第8話:八つ当たりの銃撃と、プロテインの絶望
「ひぃぃぃっ! ま、待て! 待ってくれぇぇッ!」
『オールド・ギア・タウン』の薄暗い路地裏に
チンピラたちの悲鳴が木霊した。
ズドンッ!!
アルフレッドの魔改造リボルバーから放たれた威嚇射撃が
チンピラの耳の数ミリ横を通り抜け
背後のレンガ壁を丸く蒸発させる。
熱波と衝撃でチンピラの髪がチリチリに焦げた。
「……ステップが甘い。食後の運動にもならねえ」
アルフレッドは赤く焼けた銃口をチンピラの鼻先に突きつけ
地を這うような声で凄んだ。その目は完全に据わっている。
『蒸し鶏』と『葉っぱ』しか食べていない男の
純粋な飢えと怒りがそこにはあった。
「あわわわわ……!」
チンピラたちは完全に戦意を喪失し
地面に這いつくばってガタガタと震えている。
自慢の機械義手も違法スタンバトンも
この怪物相手にはおもちゃ以下のガラクタだった。
……背後で見守っていたブラッドが、興奮気味にカルメンに囁く。
「見ろよカルメン、親父さんのあの容赦ない尋問!
わざと急所を外して極限の恐怖を与え敵の情報を引き出そうとしてるんだ!」
「ええ。街のど真ん中でこんな派手にやるなんてリスクが高いけど
それだけ急ぎで手に入れたい情報があるってことね……!
さすが『歩く厄災』……冷酷だわ」
二人の監視役が盛大な『勘違い』をして感心している中
アルフレッドはチンピラの胸倉を掴み上げ、ギリッと顔を近づけた。
「……吐け」
「ひぃっ! は、吐きます! な、何でも喋るから命だけは……!」
チンピラが涙と鼻水で顔をグシャグシャにしながら叫ぶ。
「我々のアジトは、この街の地下にある廃工場で……!」
「そんなことはどうでもいい」
「えっ」
チンピラが間の抜けた声を出す。
アルフレッドはさらに顔を近づけ、低い声でドスを効かせた。
「この近くで……一番脂の乗った『肉』を出し
強い『酒』を飲ませる店を教えろ……今すぐにだ。
嘘をついたら、その機械の腕をもいで奥歯に詰めるぞ」
「……は?」
チンピラは混乱した。伝説の殺し屋が
自分たちを殺しかけてまで聞き出したい情報が
『美味い焼肉屋の場所』……脳が処理しきれなかったのだ。
その後ろでは、ブラッドがポンッと手を打っていた。
「おぉ……やっぱりすげえぜ! 親父さん!
『肉』と『酒』……あれは暗号だな!
『肉』はボスの首……『酒』は組織の資金源のことだ!
一般の客や俺たちに聞かれても怪しまれないように
高度な隠語を使って尋問してるんだぜ!」
「なるほど、そういうことね! プロの仕事ってやつだわ」
カルメンも深く頷いている。
彼らのわざとらしい会話はアルフレッドの耳には入っていない。
彼はただ、本気で美味い肉の場所を知りたかっただけである。
「は、吐け! 早く肉の場所を……!」
「ひぃぃぃっ! ……わ、わかりました!
この通りを抜けた先にある『鉄屑亭』です!
あそこのTボーンステーキがこの街で一番『脂ギッシュ』で……」
「よし」
アルフレッドはチンピラを乱暴に放り捨てた。
満足げにリボルバーをホルスターに収める。
「用は済んだ。消えろ」
「ひ、ひぃぃぃ……!」
チンピラたちは這うようにして路地裏から逃げ去っていった。
「ふぅ……」
アルフレッドは軽く首を鳴らした。
少し運動したことで、胃の中の蒸し鶏が消化され
完璧な空腹状態が仕上がった。
「……聞いたか、お前ら。
この先に『鉄屑亭』という
情報源があるそうだ……行くぞ」
足取りも軽く歩き出そうとしたアルフレッドの前に
カルメンがスッと立ち塞がった。
「お疲れ様、アル! 見事な尋問だったわ!」
「ああ。少し汗をかいた……さあ、肉の時間だ」
「いいえ? ……ダメよっ♪」
カルメンは満面の笑みで
アルフレッドの前にドンッと巨大なボトルを置いた。
「運動の直後は、急に重いものを食べちゃダメ。まずはこれよ!」
ボトルのラベルには――
『100%植物由来! 大豆プロテイン(無糖・ノンフレーバー)』
――と書かれている。
「は……?」
アルフレッドの顔が引きつる。
「筋肉の修復にはタンパク質が不可欠よ!
しかもこれ、無糖だからカロリーも抑えられて最高なの!
さあ、水で溶かしてあげるから……グイッといっちゃって♪」
ブラッドもシェイカーを振りながら
「親父さん、作戦前の体づくりは徹底してますねぇ!」と目を輝かせている。
「……」
アルフレッドは、泥水のように濁った大豆プロテインの液面を見つめた。
(くっ……俺は、一体何のためにあいつらを脅したんだ。
肉は……俺のTボーンステーキは……っ……)
彼が絶望と共にプロテインを飲み干そうとした
その時だった――
ブァァァァァッッッ!!
『オールド・ギア・タウン』の喧騒を切り裂く
けたたましい重機関銃の掃射音……それは街の外縁部から
アルフレッドたちのいる路地裏に向かって急速に近づいてくる。
「な、なんだぁっ!?」
ブラッドが即座に銃を構える。
「此奴は……マシンガン。
しかも、ただの連射じゃない。魔力を帯びた……『徹甲弾』だ」
アルフレッドはプロテインの入ったシェイカーを地面に置き
再びリボルバーを抜いた。
その目は、先ほどまでの『腹ペコのオッサン』から
『歩く厄災』のそれへと瞬時に切り替わった。
「ヒャーッハッハッハ! 見つけたぜぇ、アルフレッドォォォ!!」
建物の屋根を蹴り砕き、路地に降り立ったのは
全身を重火器と弾帯でサイボーグのように改造した男だった。
その両腕には、巨大なガトリングガンが接続されている。
「貴様は……」
アルフレッドが目を細める。
「はッ! 忘れたとは言わせねえぜ!?」
「いや……知らん」
「テメェッ!? ……10年前、テメェに組織を潰された
『マッド・ドッグス』の生き残り……ガトリングのザック様だ!!
今日こそ、テメェの脳天に風穴を開けてやる!!」
過去の亡霊の出現、しかし
アルフレッドの頭の中を占めていたのは、全く別の感情だった。
(こいつの武器……成程、使える。
リボルバーを『ショットガン化』位は出来るかも知れん。
そうすれば……もっと楽が出来る)
健康のため、そして何より――
『運動量を減らすため』
――彼の魂は、静かに燃え上がろうとしていた。




