第十七話 熱血教師
「お前はこの程度も覚えられないのか!死ねえええ!」
うるさい声と竹刀の音が聞こえる。その音の方へ向くと、そこには青空教室があった。
「ヒイイイ!ごめんなさい!」
「罰としてお前には復習十回だ!」
いわゆる、熱血教師という奴だ。葵にとっては苦手なタイプの人だった。なるべく関わりたくない、そう思っていたが。
「おいそこのお前!」
「えっ、はい」
「ガキが昼間っから勉強もせずなにフラフラとしているんだ。勉強だ!勉強するぞ!」
葵は戦争のゴタゴタの影響で学校に行けていなかった。行けばアメリカ人って除け者にされるから。だが葵は勉強は好きだった。この教師は少し苦手だが、授業には興味を持った。
「それじゃあ、早速授業を行うぞ」
早速、授業が始まる。すると、さっきまであんな嫌な態度を取っていた人と同一人物とは思えないほどに授業が分かりやすかった。葵は学校を実質中退しているので着いていけるか不安だったが、それでもこの授業は非常に吸収しやすかった。そして、授業は終わる。葵は他の生徒があの先生に関してどう思っているのかが気になった。
「えっと、今いいですか?あなたはあの先生に関してどう思いますか?」
「ああ、熱海先生ね。授業は確かに分かりやすいけどあの熱血っぷりがね……」
やっぱりそこが少し嫌というのは共通認識か。そう思っていると。
「でも熱海先生は恩人なんです。かつて学徒出陣で学生達が戦場に駆り出されそうになったとき、熱海先生は自分の生徒を山奥の家まで隠して庇ってくれたんです。そのおかげで戦争に行かずに済んで命を救われた人達がいるんです」
熱海先生はそこまでする人だったのか。生徒の為を思って動くというその気持ち自体は本物なんだなと葵は思った。熱血すぎる所はちょっと玉に瑕だけど。すると。
「お前また宿題間違いが多すぎるな!脳みそが頭に詰まってないのか!死ねえええ!」
「ふっ、ふえええ」
その生徒は泣き出して熱海の竹刀を避けると、そのまま逃げてしまった。
「ふん根性なしが」
「あの、会ったばかりで首をツッコむのもアレですけど。さすがにあなたちょっと熱血すぎませんか?」
「ああ?なんだテメエ」
「誰も彼もがあなたのやり方を受け入れられるわけじゃないんです。熱血指導が合わない人だっているんですよ」
「先生に向かって口答えする気か。お前も教育してやる!」
熱海はそのまま竹刀を振り落とす。だが葵は難なく避けて、そのまま掌底を喰らわす。だが熱海は耐えた。この男を説得するにはどうすればいいんだ。そう思っていたが。
「新入生さん……君の言葉で目が覚めたよ。確かに熱海先生には恩があるけど、だからと言って好きにさせすぎちゃいけないんだ。熱海先生!もう熱血指導はやめましょうよ!」
「俺、熱海先生の事が好きなんですよ!でも俺が勉強を上手くできなかったときは、怒るんじゃなく励まして欲しかった!きっとさっき逃げた子だって同じ気持ちのはずだ!」
「僕もそう思います」
「俺も!」
「私も!」
「お……お前ら……」
熱海先生の青空教室に来ていた人達は満場一致で反抗した。戦争から助けてくれた人ではあるが、熱海先生は指導のやり方を間違えていたのだ。
「……そうか……お前ら全員俺のやり方に不満があったのか……俺はお前らの為を思って熱を入れていたがやりすぎてしまっていたんだな……」
熱海は先ほど逃げた子を全力で追いかけた。そして、何とか追い付くと。
「待ってくれ!俺が悪かった。俺がやりすぎていたんだ……俺の事は嫌いになってもいい。だが勉強の事まで嫌いにならないでくれ……」
「熱海先生……いえ……私も逃げてしまってごめんなさい……熱海先生は私の為を思ってくれていたんですよね」
「だがやりすぎていた……これからはちゃんと心を改めるつもりだ……だからもう一度俺の生徒でいてくれないか?」
「……はい!」
熱海はカラス教のような偽善ではなく、本心から生徒の為を思って教えていたのだ。ただやりすぎてしまっただけで。
「新入生よ……さっきは竹刀で叩こうとしてすまなかった。生徒達が一致団結して反抗した瞬間俺も目が覚めたよ」
「いいんです。あなたの気持ちが本物という事はよく分かりましたから」
この時代はまだ熱血教師というものが美化されやすかった。だが、生徒の為を思ったら何をしてもいいわけではないのだ。生徒と教師は適切な距離感があってこそ初めて成り立つのだから。




