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第26話:処刑人の『超振動音響砲(ソニック・バスター)』と、限界を迎える魔改造リボルバー

ひしゃげたチタン合金の最後の隔壁を

まるで紙屑でも扱うかのように蹴り飛ばし

アルフレッドはついにドーム状の巨大な空間へと足を踏み入れた。


……そこは『黒之歯車(ブラック・ギア)』が占拠する

『地下要塞』の最深部。見上げるほど巨大なドームの天井には

無数のパイプとケーブルが這い回り、その中央には

青白い光を放ちながら、まるで巨大な生物の心臓のように

不気味な脈動を繰り返す巨大な『魔力炉心』が鎮座している。


空間全体にオゾンと焦げたオイルの臭いが立ち込め

肌を刺すような高密度の魔力が満ちていた。


……そして、その暴走寸前の炉心の前には

漆黒の礼装に身を包んだ男――組織の最高幹部にして最強の刺客

『処刑人:モルデカイ』が、静かな殺気を漂わせて待ち構えていた。


「ようこそ、臆病者……ここが貴様の終着点だ」


モルデカイが低く冷たい声で言い放つ。

彼の手には、異様に長く太い銃身を持つ禍々しいデザインの凶悪な兵器

『超振動音響砲(ソニック・バスター)』が握られていた。

彼曰く、一撃で広範囲の物質を分子レベルで崩壊させる

『組織の狂気と莫大な資金が生み出した最高傑作』との事だ。


「何でも良いが……炉心の暴走を直ちに止めろ、モルデカイ。

それ以上無駄に出力を上げると、地上のガスと水道が止まる」


アルフレッドの声は地を這うように低く、ドスが効いていたが

その内心はこれまでのどんな修羅場よりも本気で焦り狂っていた。


(冗談じゃない。今この瞬間も、娘は

俺の帰りを待ちながら、ガスコンロで

『特製シチュー』をコトコトと煮込んでいるんだ。

ここでガスの供給が絶たれて火が止まれば

肉が硬くなり、俺の至福のディナータイムが台無しになる!)


しかし、そんな個人的過ぎる理由を知る由もないモルデカイは

アルフレッドの言葉を極めて歪んだ形で解釈し、鼻で笑った。


「クックック……ガスと水道? 伝説の殺し屋ともあろう者が

随分と所帯染みた、生活感に溢れるセリフを吐くようになった物だな?

なるほど、街のインフラ(生命線)を掌握し

我が物顔で君臨する新帝国の王を気取っているつもりか。

だが……もう遅い」


モルデカイの目が、狂気の色に染まる。


「この炉心はすでに臨界点に向かって逆流を開始している。

あと10分もすれば、魔力の暴走が地殻を貫き

貴様が守ろうとした地上の『聖都(セントラル・ガーデン)』ごと

全ては大規模な地盤沈下で崩落し、完全に塵となるのだ!」


(じ……10分!? 冗談じゃねえッ!!!)


アルフレッドの極限まで絞り込まれ

バキバキに割れたシックスパックの腹筋に

かつてないほど冷たい汗がツーッと伝い落ちた。


(シチューの火が止まるどころの話じゃねえ!

俺の血と汗と涙の結晶であり、地獄の審査を潜り抜けて手に入れた

『35年ローン(変動金利)』のマイホームが

文字通り物理的に地下へ沈むじゃねえかッ!!

もしそんな事になったら……ローンだけが残った瓦礫の上で

娘からどんな恐ろしい罵声を浴びせられるか

考えるだけでも……うっ、胃液が逆流しそうだ)


「させん……絶対にだ……!」


マイホーム喪失の恐怖に戦慄しながら

アルフレッドは愛用の魔改造リボルバーを構えた。


モルデカイを一撃で仕留め

すぐに炉心の制御パネルを物理的に叩き壊して遮断しなければならない。


「やれるものならやってみろ! 過去の亡霊がァッ!」

モルデカイが『超振動音響砲(ソニック・バスター)』の引き金を絞る。


ギュィィィィンッ!!


空間の空気を激しく歪ませながら

不可視の凶悪な音響波がアルフレッドへと襲いかかる。

まともに喰らえば、苦しい食事制限と有酸素運動の末に

仕上がってしまった鋼の筋肉ごと

細胞レベルでドロドロに分解されてしまう恐ろしい代物だ。


だが――


「させんと言った筈だ……」


――アルフレッドは一歩も引かず

リボルバーのシリンダーを逆回転させ

極限まで性能を高めた『干渉波』を真正面から放ち

『音響波』を相殺しようと試みた。


「『Tap, Rack(タップ・ラック)――」


カチンッと撃鉄を起こし、必殺の引き金を引く……しかし。


カチンッ……!

ギギ……ギガガガッ、ピシィッ!!


「……っ!?」

アルフレッドの手元で、致命的な金属の悲鳴が鳴り響いた。


無理もない。過酷な荒野の旅路の果て

数日間に渡り、なんのメンテナンスも

唯の一滴のガンオイルの塗布すらも行われず

ただただ『歩きたくない』『楽をして敵を倒したい』という

堕落した理由だけで無茶な戦いを繰り返してきたのだ。


唯でさえ長年酷使され続けた彼の愛銃は

『スナイパーの増幅器』『ガトリングの拡散器』『双剣の収束器』という

全く規格の違うパーツを強引に接続され

規格外の魔力を流し込まれ続けた結果

内部の歯車とシリンダーが尋常ではない程の高熱で完全に癒着し

ついには限界を迎えて『沈黙(ジャム)』ってしまったのだ。


「――っ! チィッ!」


干渉波は疎か、一発の弾丸さえ出せない。

アルフレッドは咄嗟に横へと大きく跳躍し

迫り来る音響波の直撃を間一髪で避けた。


直後――


ドゴォォォォンッ!


――彼の背後にあった数十センチの厚みを持つ分厚い鋼鉄の壁は

『音響波』の直撃を受け、一瞬にして音もなく砂のように崩れ去った。


「フハハハハハッ! ……どうしたアルフレッドォッ!

貴様のその醜悪な寄せ集めの銃も、貴様の哀れな理想も

ついに限界を迎えたかッ!?」


「……クソッ」

着地した瞬間、初老の膝の軟骨にピキリと走った激痛。

苦痛に顔を歪ませながら、アルフレッドは

完全に沈黙した自らの愛銃を見つめた。


……銃身からは黒い焦げた煙が上がり

複雑な歯車機構は完全に焼き付いてロックしてしまっている。


「お、親父さんの銃が……あんな肝心な所で給弾不良(ジャム)った!?」

後方の通路の影から覗いていたブラッドが、頭を抱えて絶望の声を上げる。


「ええ……そうよね、あんなデタラメな規格外の魔改造で

数多の激戦をぶっつけ本番で潜り抜けてきたんだもの。

アルの尋常じゃない強さと魔力に

今までよく爆発せずに堪えてきた……そっちの方が不思議な位よ。

見て……あの動かなくなった銃は、彼と同じ。


……彼がこの10年、誰にも言えずに背負い続けて来た

『限界を超えた苦しみ』その物なのよ……ッ!

あぁ、銃が泣いているわ……!」


『手入れをサボって無茶使いした』というだけの自業自得な物理的故障を

カルメンがまたしても『悲壮なドラマと自己犠牲の暗喩』へと

見事に脳内変換して青ざめて居た。


「……終わりだアルフレッドッ!

貴様の築き上げた偽りの平和も、その無様な命も

私が全て塵に還してやる!!」


モルデカイが凶悪な笑みを浮かべ

再び音響砲のエネルギーを最大出力へと充填し始める。


(……マズい。このままじゃ、本当に家が……

俺の愛娘と孫の住む家が沈む……!)


『ササミしか食べていない極限の飢餓状態』と

刻一刻と迫る『35年ローンの崩壊』

『初老の悲鳴を上げる膝の痛み』……そして『完全に沈黙した愛銃』

伝説の殺し屋は、かつてない絶体絶命の危機の中で

迫り来る理不尽な現実に対し、最後の選択を迫られていた――

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