第十一話 カツラ
今日の広島は風が強い。砂埃とともに何かが流れてくる。
「止まれ〜!」
「ん?」
葵は女性の叫び声を聞いた。すると目の前にカツラが飛んでいった。
「それ捕まえてくださ〜い!」
葵はカツラを取ろうとする。しかし、ギリギリの所で届かなかった。なんて逃げ足の速いカツラだ。すると目の前に髪の毛のない女性が現れた。
「ああ、すいません……あれ私の大切なカツラなんです。一緒に取り戻しに行ってくれませんか?あっ、私の名前は冠です」
「分かりました」
葵は全力で走った。しかし、それでも追いつかない。木々や植物の間を上手い事すり抜けて、葵はそれらの障害物に邪魔をされる。やがて、ある子どもがカツラを捕まえた。
「んー?なんだこれ?」
「ちょっとそこの君。よく捕まえてくれた。冠さんのカツラ返してくれないかな」
「嫌だね〜ここまでおいで」
少年は逃げた。その小柄な体格に合わず、意外にも逃げ足が速かった。少年は途中で板材を倒して、葵の進路を妨害する。
「猪口才な!」
やっとのことで追いついた。そして、後から冠も追いついたようだ。
「えっ、お姉さんハゲじゃん。やばっ!ケタケタケタケタ!」
生意気にも、少年は冠の頭を笑った。すると葵は容赦なく少年を一発殴る。
「痛っ、何するんだよ!」
「ガキが。人がハゲだからといって笑っていいわけがないんだよ。世の中、病気で抜けてしまう人だっているんだ。君がもし病で髪の毛が抜けて笑いものにされたらどう思う?悲しいだろ」
「ごめんなさい……」
少年はカツラを返した。冠はカツラを被る。
「取り返してくれてありがとうございます……私は実は被爆者でして、その影響でか髪の毛が抜け落ちてしまっていたんです……でもそんな中、母が髪の毛を切ってカツラを作ってくれたんです……坊主頭になってでも私を助けてくれたんです」
「そうですか……実は僕もカツラを被っているんです」
葵はカツラを外して、金髪を見せた。
「あっ、あなたアメリカ人なんですか?」
「そうです……あの原爆を落とした人と同じ人種なんですよ僕は……だからあなたが髪の毛を失った事に責任を感じずにはいられない……申し訳ない」
「そんな。謝らなくていいんです。あなたの責任じゃありません。あなたが日本人であろうと、アメリカ人であろうと、それでも今日助けてくれた事に変わりはないです。本当にありがとうございます!」
葵は嬉しい気持ちになった。自分がアメリカ人であっても受け入れてくれる人がまた一人増えた。そう、人助けに人種の壁などないのだ。




