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第11話:広がる凶悪な噂と、安眠への妨害

『大豆ミートステーキ』そして『青汁』という

精神のすり減るディナーを終えたアルフレッド。


続いてカルメンとブラッドに連行された先は

『オールド・ギア・タウン』の中心部にある『清らかなる泉亭』という

ならず者の街には似つかわしくない健全な宿屋だった。


「おやすみアル♪ 明日も早いから、確り睡眠をとるのよ?」

「見張りは俺たちで交代するから、親父さんは朝までグッスリ休んでくれ!」


……二人に爽やかに見送られ、自室のベッドに横たわるアルフレッド。

部屋へのアルコールやタバコの持ち込みは原則禁止。

備え付けのハーブティーの香りが、彼の神経を逆撫でする。


「チッ……眠れるか」


暗闇の中で、アルフレッドはギンギンに目を見開いていた。

胃袋は「もっとカロリーを寄越せ」と暴動を起こし

血中のニコチン濃度は底をついている。

おまけに今日一日で崖登りに魔改造、サイボーグの解体と

初老の体にはキツすぎる肉体労働をこなしたのだ。

体は疲労困憊なのに、神経だけが異常に昂ぶっている。


(せめて、葉巻の匂いだけでも……)


アルフレッドはコートのポケットを探ろうとしたが

コートはカルメンによって「汗と硝煙の匂いが染み付いてて不衛生だから」と

隣の部屋で『電磁クリーニング』にかけられていた。


スキットルも葉巻も、その中だ。


「く……っ!」


アルフレッドは枕に顔を埋め、声にならない叫びを上げた。


(娘よ、俺は本当に……本当に生きてお前の家に辿り着けるのか……?)


一方、その頃……アルフレッドの隣の部屋では

カルメンとブラッドが深刻な顔で話し合っていた。


「……街の様子がおかしいのよ。

情報屋に探りを入れたんだけど、妙な噂が広まってて……」

カルメンがタブレット端末をスワイプしながら言う。


「妙な噂って?」

「それが――


『伝説の殺し屋アルフレッドがこの街を占拠し

己の帝国を築き上げるために乗り込んできた』


――って」


「な、なんだって!?」

ブラッドが素頓狂な声を上げる。


「今日、アルが街の門で守備隊を一掃し

路地裏で『マッド・ドッグス』のザックを瞬殺したでしょ?

しかも、極限までストイックに食事制限をしたまま

恐ろしいほどの集中力を保って……で、それを見た街の裏社会の連中が

『あれは本気で戦争を起こす気だ』と勘違いして

パニックになってるみたいなのよ……」


「なるほど……親父さんのあまりのストイックさと圧倒的な力が

勝手に敵の恐怖を煽ってるってわけか。流石だぜ……!」


カルメンの報告通り、実際

『オールド・ギア・タウン』の裏社会は未曾有のパニックに陥っていた。


「あの『歩く厄災』が、欲を捨てて『修羅』になった!」

「俺たちを皆殺しにして、恐怖による独裁を始める気だ!」

「やられる前に、やるしかねえ!!」


……そんな噂が噂を呼び、影から街を牛耳る頭目のもとへ

血の気の多いギャングや暗殺者たちが続々と集結しつつあった。


しかし、当の『ストイックな修羅』はといえば。


「腹減った……塩……肉……」

ベッドの上でミノムシのように毛布にくるまり

空腹とニコチン切れの禁断症状で

ガタガタと震えているだけであった。


……深夜2時。

ようやく、アルフレッドの疲労がストレスを上回り

まどろみの中に落ちようとしていた、その時。


ドゴォォォォンッ!!


宿屋の1階部分が、凄まじい爆発音と共に吹き飛んだ。


「な、なんだぁ!?カルメン……何処だぁっ?! 」

「こっちよ馬鹿! ……敵襲よ! 数が多すぎるわ!」

部屋から大慌てで飛び出したブラッドとカルメン……窓の外を見ると

宿屋の周囲を数百人の完全武装したギャングたちが幾重にも包囲していた。

直後、サーチライトの光がアルフレッドの部屋を容赦なく照らし出す。


「アルフレッドォ! 貴様の野望もここまでだ!

街を乗っ取られる前に、ここでハチの巣にしてやる!!」

拡声器を使った頭目の下品な声が響き渡る。


「……」


アルフレッドは、ゆっくりとベッドから身を起こした。

その姿は『シャツとスラックス』という余りに無防備な格好。

しかし、その全身から立ち昇るオーラは

暗闇の中でもハッキリと見えるほどに黒く、そして淀んでいた。


(……『大豆ミート』と『青汁』の地獄を抜け

ようやく訪れた、安眠のチャンスを……)


……身に覚えのない『野望』とやらで安眠妨害された事が原因か

ギリッ、とアルフレッドの奥歯が鳴る。


一方「親父さん、無事か!?」

隣の部屋から壁を突き破る勢いで飛び込んできたブラッドが

窓の外の包囲網を見て青ざめる。


「ダメだ、完全に囲まれてる!!

親父さん! ここは一旦引いて態勢を立て直そう!」


「そうね……アル、コートと銃よ!」

直後『クリーニング済み革コート』と共に

魔改造リボルバーをアルフレッドに向かって投げ渡したカルメン。


アルフレッドは無言で受け取り、コートを羽織った。

だが……その瞬間、彼の眉間にもう一本深いシワが刻まれる事となった。


(何だこの……甘ったるい花の香りは……)


カルメンの気遣いによって『電磁クリーニング』されたコートからは

彼が長年愛用してきた硝煙と安葉巻の匂いが完全に消え去り

代わりに『お花畑のような香り』が漂っていた。

これが、極限状態のアルフレッドの神経を逆撫でする最後のトドメとなった。


「……引く必要は無い。

睡眠不足は自律神経を狂わせ、肌にも悪い。

医者が……そう言っていた」


直後、一切の感情を排し虚無の瞳を浮かべ

一切の躊躇なく、目前の窓ガラスを蹴り破ったアルフレッドは――


ガシャァァァンッ!!


――砕け散るガラス片と共に

夜風の吹き荒れるバルコニーへと躍り出た。


フローラルな香りを漂わせた革コートが

覇者のマントのように翻る。


「出たぞ! 厄災だ! 撃てェェェッ!!」


……拡声器越しに発せられた頭目の絶叫と共に

眼下を埋め尽くす数百の銃口が一斉にアルフレッドに向けられる。

夜空を真昼のように変えるほどの、閃光と硝煙の嵐が巻き起こる直前

アルフレッドは微塵も動じず


カチッ


と撃鉄を起こし――


「子守唄の時間だ……散り倒せ」


――怒り、空腹、睡眠欲

全てが限界突破したアルフレッドは、引き金を『深く』引いた――

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