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第20話:無塩の誓いと、窓ガラス防衛戦

「ングッ、グゥゥゥ……ッ!!」


『ネオン・ダスト』の出口……寂れた荒野の入り口で

伝説の殺し屋、歩く厄災『アルフレッド』は空を仰ぎ呻き声を上げていた。


「よしよし、偉いわよアル! 茹で卵の黄身も残さず食べたし

特製青汁も一気飲みできたわね!」

カルメンが満足げに空のグラスを受け取る。


……アルフレッドの口の中は

すり潰したバッタと泥水を混ぜたような青臭さで満たされていた。


(こ……こんなものが

俺のソロ・ミッション前の最後の晩餐(ランチ)だと?

ふざけるな……こんなもので死地に向かえるか……!)


涙目で抗議しようとしたが、青汁の強烈な後味のせいで声が出ない。

アルフレッドはギリッと奥歯を噛み締め、無言のまま革コートの裾を翻した。


「親父さん! 俺たちはここで待ってるぜ! 生きて帰ってきてくれよな!」

ブラッドが大仰に手を振る。


そんな彼に対しアルフレッドは振り返らず、ただ右手を軽く上げて応えた。

(訳:ついて来んなよ?

お前らが暴れて娘の家のローンに傷がついたら

俺の同居計画が破綻するんだからな? )


その背中を見送りながら、カルメンとブラッドは密かに頷き合った。

「……で、どうするよ? カルメン。親父さんの言う通り、ここで待つか?」

「バカ言わないで。あんなに不器用で

たった一人で世界を背負おうとしてる格好いい男を

このまま放っておけるわけないじゃない。


……適度な距離を空けて、こっそり援護するわよ」

「へっ、了解だぜ!」


娘からの『監視任務』という本来の目的はどこへやら

二人はすっかりアルフレッドの『崇高な自己犠牲』に惚れ込み

勝手な相棒(パートナー)面で後を追う準備を始めていた。


一方……荒野を数キロ程進んだ頃

アルフレッドの前方に見えてきた巨大なドーム状の『エネルギーシールド』


それは『黒之歯車(ブラック・ギア)』の本拠地と共に

アルフレッドの愛娘が住む平和な居住区

『セントラル・ガーデン』をもスッポリと覆う『絶対隔離防壁』であった。


シールドの手前には、本拠地を守るため

最新鋭の『浮上戦車(ホバー)部隊』と、数百の精鋭兵が立ち塞がっていた。


「来たぞ……! 『歩く厄災』のアルフレッドだ!」

「た、単騎だと!? 後ろに控えていたはずの小娘と機関銃の男はどうした!?」

防衛線の指揮官が、双眼鏡を覗き込みながら驚愕の声を上げる。


「まさか……我々程度の戦力なら、自分一人で充分だとでも言うのか!?

な……舐めるなよ!!」


指揮官が怒号を飛ばした瞬間、数十台の『浮上戦車(ホバー)』の主砲が

一斉にアルフレッドへと向けられる。


しかし、アルフレッドは微塵も動じず

ただ、静かに溜息を吐いた。


(……面倒くせえ。

普通なら『散弾(ショットガン)』で

まとめてスクラップにしてやるところだが……)


彼の視線の先には、シールドの向こう側にうっすらと見える

『セントラル・ガーデン』の美しい街並みがあった。


……第3ブロック、角から2軒目の白い屋根の家。

そこが、娘の家だ。


(ここで派手な爆発を起こせば

その衝撃波でシールドが揺らぎ、娘の家の窓ガラスが割れるかもしれない。

もしそうなったら――


『お父さんが来たせいで窓が割れた! 修理代払って! 同居は取り消しよ!』


――と、間違いなくブチ切れられる)


娘の怒りは、巨大組織のボスよりも遥かに恐ろしい

孫を抱かせてもらえなくなるという、究極の絶望が待っているのだ。


「チッ……精密作業(ストレスの溜まること)をさせやがって」


直後、アルフレッドはホルスターから魔改造リボルバーを抜き放ち

上部の『高圧縮照準レンズ』を覗き込んだ……だが。

狙うのは、敵の戦車本体ではない。


「全車、主砲発射ァッ!!」

指揮官の号令が下った瞬間


――「『Tap, Rack, Bang,』(タップ・ラック・バン)」――


アルフレッドの指が、引き金を連続で弾く。


ダンッ! ダンッ! ダンッ!


『魔力収束器』によって極限まで細く圧縮された光の針は

音もなく空気を切り裂いた。


直後、光の針は敵の『浮上戦車(ホバー)』が放とうとしていた

主砲の『砲身の中』へと正確に飛び込み

その奥の『暴発防止弁』だけをピンポイントで貫いた。


ボシュゥゥゥッ……!

ズガッ、ガキンッ!!


数十台のホバー戦車が一斉に奇妙な音を立て

主砲の先端から黒い煙を噴き上げて沈黙した。

爆発は起きない。ただ、武器としての機能だけが

完全に『去勢』されたのだ。


「な、なんだとォ!?」……指揮官がパニックに陥る。

「戦車の主砲が、全て同時に使用不能になった!?

ば、馬鹿な! 一瞬で数十個の砲身の隙間を撃ち抜いただと……!?」


「よし……次」


アルフレッドはシリンダーを回し、冷却蒸気を吹き出させながら、

無表情で前進する……今度の相手は戦車を降りて突撃してくる精鋭兵たちだ。


パァンッ! パァンッ!


放たれる光弾は、兵士たちの体を一切傷つけず

彼らが握っている銃の『撃鉄』と

腰に下げている『弾倉』だけを正確に弾き飛ばしていく。


「ひぃぃぃっ!」

「う、撃てない! 武器が!」


無傷のまま、完全に武装解除されていく兵士たち。

アルフレッドは一切の無駄な動き(有酸素運動)をせず

一定のペースで歩きながら、淡々と『武装解除の作業』をこなしていく。



「嗚呼(あぁ)……面倒だ」

(訳:嗚呼(あぁ)……肩が凝る。早く終わらせて、熱い風呂に入りたい)


……アルフレッドは内心で文句を垂れていた。


爆発させないために、娘の家の窓ガラスを守るために

針の穴を通すような精密射撃を強いられているのだ。

彼のイライラは募るばかりである……しかし

その『怒りを押し殺した無表情な精密射撃』の餌食と成った敵兵たちは

完全に心が折れていた。


「あ、悪魔だ……! 殺すことすら『面倒』だと!?

我々を生かしたまま、圧倒的な力の差を見せつけて恐怖を刻み込んでいるんだ!」

「奴は最初から、この街のインフラを無傷で手に入れるために

単身で来たんだ……! な、なんという恐ろしい帝王……!」


敵が勝手に絶望し、次々と膝をついていく。


そして、その後方――遥か遠くの岩山から

スコープでその様子を覗き見ていたカルメンとブラッドもまた、震えていた。


「見たかカルメン……親父さん、一切の爆発を起こしてねえ。

敵の命はおろか、街の施設に傷一つつけないために

あんな神業みたいな精密射撃を……!」

「ええ……。彼は、自分の命を削ってでも

この街の平和を守ろうとしているのよ。

……これじゃあ、私たちが手出しする隙なんてないわ」


『娘の家の窓ガラス割れと、同居取り消しへの恐怖』


それが生み出した執念の無血開城は

敵にも味方にも、究極の英雄的行為として神格化されていく。


一方……この後、アルフレッドは

一人、肩こりと青汁の後味に耐えながら

隔離防壁の入り口へと辿り着いた――

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