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広島の向日葵 〜アメリカ人の血を引く少年、戦後を生き抜く〜  作者: フクロウ


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第十九話 カンダタ

「カンダタさん。今、あなたはいったいどこにいるんですか」


 葵は何やらボヤいている女性を見つけた。その人を良く見ると目を閉じていて、杖を使って注意深く道を歩いている。どうやら目の不自由な人のようだ。


「そのカンダタって人がどうかしたんですか?」

「ん?誰です?」

「僕は葵という人です」

「私は銀子です」

「人探しをしているようなので、僕も手伝いましょうか?」

「えっ、いいんですか?ありがとうございます!」

「それじゃあまずカンダタって人について教えてもらえますか」

「はい」


 とある終戦前の時代。本当にどうしようもない悪党がいた。その男の名前は神田太郎。通称カンダタだ。カンダタは殺人、強盗、放火などをした。まだ、やってない犯罪は女性を襲う事だけという救いようのない男だった。そして道を歩いている最中に銀子という女性に出会った。とうとう女性を襲い、この世の全ての犯罪を制覇するのか。だがしかし、なんの気まぐれか、カンダタは銀子に対してふと思いついた事を言った。


「お前、目が不自由なのに懸命に生きてて偉いな」

「え?」

「よし決めた。俺はお前を守ってやるよ」


 本土空襲が始まった。カンダタは良い隠れ場所を知っていたので、そこまで銀子を案内する。


「戦争が終わるまでここにいるんだぞ」

「ありがとうございます!」

「俺はもう行くからな」

「えっ、どこへ?」

「教えない」


 カンダタは火事場泥棒をしようとしていた。戦争で人々が四方八方に疎開し逃げ回っている今こそ、泥棒をし放題なのだとカンダタはワクワクしていた。だが艦載機はそんなカンダタを容赦なく撃ち抜いた。あれだけの犯罪をやってのけたカンダタの最期はあまりにもあっけなかったのだ。悪さをしようとせず、銀子と一緒に隠れていれば助かっていたものを。カンダタの良心があともう少しありさえすれば、生きる事ができていたのだ。

 それでも、カンダタの事をよく知らない銀子にとって、彼は紛れもない恩人である事に変わりはなかったのだ。

 そして時代は、戦後へと戻る。葵はカンダタの事を調査していた。


「カンダタについて知っている事はありませんか?」

「カンダタって、口に出すのもおぞましいあの悪党かい?」

「えっ」

「奴はここらじゃ殺人、強盗、放火のクズとして有名だよ。艦載機によって亡くなったと聞いたときはスッキリしたわ」

「なんということだ」


 葵はただただ驚くしかなかった。銀子から聞いていた恩人という情報からはまるで想像もできない悪党だったのだ。こんな真実を銀子が知ってしまったらあまりにも悲しすぎる。どうすればいいんだ。葵は考え込んだ。

 そして、葵は銀子の元へと戻った。善意の嘘を吐く為に。


「カンダタさんは残念ながら亡くなってしまったそうです。最期まで勇敢に人を守ろうとしたそうで、彼は紛れもない英雄です」

「そうですか……」


 銀子は泣きだした。カンダタが悪人であったとしても、それでも銀子の命を救った人である事はきっと変わりないんだと葵は思う事にした。


「それと、街の人にカンダタさんの事を聞かない方がいいです」

「どうしてですか?」

「これ以上あなたが悲しい想いをしない為です。あなた自身が前を向いていく為にです。きっとカンダタさんもあなたの幸せを願っているはずですから」

「分かりました」


 葵には性善説という言葉が頭に浮かんだ。どんな悪党にも良心というのはきっとあるのだと。人々がその良心を無視せず大切にしてさえいれば、きっと世の中は平和になるかもしれない。だが、人の悪意はどうしても良心を上回りやすいものなのだと。世界の難しさをまた一つ知った葵であった。

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