第23話:絶叫禁止の爆破阻止と、不動産価値の死守
『セントラル・ガーデン』の中央広場。
そこには、街の景観を著しく損ねる
『黒之歯車』の『移動要塞』が居座っていた。
近くにはアルフレッドが目指す『白い屋根の家』
(……間違いない。あの換気扇から漂うのは
間違いなく娘のシチューだ……!)
空腹が限界を超えたアルフレッドの脳裏に
バターと牛肉、そしてゴロゴロと大きなジャガイモの幻影が浮かぶ。
しかし、その甘美な夢を打ち砕くように
要塞の屋上で一人の男が凶悪な装置を掲げた。
「追い詰めたぞアルフレッド、貴様の『新帝国』の夢
この街ごと粉塵にしてやろう……」
現れたのは、組織最凶の掃除屋『抹殺者:ダスティン』
彼の手にあるのは、街の地下に張り巡らされた
魔力ラインを一斉に暴走させる『連鎖爆破スイッチ』だった。
「このスイッチを押せば、この美しい街は一瞬で廃墟だ
見た目には判らんが……街が終わると言う事だ」
「……待て」
アルフレッドの声が、冷たく、そして切実に響いた。
その目には、これまでのどの戦いよりも深い『絶望と恐怖』が宿っていた。
(街を廃墟にするだと? ……冗談じゃねえ。
あの家のローン、あと20年は残ってるって娘が言ってた。
もしここが廃墟になったら、俺は一生、瓦礫の山で
娘の愚痴を聞きながら野宿することになる……それだけは
絶対に阻止せねば……)
アルフレッドの脳内で、娘の怒りの咆哮(および同居の完全消滅)という
最悪の爆発がシミュレートされた。
「親父さん、まずいぜ……相手は本気だ……このままじゃ街が……街が……」
植え込みに隠れたブラッドが、震えながら呟く。
「ええ、でもアルは動かない……きっと彼は
街の構造を瞬時に分析して、連鎖崩壊止める唯一の『点』を探しているのよ!
なんて恐ろしい冷静さなの……!」
カルメンは、死を覚悟した崇高な顔で見守っていた。
(違う。ただ単に『家が壊れたら俺の人生が終わる』という事実に
足が震えてるだけだ……と言うか黙っていろ)
「死ね、厄災――」
そんな中『ダスティン』がスイッチを押し込もうとした
瞬間――
「――させるか。
俺の……俺の『安息所』を、壊させはせん」
アルフレッドは、魔改造リボルバーを電光石火の速さで構えた。
だが、今回は『狙撃』でも『散弾』でもなく
全てのパーツの同調率を一段階ずらし、光線を
『物理的な質量を持つ針』としてのみ機能させる極限の精密モードに設定していた。
だが、それでも尚――
「『Tap, Rack……」――
――トリガーを引く直前
僅かに思い直し、さらに引き絞る力を『弱く』したアルフレッド。
(待てよ? ……ここで大きな爆音を出せば
家で寝ている孫が起きて泣き出すだろう。
そして、娘に『うるさいわね!』と怒られる……それは、不味い)
――「……Bang』(バン)」
ポシュッ。
放たれたのは、針の穴を通すような超極細の徹甲弾。
それは大気を切り裂き、ダスティンの手元にあるスイッチの『基板』だけを
スイッチが押し込まれるコンマ一秒前に正確に撃ち抜いた。
「――あれ?」
ダスティンがボタンを押し込む。だが、何も起きない。
「な、なんだ? 一体何が……何!?
き、起爆信号が……遮断されている!?
貴様……今の一発で、電子回路のコアだけを狙い撃ったというのか!?
いや、だがその程度ならば……まだ、予備の手段が! ……」
「騒がしい、黙れ……二発目だ」
アルフレッドは休む間もなく、要塞の足元
地下へと続く魔力パイプの結合部へ向けて、次弾を放った。
ポシュッ、ポシュッ、ポシュッ!
流れるような三連射。それは、連鎖崩壊を誘発しようとしていた魔力の流れを
まるで『栓を閉じる』ように装甲を歪ませて遮断した。
「バ、バカな……! 崩壊シーケンスが完全に上書きされただと!?
奴は……奴はただの殺し屋じゃない。
街の設計図を全て暗記しているエンジニアか何かなのか……!?」
ダスティンは、絶望的な技術差にガタガタと震え出した。
(違う。実際は、娘から――
『地震の時に避難する場所だから覚えときなさい』
――と、何度も何度も地図を見せられていた場所だっただけだ)
「よし……これで、固定資産税分は守った」
アルフレッドは額の脂汗を拭い、一気に距離を詰めた。
そして、もはや銃など使わない……彼は
『爆音を立てるわけにはいかない』のだ。
「く、来るなッ! ……近寄るなァ!」
ダスティンがナイフを振り回すが、アルフレッドはそれを柳のように躱すと
その巨体からは想像もつかない軽やかな動きで
ダスティンの首筋に手刀を叩き込んだ。
「騒ぐな馬鹿が……眠ってろ」
ドサリ、とダスティンが崩れ落ちる。
この瞬間、街の平和は守られたかに見えた……だが
完全に意識を手放す直前、ダスティンは血走った目で嗤った。
「カハッ……馬鹿め……地表の起爆は止めても
地下の『魔力炉心』の暴走は止まらん……あと数時間もすれば
この街の『ガス』や『水道』を始めとするインフラは完全に停止し
最終的には地盤沈下で……街ごと、沈む……」
「なん……だと?」
アルフレッドの顔から、スッと血の気が引いた。
(ガスと水道が止まる……? つまり、娘のシチューが煮込めないということ。
いいや、それどころじゃない……地盤沈下なんてしてしまったら
家のローンが文字通り、水泡に帰すじゃないか!!)
絶望を顕にしたアルフレッド……直後
街中のスピーカーから、地を這うような低い声が響き渡った。
「――10年だ、アルフレッド」
「この声は……モルデカイか」
「私は『地下要塞』の最深部で待って居る……10年間
私から逃げたツケを払わせ……貴様を終わらせるためにな」
「……上等だ。
俺の『計画(シチューを食べること、そして娘と孫との同居)』を邪魔する奴は
誰であろうと……消す」
アルフレッドは、娘の白い家を背にすると
娘から教わった『避難経路』を頼りに
怒りに震える足で地下要塞の入り口を探し始めた――




