第十二話 立ち上がろう会
「ん?何だこれは」
葵はとある看板を見つけた。立ち上がろう会?いったい何の団体だろうか。
「すいません。立ち上がろう会って何ですか?」
「おお、我々の団体に興味がおありですか。まずは自己紹介を、私の名前は豊橋です。私達は戦争で家をなくした人達に、炊き出し及び自立支援をする非営利組織です。大企業が投資をしてくれたおかげで、今広島の至る所で活動をしているんです」
自立支援団体。しかも非営利か。何とも立派な団体だろうと葵は思った。
「実は僕も戦争で家を無くしてしまいまして。今は森の奥にある捨てられている小屋に一人で住んでいるんです」
「そうですか。ではあなたにも支援が必要ですね」
「いえっ、その支援はもっと貧しい人達に分けてやってください。僕はすでに働き口もあるので」
「そうですか。でも助けが欲しいときはいつでもお声がけくださいね」
そして、次々と家をなくした人達がやってきた。彼等は藁にもすがる思いなのだろう。
「いつもお世話になっております」
「あなた達のおかげで家族を養う為の働き口が見つかりました!ありがとうございます!」
「どういたしまして」
とある国の言葉にノブレス・オブリージュというのがある。高い地位の人間には大いなる義務が伴うと。大企業の投資によって成り立っているこれは、まさにそうだと葵は思う。
そんな中。
「どけっ、速く飯食わせろ」
「な、なんて奴だ。ご飯を貰っている立場なのに」
気性の荒い人が現れる。空腹で怒りっぽくなっているのだろうか。葵はその人の前に立つ。
「順番はちゃんと守ってください」
「なんだお前。邪魔するならぶっ殺すぞお」
「仕方ないな」
男は殴りかかった。しかし、葵は簡単に避けて男に掌底を喰らわせる。
「ぐはっ」
「あなたはただでご飯を貰っているんです。少しは自分の立場を弁えたらどうですか」
「この偽善者が……二度と来るか!」
偽善者か。人助けを冷笑するときによく使われる言葉の一つだ。だがこういう言葉を誹謗中傷目的で使う人は、決まって自分では何も生み出せないものなのだ。
「今日のような事は珍しくないんですか?豊橋さん」
「ええ……戦争でいろんなものを失って苦しんでいる人達はいっぱいいますからね……皆気が立っているんです」
「……人の為を思っても報われないことはある。そんな状況でもどうしてこの活動を続けられるんですか?」
「実は私も戦争で全てを失ってしまいましてね……でもそんな中助けてくれたのが、この立ち上がろう会だったんです。人に助けられた人は誰かを助けたくなる。そんな助け合いの連鎖に私も立ちたいと思ったんです」
「なるほど……」
すると、またしても迷惑な人達がやってきた。なんとも運のない団体だろう。
「この団体って大企業が投資しているんだって」
「やばっ、売名目的じゃん。偽善だよ」
葵はその迷惑な人達に向かって立った。このまま黙って見過ごすわけにはいかない。
「やらない善よりやる偽善でしょうが。あなた達みたいな口だけの人間が何かの役にでも立ったのか?少なくとも、明確に誰かの役に立っているこの団体と大企業の方がよっぽど価値があるだろうが」
「あ?何だお前」
「僕は西王会の人間、日向葵だ」
「やばっ!ヤクザだ逃げろ〜」
「ひえ〜」
迷惑な人達は葵がヤクザだと知った瞬間、情けなく逃げた。自分より弱そうな人達には強気に出れるが、逆だったらそうはいかない小物達でしかなかった。
「あのう、追い払ってくれてありがとうございます……。えっと葵さんってヤクザなんですか?」
「……ええ」
グ〜。葵のお腹が空気を読まず鳴る。すると豊橋は。
「お腹が空いているようですね。ご飯あげますよ」
「いいんですか?僕ヤクザですよ」
「お腹を空かせている人にご飯を与える事は、いかなる理由があろうと正義ですから。それに、あなたはこれまで何度も迷惑な人達を追い払ってくれましたし」
「ありがとうございます!」
豊橋という男は、どんな人であろうと助けを求める者なら平等に助ける。そんな人だった。




