第十四話 画家
「絵はいりませんか〜!絵はいりませんか〜!」
「ん?」
葵は立ち止まった。目の前には何とも素晴らしい絵があった。
「ここで何をしているんですか?」
「何って、見ての通り絵を売っているんじゃ。わしは鬼塚という」
その男をよく見ると両腕がなかった。戦争の影響だろうか。
「わしを一目見れば分かるじゃろう。元々は画家だったんじゃが……戦争で腕が無くなって描けなくなってしまったんじゃ」
「それは……お気の毒に」
「だからこうして過去の絵を売って何とか生計を立てている」
「腕が無くなったから絵を描けなくなった……か……なら口で筆を咥えて描いてみるというのはどうですか?」
「口……そうか!その手があったか!どうして今まで気付けなかったんじゃろうか……」
「きっと戦争の悲しみによる影響で、そこまで考える余裕がなかったんだと思います」
「良い助言をしてくれてありがとう、少年」
まさか、何気ない一つの発言で人をあっという間にここまで変えられるとは。葵は驚かされた。
「そうだ少年、わしの工房に着いて来なさい」
葵は鬼塚の工房に着いて行った。中は様々な絵の道具があり、これまでの鬼塚の人生を表していた。
「凄い……今までずっとここで作っていたんですね」
「そうじゃ」
「良い機会ですし、試しに何か描いてみてくれませんか?」
「勿論いいぞ。だが何を描こうか……そうだ……核兵器の被害に遭った広島を描こう。あの悲劇を決して忘れない為にも」
鬼塚は早速、葵の助言通りに筆を咥えて絵を描こうとする。まだ慣れていない為か、最初は少しぎこちない動きであった。だが少しずつ筆は素早く進み絵が少しずつ出来上がりかけていた。しかし。
「ゲホッ」
鬼塚は血反吐を吐いてそれが絵にかかってしまった。せっかく葵に見せようとした絵が台無しになってしまった。
「大丈夫ですか?」
「……すまない。言う勇気が出なかったが実はわしは原爆症なんじゃ」
「人にうつらない病気というのは知ってます。それで僕は差別したりなんかしません」
「そうか……だがお前の為に絵を描こうとしたのに台無しにしてすまない……」
葵はその血反吐が付いた絵を見た。広島の街のど真ん中に血が撒き散らされている。絵のプロがこれをどう思うかは分からない。だが葵にとって血反吐が付いたその絵は、まさに広島の悲劇を表した立派な作品だと感じられたのだ。
「鬼塚さんは満足しないかと思いますが……僕はこの絵はこの瞬間に完成したものだと思います。平和だった街に血の悲劇が落ちた。それが十分に表現できていると思います」
「そ……そうか?」
「この絵、この額で買い取らせてください!僕のお金でどうか少しでも原爆症の療養費にでも当ててください」
「こんなお金いいのか?」
「いいんです……僕はこれが欲しくなりました」
「……ありがとう少年」




