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第14話:武闘派の強襲と、壁抜き(サボり)への閃き

(パサパサのササミとブロッコリーが胃の中で膨れやがる……嗚呼(あぁ)。

身体が……鉛のように重い)


『オールド・ギア・タウン』を出発し

再び荒野の旅へと戻ったアルフレッドの足取りは、ひどく鈍かった。


(……力が出ねえ。炭水化物と脂質が決定的に足りてねえ。目が……回る)


ギラギラと照りつける太陽の下、ふらふらと歩くアルフレッド。

その顔はげっそりとやつれ、眼窩は窪み

まさに死神のような風貌に仕上がっていた。


「親父さん、すげえよ……」

背後を歩くブラッドが、震える声で囁く。

「この灼熱の砂漠を歩きながら、わざと極限の飢餓状態を作り出し

生存本能を限界まで引き上げているんだ……あの殺気

近づいただけで肌が切れそうだぜ……!」


「ええ。カロリーを削ぎ落として純粋な闘争心だけを燃やしているのね!

次の敵は相当な大物だと踏んでいる証拠だわ! 」

カルメンも真剣な表情で頷く。


(違う。ただ低血糖でフラフラしてるだけだ。

飴玉ひとつでいいから甘いものを寄越せ……)


二人のピントのズレた賞賛を聞き流す気力すらなく

アルフレッドは重い足を引きずり続けた。


その時である。


ズバァァァァァッ!!


突如、アルフレッドたちの前方数百メートルにあった巨大な岩山が

真横に「ズレた」……いや、正確には見えない極太の刃によって『両断』され

上半分の岩塊が轟音を立てて崩れ落ちたのだ。


「な、なんだぁっ!?」

ブラッドが慌てて機関銃を構える。


……銃口の先、土煙が晴れた後

崩れた岩山の上に立つ巨大な影……身の丈2メートルに迫る巨体。

重装甲に身を包んだその男の両手には

その身の丈ほどもある二振りの『光線剣(ビームソード)』が握られていた。


「ヒャハハハハ! 探したぜぇ、新帝国の皇帝陛下ァ!?」


スピーカーから響き渡るような大音声と共に、男――『斬鬼』のヴォルフは

崖の頂上から軽々と飛び降り、アルフレッドたちの数十メートル前方へと着地した。


瞬間、ドスゥンッ! と大地が揺れ

すさまじいプレッシャーが周囲を圧する。


「……う、嘘でしょ!?

『黒之歯車(ブラック・ギア)』の武闘派筆頭:斬鬼のヴォルフ!? 」

カルメンが顔を強張らせ、二丁拳銃を抜く。


「引っ込んでな、エロい嬢ちゃん……俺の獲物は

そこで腹を空かせたようなツラをしてる最強の『厄災』だけだ」

ヴォルフは二本の光線剣を交差させ

ギリィッ……と火花を散らしながら続けた。


「……聞いたぜ? アルフレッド。

テメェ、酒も煙草も女も断ち切って

全てを支配する『修羅』になったらしいじゃねえか。


だがな……俺は違う! 殺し、奪い、食い、犯す!

己の欲望のままに生きる『羅刹』だ!」


……ヴォルフの剣から放たれる高密度の魔力光線が、周囲の空気を歪ませる。


「禁欲の『修羅』と、欲望の『羅刹』!

どっちが裏社会の頂点に立つか、ここで決めようじゃねえかァ!」


熱気と狂気に満ちた、武闘派ならではの熱い宣戦布告。

しかし、アルフレッドの耳には全く別の単語しか入っていなかった。


(食い? ……『欲望のままに、食い』だと?)


アルフレッドの窪んだ目が、ギロリとヴォルフを睨みつけた。

「貴様……欲望のままに『食う』と言ったな? 」


「……ああ、言ったぜ?

俺は毎晩、血の滴るような極厚のビフテキと

最高級の赤ワインを浴びるほど胃に流し込んでるからなぁ!!」

ヴォルフが挑発するように大笑いする。


ピキィッ!


アルフレッドの中で、何かが音を立てて切れた。


(この野郎……俺は……俺は娘に怒られねえよう

味のしねえササミと葉っぱを

カートゥーンのウサギみたくモサモサ食ってるってのに。


……この鉄屑野郎は

『ビフテキと赤ワイン』だと?……)


理不尽な怒りと嫉妬が、低血糖の脳髄を急速に沸騰させる。


「許さん……」

地を這うような、怨念の込もった声。


「おおっ? やる気になったか厄災!

来いよ、俺の……全てを両断する『高密度・魔力収束剣』で

テメェの野望ごと真っ二つにしてやるぜぇっ!」


ヴォルフが自慢の剣を振りかざした、その瞬間。

アルフレッドの視線は、ヴォルフの顔ではなく

彼の手にある『剣の柄(魔力収束器)』に釘付けになった。


(ん……待てよ?

あの極太の光線を一本の刃に押し込める『収束器』

あれを俺のリボルバーの銃身に組み込めば

光弾の貫通力を限界まで高めた『強化徹甲弾』が撃てるんじゃないか?)


……アルフレッドの脳内に、悪魔的な閃きが走る。


(貫通力が上がれば、わざわざ敵の盾やバリケードを迂回する必要は無くなる。

ただ、障害物ごと一直線に撃ち抜けばいい……つまり。

これ以上……『歩き回る必要がなくなるッ!』)


ダイエットと疲労から逃れるための、究極の『サボり機構』。

その完璧なパーツが、今、ステーキと赤ワインの匂い(妄想)を漂わせながら

向こうから歩いてきたのだ。


「カルメン、ブラッド……手出しは無用だ」


直後、アルフレッドはホルスターから

魔改造ショットガン・リボルバーをゆっくりと抜き放った。

先ほどまでの虚ろな表情は消え失せ

眼光は獲物を狙う肉食獣のそれへと変わっている。


「おおっ、親父さんの顔つきが変わった!

宿敵の登場に、眠れる獅子が目を覚ましたんだ!」

ブラッドが興奮で拳を握る。


「……ステーキ野郎。

お前のその『収束器(パーツ)』……いや、お前の命

俺が……美味しくいただいてやる」

アルフレッドが舌舐めずりをする。


「上等だァッ! 斬り刻んでやるぜぇぇ!!」


……『極厚ステーキを食う男への怨み』と

歩く距離を減らすためのパーツへの強い執着を持ったアルフレッド。


己の欲望を、完全に別のベクトルで爆発させた両者の

全く噛み合わない死闘の火蓋が切って落とされた――

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