちだぞ」
「降参なんて絶対にするもんか!」
だが試合がどれだけ続いても、一点も取れそうにすらならず、広島キーパーは試合終盤で三十三点も取ってしまっていた。だが、ついにあの男が。
「えっ蒼太さん。試合出るんですか?」
「ああ……奴等を好き放題させてたまるか。体調はまだ不安はあるが大丈夫だ」
「おいおい、こんなシナシナ男がチームの切り札かよ?」
「その舐めた口聞けないようにしてやるよ広島キーパー」
蒼太は凄まじい実力を出した。相手の速い球を見事に打ち抜き、一塁まで辿り着いた。やっと西王会サイドに良い兆しができたのだ。そして次のバッターは豆だった。
「ふええ……せっかく蒼太さんが良い流れを作ってくれたけど緊張しちゃうよ……」
すると、葵は叫んだ。この良い流れを止めない為に。
「豆さん!あなたはキャノン機関相手であっても勇敢に小説を出した人だ!だからきっと大丈夫だ!」
「……はい!」
豆もついに本気を出し球を打つ事ができた。そして一塁に豆、二塁に蒼太が立つ。次のバッターは牙驢馬だ。そして葵は再び叫ぶ。
「牙驢馬さん!もうあなたは立派な西王会の仲間だ!だからもう何も怖くはない!」
「……おう!」
牙驢馬も球を打った。これで西王会は満塁状態になった。そしてついに葵がバッターとして出る。仲間達の応援が葵に届く!
「いけ!」
「頑張れ!」
「気張れ!」
「やるんだ!」
「打て!」
「やってやれ!」
「やれー!」
「行くぞ!」
「打つんだ!」
「決める……決めてみせる!」
葵はまさかのホームランを打った。満塁ホームランだ。西王会に四点が入る。そしてこの試合の勝利条件である、一点以上取るというのをついに達成できたのだ。試合は三十三対四で最終的に終わったが葵達は達成感に満ちていた。そしてどこからともなくある人が現れた。
「げっ、先輩!」
「西王さんという人から事情は聞きました。二軍の奴等が迷惑かけてすいませんでした!ほらお前等も謝れ!」
「すいませんでした!」
広島キーパーの一軍選手が丁重に謝罪をした。葵達が戦っていた相手はまさかの二軍だったのだ。あの強さで。でも葵は安心した。一軍の選手はちゃんと良識がある人で。広島キーパーの印象がまた変わったのだ。
葵は今日も楽しい日を過ごした。夏休み明けでまたお仕事かと思ったがこんな風に体を動かせてスッキリできた。だが現実は残酷な事に、ここから先の葵の人生は大きな局面を迎える。




