第二十話 パッチン
「ん?」
葵はとある遊び場を目にした。パチンッと派手な音を鳴らすそれは、めんこ、広島ではパッチンと呼ばれる遊びであった。ルールはいたってシンプルで、自分の持つ硬い紙を地面に叩きつけて相手の紙を裏返すというものだ。
「おっ、そんなにジロジロ見るという事は君もパッチンに興味があるって事かな?それじゃあ今日からよろしく!俺はパッチン戦士だ!」
「えっ?はい、僕は葵です」
「さて早速お近づきの印に君にこれをあげよう。このパッチンの名前は鉄虎だ」
そのパッチンは名前の通り鉄の寅が描かれていた。これは普通にカッコいいと葵は思った。するとどこからともなく銅の亀と蛇が描かれた紙を持った人が現れた。
「おっ、新入りか。だがだからといってわしは手加減しないからな。この銅武に勝てるかな?」
「ええ、手加減無用です」
「このわしは紙の適切な手入れは勿論、投げる角度、威力、相手の紙の癖まで全てを計算できるんだ」
「凄そう……」
いわゆるデータキャラというタイプか。初戦でいきなり強そうな相手に葵は怯みかける。だが、それでも立ち向かう事にした。
まずは葵の番。思いっきり紙を叩きつけたものの、角度が悪く思ったほど威力は出なかった。そして銅武の人の番となり、まさに完璧と言って良いほどの角度で叩きつけられ、鉄虎はひっくり返されてしまった。
「ま、負けた……」
「もっと練習を積み重ねる事だな」
葵は悔しかった。いくら初心者といえどもまさにボロ負けだったからだ。だが、諦めたくはない。葵はパッチン戦士を師匠として、修行をし始めた。何度も何度も腕の角度を研究し、今まで以上に腕立て伏せをして投げる筋力を高める。
そしていよいよリベンジのときが来た。
「銅武さん。再戦お願いします」
「いやわしの名前は銅武じゃないんだがな……。まあええわ。どれだけ成果を上げたか見せてみろ」
銅武が地面に叩きつけられる。鉄虎はギリギリ耐えた。そして、葵は以前とは打ち方を変えていた。真上から叩きつけると空気を横流しする力が弱い。なので斜め上から綺麗に真っ直ぐ打つ。すると、銅武はあっさりひっくり返った。
「なっ、わしの銅武が負けた……。なぜだ……確かにわしの情報は完璧なはず……」
「一つだけ誤算があったんだと思います……。それは気持ちです。情報に囚われすぎて肝心な部分を忘れてしまっていたんです」
「なるほど……気持ちか……これは考察のしがいがありそうだ……わしはもっともっと強くなるからな」
「ほう……銅武さんを倒すとは中々やりますねぇ」
「いやだからわしの名前は銅武じゃないって」
「どなたです?」
「私はこの銀雀の使い手。忍者の技術でこれまで多くのパッチン師を葬ってきた。早速、対戦をお願いできるかな?」
「また中々濃いメンツが来ましたね……」
早速、葵と銀雀の使い手との対戦が始まった。銀雀の打たれ方は凄かった。まるで消える魔球のように不思議な軌道をし地面に叩きつけられる。鉄虎は危うく捲れかけたがギリギリ耐えた。そして葵も負けじと打ったが銀雀はびくともしない。そしてしばらく戦いは続く。
「中々しぶといですねぇ」
「あなたもですね」
葵は相手の消える魔球のような打ち方を必死に考察していた。あの打ち方はいったいどうしているんだ?するとある事が脳裏に浮かんだ。もしかして今まで自分がやっていた力いっぱいの打ち方ではできないのでは?押して駄目なら引いてみるのだ。余計な力を全て抜きあえて脱力して完璧な打ち方を目指す。すると銀雀はひっくり返った。
「なんと……私の技術の真似ができるだなんて……お見事」
「やった……勝った!」
「おおっ、この忍者さんにも勝てるだなんて凄いな、葵」
「えっ、時和さん?」
実際は数日ぶりではあるが、葵は時和に久々に会ったような感じがした。
「あなたもパッチンを?」
「そうだぜ、俺のパッチンは金龍だ。そいじゃ、早速パッチンやろうぜ」
三戦目が始まった。金龍はこれまで戦ったどのパッチンよりも少し大きく重みがありそうだった。ただしその分打つのには実力がいる。きっと時和もそれなりにパッチンの修行をしていたという事だろう。思いっ切り打たれた金龍は鉄虎をあと一歩の所でひっくり返しかけた。
「なっ、なんてパッチンだ」
「どうだ凄いだろ」
「負けませんよ」
戦いはこれまで以上に長く続いた。しかし培ってきた技術全てをぶつけても金龍はひっくり返らなかった。もはやこれまでか、そう思われたが。
「負けるな!」
「頑張れ!」
「応援しているぞ!」
パッチン戦士に銅武と銀雀の使い手が応援をした。そうだ、忘れかける所だった。技術というのも大事だが気持ちで負けてしまってはいけないのだ。葵はとうとう本気が出た。そのままの勢いで思いっ切り鉄虎を叩きつけて見事金龍をひっくり返した。
「おおっ!やったなあ!俺を破るとは」
「勝ったー!」
葵の夏休み最終日の最後は楽しい思い出で終わった。願わくば、こんな平和な日々がいつまでも続きますように。




