第十話 遺体探し
西王会はしばらく夏休みだった。葵はやる事も特にないので、この広い広島を冒険してみる事にした。どんな出会いが果たしてあるだろうか。時和が言っていた、人の為に生きるという事をどれだけ実践できるか。
ある女性が何かを探し続けていた。それは女性にとって本当にこの上なく大切なものだったのだ。
「ない……どこにもない」
葵は困っている女性を見つけた。川でいったい何を探しているのだろうか。
「すいません、何を探しているんですか?」
「……引かないで下さいね……母の遺体を探しているんです」
「引くわけがないでしょう……一緒に探しましょうか?」
「えっ、いいんですか?ありがとうございます……私は金井といいます」
「葵です」
「じゃあ早速なんですけど、お願いします。母には金歯があるので見つければすぐ分かると思います」
「金歯?」
「はい、いつも母が自慢してて……大切な母のものだから金歯も一緒に埋葬したいんです……金目当ての人に見つかる前に」
葵は金井と一緒に母の遺体を捜索する。広島の川は原爆の被害を直接受けた人達が水を求めて飛び込んだ事で、少し漁るとすぐ誰かの遺体が見つかる場所となっていた。葵はふと思う。
「中々見つからないですねえ……それにしてもこの遺体一つ一つに誰かの人生があったと思うと何だか悲しい気持ちになりますね」
「そうですね」
すると、向こうから騒がしい人達が現れた。そして不気味な笑顔を浮かべながら言う。
「おお!今日も大量じゃあ!これだけあればアメリカ兵に核実験のサンプルとして、メチャクチャ高く売ってもらえるぜ!」
葵はこれには引いた。なんて奴だと。
「不謹慎な奴だなあ……でも生きる為には必死なんだろうけど」
「ムカつきますね。いくらお金が欲しいからと言ってあんな風に遺体に敬意もなく扱うだなんて」
あいつらとは価値観が違うんだ。だから真っ向から対立しても意味はないと二人は思った。やがて二人はある人形を見つける。
「あっ、これ……母が愛していた人形だ……これでいつも母は腹話術して遊んでいたんですよ」
「そうなんですか……思い出の品が一つ見つかって良かったですね」
「はい!……ん?なんかこの人形不自然に腕が曲がっているような……」
人形はまるで何かを指差すように腕が曲がっていた。そしてその先には。
「あっ!ありました!この金歯は間違いありません!」
「凄い……人形に母が憑依して指を差してここだよって教えてくれたようだ……」
だが、その感動に水を差す者がいた。残念な事に。
「おい!その金歯の遺体は俺が先に見つけたんだぞ。だから俺のものだ」
「根拠はあるのか?そもそもこの遺体は金井さんの母なんだ……どの道あなたのものではない」
「はん!こうなったら力尽くで奪わせてもらうぜ!」
不気味な笑顔を浮かべる男は葵に殴りかかった。しかし、格闘技を修めている葵にとってはこの程度は軽く受け流せた。力無き正義は非力、だからこそ鍛えたのだ。葵は男に軽く掌底をして倒した。
「ひい〜覚えていろ〜」
「葵さんとっても強いんですね!」
「いえ、それほどでもないです……ただ戦後の世を生き抜くには守る力が必要だと思って鍛えているだけで……それにしても見つかって良かったです」
「はい……ちゃんと供養してあげないと……ん?」
その遺体は何かを握っていた。取ってみるとそれは遺言状だった。内容を読んでみると、万が一突然私が亡くなったときの為にこの遺書を残しておきます。娘へ、これを見ているという事はきっと私はこの世にはいないでしょう。私の金歯を売って生活の足しにしてちょうだい。私はあなたが健康で幸せに生きてくれればそれで十分だよ。と書かれていた。
「母さん……私最初は金歯ごと埋葬しようと思っていた……だけどそれがあなたの望みなら……分かったわ……私金歯を売って健康に生きていくよ」
「ええ……それがいいでしょう」




