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第15話:『斬鬼』の双剣と、動かざるステーキの怨念

「オラァァァッ!!――」


鼓膜を破るような咆哮と共に、ヴォルフの巨体が空高く跳躍した。

太陽を背にし、二本の極太の光線剣が十字に交差する。

重装甲のサイボーグとは思えないほどの跳躍力とスピード。

そのまま隕石のように、アルフレッドの頭上へと落下してくる。


「――死ねェ、厄災ィッ!!」


必殺の十字斬り

回避しなければ、間違いなく両断されるタイミングだ。

しかし、アルフレッドは動かない。いや……『動けなかった』


(……速い。低血糖で目が霞んで、避けられる気がしねえ。

それに、ここで無理に横っ飛びなんかしたら

膝の軟骨が完全にイカれる……!)


初老の悲鳴を上げる関節と

ササミしか食べていないエネルギー不足の肉体。

アルフレッドは回避を諦め、その場にどっかりと両足を踏ん張った。

そして、腰だめに構えた魔改造ショットガン・リボルバーの銃口を

直上、落下してくるヴォルフへと向けた。


「馬鹿め! 散弾(ショットガン)程度の威力じゃ

俺の特殊合金アーマーは貫けねえぞ!?」

ヴォルフが勝利を確信し、醜悪な笑みを浮かべる。


「貫く必要はねえ……『押し返す』だけだ」

アルフレッドは撃鉄を起こし、引き金を引き叫んだ。


――「『Tap, Rack, Bang』(タップ・ラック・バン)」――


ドガァァァァァァァァァンッ!!!


上空に向けて放たれた、怒涛の光の散弾

その無数の光弾はヴォルフの装甲を貫通こそしなかったものの

凄まじい『物理的な衝撃波』となって彼の巨体を下から激しく打ち据えた。


「ぐおおぉぉぉっ!?」


空中で推進力を相殺されたヴォルフは

不様なカエルのように手足をバタつかせ

アルフレッドの数メートル手前にドスゥンッ!と墜落した。


「……ゲホッ、ガハッ! ……テメェッ!!!

あえて貫通力のない散弾を面で当てて

俺の落下エネルギーを相殺したってのか……!?」

ヴォルフが砂煙の中から立ち上がり、驚愕の声を上げる。


「親父さん、すげえ! 一歩も動かず敵の必殺技を無効化しちまったぜ!

まるで岩山のような不動の構えだ!」

ブラッドが歓声を上げる。


(違う。一歩でも動いたら貧血で倒れそうだったから

反動を利用して空中で止めちまった方が楽だと判断しただけだ)

アルフレッドは内心で毒づきながら、溜息を吐いた。


「舐めるなよ……!

遠距離からの小細工が通用しないと分かれば、次は接近戦だ!

テメェのそのデカい銃身ごと、スクラップにしてやる!」

ヴォルフが再び地を蹴り、這うような低い姿勢から突進してくる。

左右の光線剣が、アルフレッドの首と胴体を正確に狙い

猛スピードで振り抜かれた。


「……チッ。五月蝿いハエだ」


アルフレッドは巨大で重い自らの銃を盾のようにして

光線剣の『柄』の部分をガキンッ!と弾き返した。


「なっ……!? 俺の剣速に、銃の取り回しでついてくるだと!?」

「左右への無駄な動き(有酸素運動)は……腹が減るだけだ」


アルフレッドは最小限の動きだけで、ヴォルフの猛攻を次々と捌いていく。

右へ半歩、左へ半歩。上半身の捻りだけで剣の軌道を逸らし

カウンターでリボルバーの重い銃把(グリップ)を

ヴォルフの装甲の隙間に叩き込む。


「ガハッ……! き、貴様……なぜそこまで……!」

ヴォルフは恐怖を覚え始めていた。

目の前の男からは、一切の『焦り』や『必死さ』が感じられない。

ただただ虚無の瞳で、まるでベルトコンベアの不良品を弾くかのような

機械的で冷酷な『作業』を繰り返しているのだ。


「ふッざけッ!? ……こ、これが、欲を捨てた『修羅』の姿って事か!?

俺の渾身の剣撃が、一撃も当たらねえ……だと!?」

ヴォルフの見立てはまたしても間違っていた。

アルフレッドの脳内を支配していたのは、修羅の心などではない。


(『ビフテキ』……こいつ、毎晩ビフテキを食ってるって言ってたな)


ガンッ! と銃把(グリップ)を叩き込む。


(『赤ワイン』……いい身分じゃねえか。こっちは青汁だぞ?)


ガンッ! と膝裏を蹴り飛ばす。


(……『ササミ』『ブロッコリー』『大豆ミート』

俺の味わった絶望を、少し分けてやる……!)


低血糖と嫉妬が限界を超え、アルフレッドの攻撃に

『ドス黒い怨念』が乗り始めていたのだ。


「ひ、ひぃぃっ! や、やめろ……!

なぜだ、なぜ俺の心が読まれているように……!」

ヴォルフは完全に腰が引け、剣を振り回すだけの案山子(かかし)と化していた。


「……そろそろ『限界(めまいがピーク)』だ。終わらせるぞ」


アルフレッドはヴォルフの大振りの一撃をスッと躱すと

その懐に完全に潜り込んだ……そして

ヴォルフの両手首をガシッと掴み、強引に締め上げる。


「『Tap, Rack,(タップ・ラック――」


ボキィッ!! という鈍い音と共に、装甲ごと両手首をへし折ったアルフレッド

光線剣が手からポロリとこぼれ落ちる。


「ぎゃあぁぁぁっ! お、俺の腕が……!!」


「――Crack』(――クラック)」


ドンッ!


締め括る様に放たれた、超至近距離からの散弾

直後、装甲の隙間を的確に撃ち抜かれたヴォルフは

白目を剥いてその場に崩れ落ちた。


「ふぅ……少しカロリーの無駄遣いをした」


アルフレッドは大きく息を吐き出すと

地面に転がった二本の光線剣の『柄』を拾い上げた。

これこそが、光を極限まで圧縮する『魔力収束器』だ。


直後、彼は躊躇うことなく、自身の魔改造リボルバーの銃口

昨日取り付けたばかりのガトリングの拡散器(チョーク)の先に

その収束器をガコンッ!と強引に接続した。


ギチギチギチッ……!


『スナイパーの増幅器』『ガトリングの拡散器』そして『双剣の収束器』

もはやハンドガンの概念を完全に逸脱した

全長1メートル近い異形の兵器がそこに誕生した。


「す、すげえ……! 散弾の機構の先に収束器をつけたってことは……!」

ブラッドが息を呑む。


「ああ……テストだ」


アルフレッドは、遠く離れた崩れかけの岩山に向けて銃を構えた。


ドォォォォンッ!!


引き金を引いた瞬間、銃口から放たれたのは散弾ではなかった。

一度拡散しようとした無数の光弾が、収束器によって

『一本の極限まで細く、鋭い光の針』へと再圧縮され超音速で撃ち出されたのだ。


ズバァァァァンッ!!


その細い光線は、数キロ先の岩山を豆腐のように「貫通」し

その奥の地平線まで一直線に消えていった。


「強化徹甲弾(アーマーピアシング)……成功だ」

アルフレッドは満足げに頷いた。


「これなら……目の前にどんな分厚い壁やバリケードがあっても

迂回して歩く必要はない。真っ直ぐ撃ち抜いて、最短距離で進める……!」


(これで俺の膝は、守られる。

有酸素運動の時間も……これで大幅にカットできる!)


「お、親父さん……! 遂に

どんな強固な守りも貫く絶対の矛を手に入れたんだな!」


「ええ。これでもう、敵の要塞も紙切れ同然ね!……でもアル

あまり無理しちゃダメよ? ……はい! 戦闘後のプロテインバー(無糖)よ!」


カルメンから渡されたのは『木屑を固めたような』プロテインバー

アルフレッドは無言でそれを受け取り、遠い目をして荒野の空を見上げた。


『ビフテキ野郎』から奪った最強の武器。

しかし、彼の口の中は、今日も果てしなく『パサパサ』なのであった。

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