第十五話 カラス教
「翼を返してください!」
女性の叫び声が聞こえる。何があったんだろうか。
「ですから……あなたの友達は自分の意思でカラス教に入られたんです」
どうやら宗教団体とのトラブル沙汰のようだ。カラス教の教徒と思われる人は、女性を無視して建物の中へと入った。
「すいません。何があったんですか?」
「見ての通り、友達がカラス教とかいう怪しい宗教団体に入ったんです」
「カラス教……って何ですか?」
「主に身寄りのない戦災孤児を教徒として集めて支援し、地域住民へ慈善活動をしている団体なんですが……」
「それだけ聞くと、良い団体のように思えますね」
「でもその実態は教祖が虐待をしていたり、教徒が他所で稼いだお金を全部お布施として貢がされたりしているという黒い噂があるんです」
虐待……それに稼いだお金を全部お布施にされるだなんて……上納金という概念がない西王会とはまるで真逆だ……と葵は思う。どうして正しい事だけをすればいいのに、悪の道を走ってしまうのか。
「それが本当なら、見過ごすわけにはいかないですね」
「私はどうしても……友達の翼を助けたくて……」
「……なら僕が潜入して助けに行きましょうか?」
「えっ、いいんですか?」
「放ってはおけません……行ってきます」
葵はカラス教の建物の前に立つ。翼を取り戻す為に。目の前には勧誘活動をしている男がいた。
「カラス教に入信しませんかー?入信すれば素晴らしい出会いや恋が待っているかもしれませんよー」
宗教勧誘の手口としてよくあるのは、恋愛だ。そんなやり方で出会っても果たして純粋な出会いと言えるだろうか。少なくとも、葵はこういう形で出会いたくはないと思った。
「高学歴の人も入信しているので、インチキ宗教ではなく安心ですよー」
これもまた宗教あるあるだ。高学歴の人であっても騙されてしまう。勉強ができる能力と人に騙されない能力は別なのである。
「すいません。カラス教の入会希望の葵でーす」
「おおっ!入会希望ですね!葵さん。では早速中へどうぞ」
葵はカラス教の内部に潜入する。その内装はただ畳のみが広がっており、教徒達が何やら奇妙な動きをしていた。
「すいません。あの腕をペンギンみたいに上下するあの動きはなんですか?」
「あれは我等が崇めるカラス様に祈る動きです」
教徒達はあの動きをいったい何時間やっているのだろうか。腕が痛くなりそうだ。ああいう動きをやらせてカラス教に一体感になるようにしているのだろう。
「さああなたもどうぞ」
「……はい」
葵は早速その動きを真似してみる。バタバタ、バタバタ。何だか少し恥ずかしくなった。だが教徒達は堂々とやっている。
すると、目の前に教祖と思わしき人が現れた。
「こんにちは!今日も修行お疲れ様です!では早速お布施をいただきましょう。多く納めれば納めるほどカラス様からの祝福があるのです。一番布施が多い方にはあのお注射もしてあげましょう」
「あのお方は誰ですか?」
「あのお方こそ我等カラス教の教祖、烏丸様でございます」
早速、教徒達がお布施を納めに行く。勿論、他所で働いて得たお金を全額納める事になるようだ。教祖の元に大量のお金が届く。
「烏丸様。あなたのおかげで私には居場所ができました」
「いつもありがとうございます」
確かにカラス教が戦争で家族を失い孤独になった子ども達に居場所を与えているのは事実だ。だが、だからといって弱みに付け込んで搾取しまくるというのはどうなのだろうか。人助けに過度な見返りを求めるのはそれこそ本当の意味で偽善なのではないだろうか。
すると、やがて葵がお布施を納める番になった。
「あっ、しまった。お金はあの画家さんにあげたからもうないんだった」
「ちょ、ちょっとどういうことですか。お布施を納められないなら、あなたには教育が必要ですね。あなたはしばらく監禁されてもらいます」
「えっ、確かにお金がないのは申し訳ないけど、たったそれだけでそんな罰を?」
「さあ従順なる教徒達よ。この人を仕置き部屋に送ってください」
教徒が続々と葵を囲んでいく。多勢に無勢か、葵は抵抗の余地もなく、仕置き部屋に送られてしまった。
「……くそっ、油断した。もうこんなのただの悪徳宗教じゃないか。偽善ですらないただの悪だ」
「俺もここに送られてようやく目が覚めたよ」
「そうですか……あなた名前は?」
「翼だ」
「翼さん、あなたも戦災孤児として騙されてここに入ってしまったんですか?」
「そうだよ……最初はこんな俺を受け入れてくれるだなんて、なんと良い組織なんだと思った。だけど、お金をむしり取られたり、教徒の失敗に過剰な罰を与えたりして段々異常だと気付いたんだ」
「きっと……教徒達はこの宗教の全ての行為には意味があると思い込んでいるんだと思う。でも実態はただのお金目的の悪質な団体でしかないんだ」
「なあ……一緒に脱獄しようぜ」
「ええ……」
葵は南京錠をぶっ壊した。何という筋力だろうか。
「お……お前凄えな」
「やってて良かった……西王式筋肉訓練」
そのまま葵達は教祖の元へと向かう。巨悪を許さない為に。
「なっ、どうしてお前らここに」
「烏丸……あなたの悪事もここまでだ」
「……こうなったら私が直接貴様等を制裁してくれるわっ」
烏丸は殴りかかった。案の定、西王式をマスターしている葵には効かず、そのまま反撃の掌底を喰らい烏丸は倒れた。
「う……嘘だろ……あの無敵なはずの教祖様が倒された……?」
「何だよ……教祖も結局神なんかではなくただの人じゃないか……こんな弱そうな奴にあっさり負けるなんて」
あっけなく倒された教祖を前に教徒達は幻滅していた。神と信じられどんな敵も倒せると思われていた烏丸の本性を葵は暴いたのだ。
「翼を取り戻してくれてありがとうございます!」
「俺はこれから被害者の会を立てるよ……でも教徒達の新しい居場所はどうしようか……」
「それなら立ち上がろう会がおすすめです。是非尋ねてみてください」
葵はふと思う。宗教とは本来人を正しい道へと導き教えるべきものなのだと。有名な宗教はだいたい、人を殺めてはいけないなど、道徳的なことを教えとしているのだ。しかし、その在り方を守れず、人類は何度も宗教による争いが起きた。宗教の争いがない世界はいつ来るのかと憂いずにはいられなかった。




