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第13話:増量された肉と、広がる『帝国の噂』

翌朝。『オールド・ギア・タウン』に、真新しい朝陽が差し込む。


「……ふむ」


アルフレッドは宿屋のベッドで目を覚まし、大きく伸びをした。


(昨夜の『食後の運動』のおかげか、久しぶりに熟睡できた。

何より、今日は素晴らしい日になるはずだ……なぜなら昨夜

寝落ちする寸前にカルメンが『明日はお肉の量を増やしてあげる』と言ったのを

この耳で確かに聞いたからだ。


……肉だ。

たっぷり脂の乗った、分厚い肉……ベーコンでもいい。

塩を親の仇のように振って、カリカリに焼いたやつを……!)


口内に溢れそうになる唾液を飲み込み

アルフレッドは弾むような足取り(膝の痛みも比較的マシ)で

宿屋の1階にあるダイニングへと向かった。


テーブルには、すでにカルメンとブラッドが座り

湯気を立てる皿を用意して待っていた。


「おはよう、アル! 昨夜の戦いぶり、最高だったわ!」

「親父さん。よく眠れたかい?

さあ、約束通り『肉を増量した』特製モーニングだぜ!」


ブラッドが、アルフレッドの前に銀色のカバーがかけられた皿を置く。

アルフレッドの鼻腔がピクピクと動く。だが……


(おかしい。肉が焼ける香ばしい匂いも、食欲をそそる脂の匂いも一切しない)


……嫌な予感を覚えながら、アルフレッドはカバーを開けた。


「……」


そこに鎮座していたのは、山盛りの

「鶏のササミ(完全ボイル・味付けなし)」と、大盛りのブロッコリーだった。


「ほら、昨日の倍の量のお肉よ!

筋肉の修復には高タンパク・低脂質のササミが一番だもの♪」

カルメンが満面の笑みでウインクする。


アルフレッドは無言でフォークを手に取り、ササミを突き刺した。

一口齧る……口の中の水分が全て奪われるような、パサパサの極み。

味は、ない……限りなく無に近い。


(……俺は、昨夜数百人のならず者を相手に無双したんだぞ?

この街を救った英雄なんだぞ? その報酬が、味がしない胸肉の倍盛りだと……?)


アルフレッドの背中から、どす黒いオーラが立ち昇る。


「おおっ、親父さんの気迫がすげえ! 朝から闘気に満ち溢れてるぜ!」

「ええ。ササミを咀嚼しながら、次の作戦のシミュレーションをしているのね!

無駄のない動き……まさにプロフェッショナルよ」


(違う、喉に詰まりそうだから必死に顎を動かしてるだけだ……水、水をくれ)


アルフレッドは涙目で白湯を飲み干し

なんとかササミとブロッコリーを胃に収めた。

娘の『ダイエット指令』の監視役として、この二人はあまりにも有能すぎたようだ。


――その頃、所は変わり

『オールド・ギア・タウン』から遠く離れた

裏社会を牛耳る巨大組織『黒之歯車(ブラック・ギア)』の本拠地では

重苦しい空気の漂う緊急幹部会議が開かれていた。


巨大な円卓を囲むのは、各地区を束ねる凶悪な顔つきの幹部たち。

その中央に置かれたモニターには

昨夜の『オールド・ギア・タウン』での惨状

アルフレッドが放った一撃の散弾によって

数百人の武装勢力が地面を転げ回る映像が繰り返し流されていた。


「……信じられん。たった一発の拳銃で

我が組織の一個大隊を無力化したというのか」

「驚いたことに、死者はゼロだ……見ろ、全員の急所を的確に外している。

これが伝説の『歩く厄災』の力か……!」


幹部たちが冷や汗を流しながらざわめく中

上座に座る組織のボスが重々しく口を開いた。


「皆の者、事態は我々の想像よりも遥かに深刻だ。

アルフレッドは、かつてのように酒と葉巻を嗜む享楽主義者ではない。

完全に欲を捨て、己の肉体と精神を修羅の領域にまで高めている」


ボスは机を叩き、更に続けた。

「奴の目的は単なる復讐ではない。

あの圧倒的な武力を背景に、敵対者を『生かしたまま』恐怖で支配し

この裏社会全土を巻き込んだ巨大な帝国を築き上げるつもりなのだ!」


「な、なんだって……!?」

「でっ……では、奴のあの『殺さない』戦い方は

慈悲ではなく……絶対的な力の差を見せつけ

心をへし折るためのものだというのか!?」


……幹部たちの間に、かつてないほどの絶望と恐怖が伝染していく。

まさか、当のアルフレッド本人が『娘に怒られたくないから』

『殺すより後処理が楽だから』という理由で不殺を貫いているだけとは

神も……悪魔ですら思い至らないだろう。


「なぁボス……俺に行かせてくだせぇ」


だが、そんな中……恐怖に染まる会議室に

冷たく……そして狂気に満ちた声が響いた。

円卓の隅に座っていた男が立ち上がる。


身の丈2メートルに迫る巨体。

全身を覆うのは、銃弾を弾き返す特殊合金の重装甲。

そして彼の背中には、身の丈ほどもある巨大な

『光線剣(ビーム・ソード)』が二本、交差するように背負われていた。


「ほう、武闘派筆頭『斬鬼』のヴォルフが動くと言うか……」


ボスの言葉にヴォルフは口元を歪め、獰猛な笑みを浮かべた。

「スナイパーのヴァイパーも、ガトリングのザックも

所詮は遠くから小石を投げるだけの臆病者。

あの厄災の首を獲るには、肉薄して叩き斬るしかねぇです」


ヴォルフが背中の剣の柄に手をかけると

高圧縮された魔力がジリジリと放電し、周囲の空気が焦げた匂いを放った。


「帝国だろうが何だろうが、俺の双剣で真っ二つにしてやらぁ。

奴が欲を捨てた『修羅』だと言うのなら、俺は欲に塗れた『羅刹』として

奴の首をこの円卓に持ち帰ってやるよ!」


……最強の近接戦闘者による、アルフレッドへの宣戦布告。

しかし、ヴォルフもまた知らなかった。

己の振るうその『極太の光線剣』を生み出す『魔力収束器』が

アルフレッドの次なる『リボルバー強化計画』の

ターゲットにされる運命にあることを。


……巨大な『勘違い』の渦は、次なる刺客を巻き込みさらに加速していく。

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