逃げたい。こんな化け物を捨てて!
出産から3日経過、
『ギャ゛オオオオオーーーー!!ギャオオオオオ゛オオオオオ゛オオオオオ゛オオオオオ゛ン!!!!』
『ガア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア!!!グオオオオオオオオオオオオ゛オオオオオ゛オオオオオ゛ンンン゛ン゛ン゛ン゛ン゛!!!!』
ユキ「…。」
ダブルベッドみたいに四角くなるよう変異してしまった我が子が何度も音割れの勢いで私へと叫ぶ。
こんなにボロボロになってる私の状態すら無視し、引き摺ってでも食事をもってこいと求めている怒声に…
ユキ「(もう…やだ……。身体が…思うように…動かない……。)」
私はリビングにあるソファーで仰向けになるよう倒れており、身体の痛みと寝不足も含め凄まじい疲労感に身体がより重く感じるよう、私は寝室から聞こえる我が子の怒声を極力聴かないように目を瞑り両手で耳を塞ぐ。
ユキ「(ごめん。少し、休ませ…て。)」
ユキ「(こんな身体じゃ…とてもじゃないけど…。………。)」
『グア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ーーーーー!!!!アアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!!』
『ガガアアアアアアアアアアアアアアアア!!!!ゴオオオオオ゛オ゛オ゛オ゛オ゛オ゛オ゛オ゛オ゛オ゛!!!!』
私はひたすら自分の身体の為に休み、絶えなくあげる我が子の怒声をとにかく耳にしないようひたすら無視を何時間も掛けて貫いた。
その間に無理矢理目を瞑る私の下へ囁く…
ゲン「何無視してんだ?さっさとバケモンの餌やりに行けよ。詐欺ババア。」
ゲン「そんな身勝手な事やってると、ガチで子供に嫌われるぞおおお?えーー??」
ユキ「!!」
またしてもゲンの声が聞こえて、私は何度も顔を横に振って目を瞑ったまま居ないはずの彼へと応えた。
ユキ「五月蝿い!私から黙って消えた裏切り者め!!」
ユキ「私が愛していた本物のゲンは絶対にこんな事言わない!!さっさと私の前から消えて!ゲンの偽物!」
私はそう言い聞かせて彼…幻の存在へと応えた。
が、次のゲンの偽物の台詞で、
ゲン「俺が偽物だって?はははははは!!ほんと外の世界を全く知らない世間知らずのお前が、俺の何処まで知ってるわけ?分かるわけねーよな?付き合って経った3年程度じゃ俺の全貌を知る事なんて出来るわけがない。」
ゲン「そんな事よりもさぁ。さっさと起きて喧しいガキの世話しろよ。詐欺ババア。これで18歳にしちゃマジで詐欺で事故物件だ。お陰で俺の戸籍に傷付いちまったぜ。」
ゲン「…やっぱお前、子育て向いてなくね?それが今のお前の姿の証明だよ。」
ユキ「ーーー黙れ!!」
ゲンの偽物が軽く強く目を瞑っている私へと軽く指先を指したと同時に目大きく開き、動けなかった身体が突発的に跳ね上がるよう起き上がった。
当然近くで囁いていたゲンの声・姿は無い為、私は何度も乱れた息と呼吸をしつつソファーから立ち上がった。
私は、
ユキ「……一旦お風呂に入って来よう。」
ユキ「………獣臭い。」
つい私の腕や着ている衣服へと鼻を嗅いで、先程までの汗の臭いと獣臭くなっている身に不快を覚えながら浴場へと歩んだ。
寝室から何度も轟く我が子の怒声を無視しつつ、
『ギャア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛!!!!ギィ゛ヤ゛ア゛ア゛ア゛アアアアアーーーーーー!!!!』
『ギャオ゛オ゛オ゛オ゛オ゛オオオオオオ゛オ゛オ゛ーーーーー!!!!』
ユキ「…。」
私はまだ痛む身体を壁につけて同じように壁伝いで進み、やっとの思いで浴場前の洗面所へと踏み入れる。
ユキ「(まだ洗面台の蛇口から赤い水出てる…。あれはもうダメね。)」
ユキ「(多分キッチンのシンクも…もし出たら絶対に飲みたく無い…。)」
私は横目でまだ出続けている洗面台の蛇口から血飛沫みたいに出ている赤い水を一瞬見た後前を向いて、浴場内に繋がる扉を開けた。
その直後、
ユキ「え…う、嘘!?」
私が開けた浴場内がとんでもない光景になっていた。
それはまさしくあの時バス乗り場まで必死に避難してきたアレと同じように、
ユキ「街を壊滅させたアレがここまで来たって事!?そんな!?」
浴場内が水疱みたいな連続で膨らむ肉で蔓みたいに複数枝分かれするよう覆われており、浴槽も不気味に蠢く肉の塊へと変異し、一部の触手が左右へ揺れるよう蠢いている変わり果てた姿を目にしてしまった。
私は震える手でなんとか浴場の扉を静かに閉めて、私は呆然と変化と侵食されてしまった現状に思わず立ち尽くす。
ユキ「…。」
すると呆然と立っていた私の背後から声を掛けてきた、
ゲン「あーーあ。もう此処に来たんだ。あのクソッタレな肉共が。」
ゲン「もうあのバケモンガキを捨てて逃げろよ。楽になるぜぇ〜?クククク!!」
ユキ「!」
またしてもゲンの偽物が私へと挑発する勢いで声を掛けてきて、私は数秒間止まっていた身体を急いで動かすよう浴場内から聞こえる何かを砕くバキバキ音を聞きながら、痛む身体すらお構いなしにリビングへと走り離れた。
私は衝動的になるよう急ぎ荷物をまとめるべく数日前に手に入れたリュックを掴み、片っ端から携帯食品や水入りのボトル・水筒、数枚のタオルを詰める。
ユキ「(離れなきゃ。離れなきゃ。離れなきゃ!!)」
ユキ「(この家がヤバい肉に侵食される前にー)」
と、私はふと寝室に繋がる廊下へと振り向いて、
ユキ「………。」
私は静かに荷造りの手を止めて寝室へと向かい、寝室へと近付く度に聞こえる咀嚼音へと無表情で扉へと見つめた。
そして私は扉のドアノブへと手を伸ばし、
ユキ「……。」
私は静かに音を立てないよう扉を少し開けて、様子を見るべく私は開けたドアの隙間から寝室の様子を見た。
そこでは、
『ガフ!ガフ!ゴフ!!』
『フシュ!シューーーー!!シュウウウウウウ!!』
ユキ「………。」
すでに寝室内の置物全てを食い尽くし、隣のどうやってこじ開けたのかわからない壁の穴から別の肉を一心不乱にたくさん伸び出た触手といっぱい浮かび現れた口を使って食べており、よく見たら先程見た侵食された浴場の一部の肉が見え、私は侵食された肉でさえ貪り食べている更に大きくなった我が子の様子を見た。
その数時間後、
ユキ「はい。どうぞ。ごはんよ。」
『グルウウウ!!』
ユキ「ゆっくりお食べ…。…。」
私はキッチンから持ってきた人の頭部と骨が入ったポリバケツ一つまるごとを寝室前に置き、食事を待っていた我が子はたくさん出た目を輝かせるみたいに震えつつ、ポリバケツの蓋を開けた途端たくさん伸ばした触手という腕を使って食事を食べ始めた。
バキバキと骨を砕き、ぐちゃぐちゃと肉を裂き、何がなんでも食べる我が子の様子を遠い目で眺めていた私は…
ユキ「(やっぱり…無理。できない。どうしても。)」
ユキ「(この子を命懸けで産んだから…どの姿になっても絶対に育てるって。)」
ユキ「(…私、母親だもん。責任を、果たさなくちゃ…。)」
産んだ影響なのか母性本能が今出ていて、母親としての責任をしっかり果たさなきゃいけない謎の使命感に囚われるよう、私はただ物凄い勢いで無くなるポリバケツの人体の一部と溜まっていた血が舐めとられていく光景を静かに眺めるだけだった。
続く。




