第9話:復讐のガトリングと、粉砕されたプロテイン
「ギャ~ハハハハハッ!!!
どうしたアルフレッドォ! 10年前の威勢はどうしたぁ!」
『オールド・ギア・タウン』の路地裏に
耳を劈くような銃撃音が響き渡る。
『ガトリングのザック』の両腕に接続された重機関銃は
高速回転し、魔力を帯びた徹甲弾の雨を降り注がせ――
ブァァァァァッッッ!!
――削り取られ、爆ぜる石畳。
アルフレッドは舌打ちをしながら、辛うじて弾幕を躱し
廃棄された巨大な歯車の陰へと滑り込んだ。
(……クソッ。無駄に連射しやがって。
あんなに動き回られたら、こっちも走らなきゃならねえじゃねぇか。
くっ……心拍数が上がりすぎだ)
息を乱しながら、アルフレッドは額の汗を拭った。
10年前の復讐に燃えるザックの執念など、彼の記憶の片隅にもない。
今、アルフレッドの頭にあるのは――
『あの両腕の回転機構と冷却シリンダーを奪えば
自らのリボルバーを散弾仕様にできる』
――という一点のみだった。
散弾になれば、大雑把に撃つだけで敵を一掃できる。
つまり、狙いをつけるための移動や回避という
『無駄な有酸素運動』を極限まで減らすことができるのだ。
初老の膝と腰を守るため、パーツをどうしても手に入れたかった。
「出てこいよ厄災! ……テメェに地獄を見せられたあの日から
俺はドブ水を啜り、残飯を漁ってこの機械の体を手に入れたんだ!
全ては今日という日のためだぁぁぁッ!!」
……ザックが血走った目で叫びながら、さらに銃弾をバラ撒く。
(……残飯か。
塩気と脂があるだけ、今の俺のメシよりマシじゃねえか。
こっちはドブ水みたいな味のプロテインを飲まされそうになってるんだぞ)
アルフレッドが理不尽な怒りを覚えた、その時だった――
ガガガガガンッ!!
――流れ弾がアルフレッドの直ぐ近くを薙ぎ払った。
そして、無情にも。
パァァァンッ!!
……地面に置かれていたシェイカーは徹甲弾の直撃を受け
波々と注がれていた『大豆プロテイン(無糖・ノンフレーバー)』が
盛大な飛沫を上げて木端微塵に吹き飛んだのだ。
「ああっ!? アルのための特製プロテインが!!」
物陰から援護のタイミングを窺っていたカルメンが悲痛な叫び声を上げた。
「な、なんてことをしやがる……!?
これから大作戦に挑む親父さんにとって
筋肉と精神を研ぎ澄ますための大事な
『神聖儀式』だったんだぞ!?」
ブラッドは激怒し、愛用の重機関銃を構えた……だが
プロテインが粉砕されたのを見たアルフレッドの心境は――
(嗚呼……助かった)
――これに尽きた。
曰く『ドブ水』のような液体を胃に流し込む苦行から解放された安堵感。
アルフレッドはホッと息を吐き、緊張が解けたことで
その顔から一切の表情がスッと抜け落ちていた。
だが。その『無表情』……周囲には、全く別のものとして映っていた。
「……ひっ」
ザックの動きが、ピタリと止まった。
一方、歯車の破片を押し退けながらゆっくりと立ち上がったアルフレッド
その顔には怒りも焦りも、一切の感情が浮かんでいない。
ただの虚無のような、底知れぬ静けさだけがあった。
(な、なんだあの目は……まさか、俺は
取り返しのつかない虎の尾を踏んじまったのか……!?)
……後退り、冷や汗を流すザック
「お、親父さん……マジでキレてるぜ」
「ザックとか言ったかしら……あのサイボーグ、一瞬でスクラップね」
ブラッドとカルメンが息を呑む。
当のアルフレッドは『プロテインを飲まなくて済んだ』
という平穏な心を取り戻し、純粋に
『早くパーツを回収して肉を食いに行こう』などと考えていた。
だが
「折角アルのために買ったシェイカーなのに……」
この瞬間、そう小さく呟いたカルメンの手前……
「よ……よくも、俺のプロテインを」
『怒っているフリ』をしなければ成らない事態となっていた。
ともあれ……直後、当然と言うべきか
「ヒィッ! く、来るな! 近寄るんじゃねえぇぇッ!!」
と、恐怖に駆られたザックは
両腕のガトリングガンを無茶苦茶に乱射する……しかし
恐怖で軸のブレた射撃など、伝説の殺し屋に当たるはずもなく……
「大振りがすぎる……」
アルフレッドは分厚い革コートを翻し
弾幕の隙間を縫うように、最短距離でザックへと肉薄していく。
手には、愛用の魔改造リボルバー……だが、銃口は向けず。
「なっ、なぜ撃って来ねえ!? ……なぜだぁぁッ!」
(当然だ……撃ってパーツが壊れたら
散弾仕様に改造できなくなるからだよ……)
アルフレッドは無言のまま、ザックの懐へと滑り込んだ。
そして、リボルバーの鈍く光る『銃把』を逆手に握り直す。
ドンッ!!
アルフレッドの巨体から放たれた強烈な打撃が
ザックの腹部装甲を深く陥没させた。
「ガハッ……!?」
白目を剥いて前のめりに崩れ落ちるザック。
その両腕のガトリングガンに
アルフレッドの太い腕が容赦なくかけられる。
「パーツ……いただくぞ」
路地裏に響き渡った金属が無理やり引き千切られる音。
アルフレッドの『膝に優しいショットガン化計画』は
今まさに実行されようとしていた……




